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幻想害獣譚  作者: 犯人
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鳥仮面の依頼とアルトの過去

 それは、唐突な話だった。

 何度目かの礼拝堂での治療。その日は、アルトとは都合が合わず二人一組での行動ではなかった。礼拝堂の鳥仮面は、僕の包帯を外して傷の様子を見る。そして傷は完治しました、治療は今日で終わりですと告げた後で言ったのだった。

「明日、荷物持ちとして私についてきてください」

「いいですけれど、どこまで?」

「らい病患者の隔離区域です」

僕が言葉を失ったのは、言うまでもない。

「えっと、あの」

顔がひきつっているのがわかる。

「なんて顔をしているのですか。あの病気は、伝染なんてしません。恐れられているのは誤解によるものです」

「天啓ですか」

「天啓と、実例です。その区域はシバサ司祭と、イスキリ辺境伯の協力で設定されてものです。その区域への視察は、私が任されています。これまでに何度もその区域を訪れましたが、私に伝染はしていません」

イスキリ辺境伯。確か名前は、ティホン・フラカス卿。下層の農村出身の僕では名前くらいしか知らない。偉い人なんだろうけれど、要は税を取る人の親玉だ。

「普段は……」

「今回は不定期の視察なので、普段の荷物担当は任務に出ています。安全ですから、諦めてついてきてください」


 そんなわけなのだと、僕はアルトに相談していた。話を聞かされた日の、夕暮れ。組合の建物に併設されている宿舎での事だ。

「そいつはお気の毒様」

アルトは、僕の深刻な話をそう受け流した。

「気の毒といってくれるのはありがたいんだけれど、何か手はないものかと」

「そういう区域があるって事は、感染しても行き場があるって事だろ」

だいじょーぶだいじょーぶと言って、アルトが手をひらひらと振る。

「アルトも僕と、二人組みになってるんだから危ないだろ。真面目に考えてくれ」

「いや、それはねぇよ」

「なんでさ」

「今回の鳥仮面の頼みは、組合とは関係ないかんな。俺も、明日単独で任務があるし」

「交代して」

「そうはいかんだろ。なんだ、傷を水で洗うのは受け入れた割りに、今回は妙に抵抗するな」

「それは、それだよ。隔離区域に行くのもそうだけれど、あの鳥仮面と二人でってのが」

「急に怖くなったわけか。区域の側までは、徒歩か?」

「少し、距離があるから馬車だって。区域の外周ぎりぎりまで」

「ははぁ、お前を逃がさない気だな。そういう事なら、御者は鳥仮面の部下かなんかだろ」

「だから助けて」

そうは言ってもな、と言ってアルトは頬を掻く。

「前後衛隊長達へはどうだ? 新入りは大事にするって話だから危なけりゃ止めてくれるだろ」

「二人とも大丈夫だから、行けって」

「じゃぁ、もう打つ手はねぇよ。組合側までそういうなら信じとけって。逃げたって行くとこないんだろ」

「うぅ……」


アルトに向かって、いまさら身の上話もない。農村から出てきて、害獣駆除組合に入っただけ。小さい頃に村がゴブリンの被害を被った時に、組合の活動を見た。それを当世の英雄と勘違いして。それで、両親の制止を振り切って出てきた、おのぼりさんだ。たしかに、僕に逃げ場は無い。

