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ユーリと春の姫君  作者: 丸谷 エイト
ユーリと満月の夜
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第3話

 


 ユーリ達はたった1日で、普通なら1週間近くかかる距離を走破しようとしていた。それもそのはず、風の魔術でスピードを上げるだけでなく、夜も休まず移動したのだから。


 出発してから2日目の夕方頃、風の魔術の効果が切れた。もう既にあと少しのところまで来ていたが、野営をすることに決めた。


 1日中馬を走らせたのだ。リアムは平気そうだが、ユーリとシオルはぐったりしていた。シオルも、途中から自分の馬に戻っていたから、初めての経験に疲れているだろう。




「野営の準備をしよう。俺は薪を拾ってくる。ここは頼んだ。」




 リアムはそう言って山の中に入っていった。

 ユーリは慣れた手つきで野営の準備を始めた。それを横で疲れた顔のシオルが見つめていた。


「慣れているのね。」



 シオルがつぶやく。



「そりゃ、ずっと旅をしているからね。」



「そう、すごいのね。」



「あれ、シオルのことだから、そんな卑しい暮らししかできないなんて、とか言うかと思ったけど。」



 シオルがユーリの発言に怒ったように言う。



「あなた、いったい私をなんだと思ってるの。あなたのお兄さんのことは知ってるし、そんな風に思ったことなどないわ!」



「冗談だよ。会った時も、すごいこと言ってたけど、本当はそんなこと思ってなかったんだよね?シオル、素直でいい子だもん。」



「なっ、褒めても、何も出ませんわよ。全く、あなたといると調子が狂うわ。」




 顔をまた赤くしたシオルが、ユーリを手伝い始める。




「シオルは本当にすごいよ。あの風の魔術の中で馬を操るのは難しいのに、すぐできるようになったじゃない。」



 ユーリは素直にシオルを凄いと思っていた。



 王女として暮らしていたのだから、馬で長い距離を走らせたことも、野宿をしたこともないはずだ。



 一つも不満を言わないなんて。本当にすごい。



 そう思っているユーリに、シオルが微笑みながら言った。


「師匠に連れまわされて、国内ならいろいろなところに行ったことがありますの。野宿も何度かしたことがありますわ。」


「そうなんだ。」


 会話が途切れる。ふと、ユーリはシオルに言いたかったことがあったのを思い出した。


「そういえば、シオル。」


「なんですの?」


「その話し方って、堅くない?」


 シオルが絶句している。確かに、王女に砕けた言葉は似合わないかもしれないが、


「せっかく友達になったんだから、もっと気楽に話そうよ。」



「友達?」


「そう、友達。違う?」


「いえ、そんなことを言われたことなかったから驚きましたの。なんだか、照れくさいですわね。」


「堅いよ。ほらもっと気楽に気楽に。」


「善処しますわ。」


 シオルが先ほどとは違う笑みでこっちを見た。なんだか、照れているみたいだった。


「私、同年代の友達ができるの初めてですのよ。」


 ユーリも照れていた。


「実は、私もなんだ。」


 シオルが意外なことを聞いたという顔をする。


「兄さんの仕事の関係でさ、いつも旅に出てたし、なかなか、女の子と関わることとかなかったしね。信じられる?魔導士の知り合いの方が多いんだよ。」


「普通ならありえませんわね。まあ、わたくしもですが。」


 二人で顔を見合わせて笑った。






「そういえば、あなたの鷹はどこに行きましたの?」


 シオルが問いかけた。野営の場所を決めた時、アルは一人で先行したのだ。


「周辺の偵察に行ってると思うよ。」


「一人で大丈夫なんですの?」


「大丈夫だと思うよ。アルは魔術師を使えるし。」


「魔術を?」


「そうだよ。」


 不思議に思うのも仕方がないだろう。魔術は人間が使うものだ。魔力持ちが魔術を使ったという話などない。


「あの鷹は、アルは一体何者なんですの?」


 シオルが恐る恐るといった感じで述べた。確かに、あの色だから、恐怖を感じるのは仕方がないだろう。


「明日は満月だね。」


「えっ?ああ、そうですわね。」


「アルに関しては、本人から聞いたほうがいいよ。」


 ユーリは意味深に微笑んだ。

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