後日談@異世界 8月13日の裏話
いつもの様なつぶやき式ではありません。
セバス視点になります。
これは次話に続いていますが、この話単体でもお楽しみ頂けます。
「セバス、少し協力してほしい事があるんだ」
「はい。何でしょうか」
主はそうおっしゃるといつしか見たあのケータイに似た何かを取り出されました。
「一応魔法版でケータイを再現してみた。原理がめちゃくちゃだしこの二台の間でしか通信できそうに無いけど。いや、むしろ初期電話の小型版か。まあとりあえず、試してみたいからこれもってジャンの所に行ってほしいんだけど」
「承知致しました」
最近特にする事も無く暇そうになされていた主が嬉しそうにしているのに断る理由もありません。
結果から言うとこの魔法電話1号は成功とも失敗とも言えます。会話をする事には成功したのですが、他の魔力に影響されるそうで、雑音が時々混じってしまうのです。
主は最近とある異世界製の電気通信機の開発に勤しんでおられます。
「……白夜様それは一体?」
嬉しそうに笑う主の手に握られていたのは小さな魔導具。
鉄の様な光沢を持った黒いそれは内に星を詰めた様にきらきらと輝いていました。
「『ケイタイデンワ』って言うんだよ。父さんの居た世界の道具だよ」
「お父上と申されますと『双黒の賢者』殿の居た世界のものですか」
「長いから『ケータイ』って略称で呼ぶ事が多いらしいね」
なるほど、かの有名な賢者の居た世界の物となれば、このケータイとやらが高濃度の魔力を圧縮した物質で出来ていても可笑しくは無いのかもしれません。
「父君の世界のものですか」
白夜様から魔導書の創造主である双黒の賢者はこの世界の人でないと伺ってはいた。伝承の様に戦争が起こる事を恐れて居なくなったのでは無く、あるべき世界へ帰ったのだとも。たしかにこの様な道具をこの世界で見かけた事はありません。失礼に当たらない程度にそれを観察する事にしました。
「何でかは知らないけど『神器』になっちゃってるけどねこれ」
表情には出しませんでしたが、その言葉は私に衝撃をもたらしました。『神器』とはこの世界に居るとされている創造神の加護が与えられた物の総称でそれを与えられたモノはことごとく歴史に名を残しているのです。有名なところで申しますと勇者が持つ『聖剣』、先見の魔女が持ったとされる『透過水晶』、王国の初代皇帝『魔聖王』そして『双黒の賢者』。一時期、白夜様の本体である魔導書『白夜界記』もそうなのでは無いかと噂されていましたが本人がこれを否定されました。
主は内心の私の衝撃を悟られて、クスクスと笑っていらっしゃいました。どれだけ表情を取り繕うとも主には全てを見通されるのです。
「ほら、内側に内包している魔力は少ないけど、本体自体にすごい魔力が圧縮されているだろ?これ多分神の加護だ」
「たしかに、外側に比べて魔力の内包量が少ないのですね。しかし、その道具はどの様な用途で使われる物なのでしょうか?」
内包する魔力量が異様に少ない事から、これが何百と言う魔物を屠るような武具の類には到底見えませんが。
「通信具だよ。誰でも仕える<スキル:伝心>用の道具と言えば良いかな」
「ギルド支部に置いてある『鷹ノ目』の様な物ですか?」
「同類同士で通信出来るっていうのは一緒だけど、水晶みたいに顔を映すのは無理なはず。時間が過ぎた間に技術が進歩してなければね」
「なぜそのような物が『神器』に?」
「さあ?そもそも『神の加護』自体が何者かの意思によるものなのか、それとも何かしらの法則がある物なのかが分かってないし」
主がスキルを使用なさろうとしているので一度質問を止める。
白夜様にしかお見えになることのできない未知の魔導具のステータス画面を一通り読まれたかと思えば、お腹を抱えて笑い始めました。
「……くっ…ふふ!こんな事に加護を使うなんて!」
「どういう事でしょうか?」
白夜様はステータス画面を可視化すると私に光るそれを渡されました。
携帯電話(#$%&’):魔導具(神器)
ランク:X
付加:<破壊不可属性><太陽光充電式><主君帰属><越界通信>
