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ユーリと春の姫君  作者: 丸谷 エイト
プロローグ
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プロローグ

初連載です。温かく見守ってくださると嬉しいです。

 

 遥か昔のこと、 神代と今は呼ばれる時代、神と人間の王の間に契約がなされた。契約は、神が人に力を与えるかわりに、人は神を崇め、聖域を守り続けるというものだった。神との契約の証として、人々の間に、不思議な力を与えられた者たちが生まれた。彼らは炎を操り、水を鎮め、風のように舞い上がり、土によって様々なものを作ることができた。しかし、彼らの力はとても不安定だった。与えられた力暴走させた者たちによって、各地で災いが起こった。それを哀れんだ神は、力を与えられた人々に、神の名の一部を貸し与えることにした。こうして、人々は魔力と神名を手に入れたのである。神名を手にした者たちはいつしか魔道士と呼ばれるようになった。契約を、聖域を守る存在として魔道士は生まれたのである。決して、私利私欲のために魔力を使ってはいけない。これは魔導士の掟である。


 忘れる事なかれ 神との契約

 忘れる事なかれ 神の慈悲

 忘れる事なかれ 己の使命


                              『魔導士の掟』著者不明













 月の輝きさえも届かない漆黒の夜の世界、人の気配のない場所にその女はいた。


「まぁ、またずいぶんと可愛いお客さんが来たわねぇ。しかも、こんなにたくさん。おいで、歓迎してあげる。今夜は素敵な夜になりそうね。」


 男を狂わす美貌、貪りたくなる妖艶な唇、思わず動きを止めてしまう美しい声、そしてまるで月のような美しい瞳。漆黒の闇の中、彼女だけが輝いていた。彼女より美しいものがこの世にあるのだろうか。誰もが、虜になる魔性の女。彼女に捕らえられない男などいやしないだろう。谷に住むという魔女を退治に来た精鋭騎士団でさえ捕らえられてしまうのだから。

 


 国境付近の南の谷に魔女が出るーその噂がリリス王国の王宮まで届いたのはついこの間のことだ。噂によると、魔女はとても美しく、強い魅了の魔法を使うと言われていた。とは言っても、谷で行方不明になったのはほんの数人。目撃者もない話だった。


 噂が届いた当初、真偽のほどが確かではないとして、王は騎士団派遣要請をはねのけたが、王妃の、夫を奪われた妻たちの気持ちを思って欲しいという懇願と、場所が南の山脈 ー 最も闇の帝国に近い場所 ー だからという理由で、騎士団の派遣が決定した。指揮を任されたのは王太子である第一王子だった。神名を得ることはできなかったが、優秀な魔術師であり、人格者でもあるとして、民からとても慕われている人物だ。


 騎士団の精鋭部隊とともに、南の山脈へと旅立ったのが2週間程前の事だ。そして、近隣の村で聞き込みをし、魔女が現れると言われる夜、谷に踏み込んだのだ。警戒を怠っていたわけではない。だが、噂を信じていなかったのも確かだ。誰が思うだろう。魔道大国リリス王国精鋭部隊が、一瞬で魅了の術に落ちるなど。ただ、見た、というだけで。



「騙されるな!こやつこそがこの谷にすくう魔女だぞ!気を確かにもて!」


 若草色の瞳の整った顔立ちの青年が叫ぶ。彼こそがリリスの王子であった。優秀な魔術師である王子は、かろうじてだか意識を保つことができていた。しかし、彼の叫びに応える声はない。他の者たちは、すでに彼女にとらわれ膝をついていた。みな、恍惚とした表情で魔女を見つめている。何とか味方を励まそうとする王子も、意識を保つのがやっとだった。


「忌々しい魔女め・・・僕は・・・けして・・・そんな誘惑などには・・・屈しない・・・・」


 とぎれとぎれにそう叫ぶ王子。魔女は王子を見つめ、妖艶に微笑んだ。


「あら?もしかしてやっと当たりが来たのかしら?いらっしゃい、かわいそうな王子様。貴方を待っていたのよ。これで我が君も喜んでくださるに違いない。」


 王子は愕然とした表情でつぶやいた。


「待っていたとはどういうことだ・・・。最初から仕組まれていたと?我が君とは・・・まさか・・・。」


 魔女は動けない王子に近づき、唇に指を当て、魔力を込めた。


「そんなに焦らなくていいのよ。お楽しみはこれからなんだから。だから今は、おやすみなさいな。」



 そう言って極上の笑顔を見せた彼女の前では、王子が膝をつき、焦点の合わない瞳で彼女を見つめていた。


 



 リリス王国の第一王子が行方不明になったという知らせが大陸をかけめっぐた。この時は誰も信じなかっただろう。これが新たな戦いの、新たな伝説の幕開けになるとは。


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