「まぁまぁ、そう心配しなくていいだろうよ。地味で危険な害獣駆除組合に新兵は貴重だって言われただろ。実際、大事にされてるし。そうそう死地に向かわせたりはしねーよ」

「訓練、やたら厳しいけれどね」

「あそこを甘くやったら死ぬだろう。そういう意味でも、あの熱心さは良いんだよ」

「アルトは、他で訓練を受けた事があるような口ぶりだね」

「訓練だけなら。まぁ、ごく軽くな」

アルトの方は、身の上話をしない。いつも、なんだかはぐらかされてばかりだ。出身も知らない。話してくれてことがない。

「ところでさ」

「ん」

「その話。訓練受けたって話、聞きたいんだけれど」

「一寸した訓練を受けた事があるってだけだよ。別にたいした事じゃないさ」

こんな話をすると、アルトはいつも会話を打ち切ってしまうのだ。

「一寸まってよ、僕の事ばかりそっちが知っているって考えてみたら一寸気持ち悪い。もう少しアルトの事を聞かせて欲しいんだけれど」

「エドワよう。本当に今日のお前は変だぞ」

「まぁ、これが最後の会話になるかもしれないからね」

「そんな事はないと思うんだがな」

そう言いながら、アルトは僕の目をじっと見ている。溜息一つの後に、続く言葉を吐き出した。

「本当につまんねぇぞ」

「うん」

「俺の出身は、ここだよ。イスキリ。まぁ、そうは言っても城壁の外側だ。貧民窟ってやつだな」

「あぁ、そうだったんだ。妙に、都市に慣れている感じがしてた」

「そうは言っても、壁から中には入る事は、あまり無かったけれどな。俺も、そこでずっと暮らすもんだと思ってたんだ。貧民窟の生活は説明するまでもないよな。おれも思い出したくないし」

「あぁ、うんわかるよ」

「三年前かな。そこで伝染病が発生したんだ」

「コレラとか、ペスト?」

「いや、天然痘だった。それでな、てっきり俺達は貧民窟ごと焼却されるもんだと思ってたんだよ」

「うん、封鎖しておいて火をかけるって聞いた事がある」

「そんで、逃げる算段してたんだよ。そしたら、お偉いさんが直に貧民窟まで来て言うんだ。出来る限り治療するから逃げるなって」

「へぇ、そんなこともあるんだ」

「俺達も、信じなかったんだよな。それで、逃げる道だけ確保して遠巻きにそいつを見てたんだ。そいつが言うにはな『殺そうとするから逃げる、逃げるから広まって惨事になる。だから、治療するのが一番被害が少なくてすむ』とこんな具合だったんだ」

アルトは、頭に手を当てる。当時の事を思い出そうとしているのか。

「それで、俺はまだ伝染していなかったんで、同じように伝染していない連中と同じ家に一旦閉じ込められてな。二週間待てと言われたんだ。閉じ込められた時は、騙されたと思ったがな。食料や水は届くし、鳥の嘴みたいな仮面をした奴が来て色々、俺達の体を弄くっていったんだ」

「それで、あの鳥仮面のことを?」

「あぁ、それで知ったんだ。あれが医者の仮面だってな。その後は、どこか別の農村みたいなところに移されてた」

「どの辺りかな?」

「わからん。俺達の人数が少ないこともあって、ぼろい馬車に乗せられてたからな。そんな状態でも、方角を知る技術なんかもあるっていうが俺は知らんからな」

僕は、いつのまにかアルトの方に乗り出していた体を椅子の上に戻した。馬車を使って移動させたのは、アルト達の体力が落ちていたからか。それとも、村の場所を隠匿するためか。

「そこでの療養生活の後で、そこの神父様に預けられてな。一応の礼儀作法と、自衛できる程度の武器の扱いを仕込まれたんだ。後は、お前さんの知っている通り」

「礼儀作法は、身につかなかたんだね」

「んー。必要なら使ってたんだろうが、この組合ではそうでもないからな」

忘れたんだ。とアルトは笑って言った。

「もう長くなったし、こんなもんでいいかい?」

アルトの言葉に、僕は頷く。

「有難う。最後に、貧民窟はどうなったのかわかる?」

「こっちに帰って来る頃には、撤去されていたよ。患者は、助かったり駄目だったりしたらしい。俺の親父なんかも駄目だったと」

「そか、御免」

「なに、わざわざ死んだのを知らせてくれただけ親切なもんだ。俺を含めて助かった連中は都市内部での仕事を斡旋された。案外その頃の連中も、周りに居るんでな。たまにお前に知らせないで出かけるのはそれだ」

「そうだったのか。分かった有難う」

「おう。任務があるから、もう休むぞ。そっちも気をつけてな」

「うん、おやすみ」

その日は、アルトの事を少し聞けた日になった。いくつかの疑問点は、また今度、機会を捉えて問い詰める事にしよう。笑って答えてくれるだろうか。


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