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ユーリと春の姫君  作者: 丸谷 エイト
ユーリと満月の夜
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第5話

 

 ユーリ達は夜明けと同時に出発した。魔術を使えば、夕方前には山脈に最も近い村に着くだろう。


 ユーリはシオルをちらりと見た。昨日の張り詰めた感じは消えておらず、あまり眠れなかったようだ。目の下にクマができている。


 やっぱりシオルだけでも、村に宿をとったほうがいいかな。


 ユーリ達は村には今夜は村には入らないつもりだった。ユーリ達は野宿には慣れているが、シオルは違う。宿が取れるならゆっくり眠らせてあげたかった。


 リアムは黙々と馬を走らせているし、シオルはこちらを見ようとしない。ユーリは、久しぶりの満月の日だというのに沈んでいた。



「大丈夫かな、シオル。」



 小声でつぶやく。



「大丈夫だ。単身で魔女に挑もうとする奴が、そう簡単に折れたりしないだろ。」



 アルが答えた。その声音に昨日のことを責める響きはない。むしろ、少し優しい気がした。


「へー、珍しいね。アルが他人を気にいるなんて。」



 にんまりと笑いを浮かべて言ったが、アルはどこ吹く風という程だった。


「そうだな。久しぶりに気骨のある奴を見た。」


 ユーリは驚いた。アルが他人を褒めるなんて久しぶりだ。



「昨日の魔物との戦いを見ていたんだが、魔術の使い方がうまかった。流石あの爺さんの弟子なだけある。俺らがいなくても、一人で乗り切ったかもしれんな。」



「そんなになの?凄いね。私と変わらない年なのに。」



「魔導士になるのも近いかもな。まあ、魔術師として優秀だからといって、魔導士になれるとは限らないが。」



 ユーリは純粋に嬉しくなった。基本的に人との関わりを忌避するアルが、こんなにも、他人に興味を示したことに。


 喜んでるユーリを横目に見るアルの表情が、少し落ち込んでいたことに気づける者はいなかった。


















 シオルにとって、距離的には人生最長の馬上の旅はたったの2日で終わろうとしていた。日が西に傾きかけたころ、村のすぐそばまで到着したのだ。シオルは村に入ろうと馬を進めようとした。



「村には入らない。今夜はこの付近で野宿して、明日の夜に情報収集をしてから山に入る。」



 シオルは驚いた。泊まれる場所があるのに、野宿をする意味がわからなかった。南の山脈に近いこの場所では、魔獣の出る確率も高い。いくらリアムが凄腕の傭兵だからといって、避けられる危険を回避しようとしない意味がわからなかった。それに、



「なぜ明日の夜に山に入るのですか?今夜は満月です。闇の力が弱まる夜。今から情報を集めて、今夜行くべきでは?」



「ごめん。事情があるんだ。兄さん、シオルだけでも、村に泊まってもらったほう良いと思わない?」



 ユーリが申し訳なさそうに言った。しかし、その言葉はシオルを苛立たせるものだった。



「何を考えてるのか知りませんけど、あなたたちについて行かせていただきますわ。」


「シオル、良いの?」


「良いも何も、まあ、ついて来てほしくないというなら話は別ですが。」



 ユーリが首を横に振った。



「ついてきてくれると嬉しいな。約束した通り話したいことがあるし。」



「話したいこと?」


 シオルはユーリが言っていたことを思い出した。


 そういえば、満月の夜にアルについて説明するとか言っていたような。



「まあ、事情があるなら構いませんのよ。さっさと野営の準備をしましょうか?」



 シオルの言葉を聞いて、リアムが野営の準備を始めた。






 アルとリアムが行ってしまったため、シオルとユーリの二人きりになった。


 ユーリが沈黙を破った。



「今夜山に入らないのはね、満月の夜はアルが魔法を使えなくなるからなんだ。」



「なんですって?」


 シオルは驚いた。その理由を一つしか見つけられなかったからだ。そして、それはあまり口に出したいことではなかった。



「やはり、アルは闇の生き物ですの?魔獣ではないのはわかりますが。」



 シオルの問いかけに、ユーリは曇った顔をして、つぶやく。



「やっぱり、黒は怖いよね。」



 本当に悲しそうな顔だった。シオルはユーリを慰めたくて、慌てて弁解した。



「確かに、闇の生き物に忌避感を抱くものは多いです。しかし、アルは魔獣ではない、知性を持つ生き物でしょう?しかも、あなたに従っている。それならば恐れる理由は」



「違うの!」



 ユーリがシオルの声を遮った。



「違うの。アルは闇の生き物じゃないの。いや、闇の生き物といえばそうなんだけど。」



 ユーリの言葉はシオルを混乱させるだけだった。闇の生き物であって、闇の生き物でないとはどういう意味が、全くわからなかった。



「それはどういう意味ですの?もっと、わかるように説明してくださる?」






「それは、俺が人間だってことだよ。」







 シオルの問いに答えたのは、ユーリではなかった。シオルが驚いて振り向くと、シオルの背後に、見知らぬ青年が立っていた。


 その色を見て、シオルは言葉を失った。





 その青年はあると同じ漆黒を纏っていたのである。




 漆黒ーそれは闇の帝王の色





 魔導大戦時において、漆黒を持つ人々は闇の帝王に従ったという。ただ一人の例外もなく。特に、漆黒の魔術師と魔導士は人々にとって、大きな脅威だった。並の魔術師では対抗できず、魔導士ですら、漆黒の魔術師に負けることがあった。





「あなたは、何者なの?」





 つぶやいた声は震えていた。









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