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佐藤#$%&’の携帯電話。異世界の音声通信道具。
現在は通信道具としての役割をほとんど失っている。
異世界への発信は出来る模様。
タッチパネル付
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上の部分は通常の<スキル:鑑定>で表示される部分。下の説明は『構造解析』と『知識引用』いう魔法を使って構造を理解した後に世界の知識を引用してその物の説明を自動でつけると言う『存在追究』という魔法特有の表示になっています。
「このタッチパネルとは?」
「この画面を触って接触操作できるってことだと思う。基本あっちの道具って基本ボタン操作なんだよ。<主君帰属>のせいで俺には使えないから予想だけど。すごいなーこんなのできたんだ」
楽しそうに透明なガラスの張られた部分を指で触る。
「あちらでは道具は接触操作では無いのですか?」
「俺の中の記憶だと全く無い事は無いけど、まだ一般では出回ったばかりって感じかな。それにこっちの魔導具の接触操作は、魔力操作だから魔力操作概念の存在しないあっちじゃ無理だよ」
「ですがそういった物の中には魔法使いで無かったり魔力の無い一般の方でも使用できる物があったはずですが」
「あぁ。そういう事じゃなくて、接触操作の魔導具は魔石に触れたその人物が纏ってる魔力を認識して操作するから。魔石って小さくても魔力に反応する物だからね。たとえそれが認知できないほど小さくても。そうじゃなくて指が触れている事を認識するんだよこれは。人の肌みたいにね」
「……それはすごい事なのでしょうか?」
「すごい事だよ。どれ位すごいかって言うとね、接触操作式の家事用の魔導具が音声操作式になったのと同じ位すごい。それにあれは俺等が使えない物もあるだろ?これは本当に使い方さえ覚えればうちのコボルト達でも使えると言う事だ。それにこれは生産に魔石が必要ないし、あっちは大量生産の手段が優れてるから商売に関して気にしないなら一人一つなんて事もできるだろうしね」
音声操作式の魔導具など中級貴族以上の財力がなければ得る事もできません。さらに国の重要拠点やギルドの支部位にしか置かれていない高級品である『鷹ノ目』と類似効果を持つ物を一人一つ?確かあちらはこちらより大地は狭いが人口が多いと聞いていますが……。
「それはすごいですね」
そう言って画面から顔を上げるとベットには全く同じ二つのケータイが置かれていました。主はそのうちの一つ、おそらく主が魔法で作られた模造品のほうを手に取るとボタンを一つ押したまま待つ。しかし、何も起こらなかった。
「ああ!だめだ!これじゃあ使い物にならない!」
そういって模造品を投げ出されました。
一応壊れたり傷のつかない様に風の魔法でクッションを敷く。
「俺はそういう#$%&’とかじゃ無いしな……本体をどうにか出来ても#$%&’の方はどうしようも無いか」
小さく知らない言葉を呟く。おそらくあちらの言語なのでしょう
それにしてもどういう事でしょう今まで主が見てきた魔導具で複写できない物など無かったのに。
「けどこれで現物を手に入れたんだ!そのうち作ってみせる!」
その顔は楽しいものを見つけられたという喜びにあふれたものでした。
「あぁああああ!!!だめだ!!」
魔法電話21号を放り投げて主は叫ばれました。
「最新機種の構造が分かってるんだし、もういっその事プログラムの事が分かる人をこっちに呼ぼう!なんせ呼んだって帰れる訳だし!」
ある日そう叫んだ主は携帯電話の開発と同時に進めていた『異世界通信』の方に重きを置く様になった様です。
ですが主による『電気通信機』の開発は終わりません。
結局長くなりすぎて、いつものつぶやき式の文とこの文を分ける事にしました。
この白夜による携帯開発の続きを書く気は今の所無いので
ここに携帯電話開発の結末を書いておきます。
後に魔法版と電気版の携帯電話が完成します。
前者が『マホケー』後者は『デンケー』と呼ばれ白夜の身内間のみで愛用されることとなりました。




