6/14
覚書6.桜の花が咲いたなら
桜色に染まった丘を君と二人で歩く。
左手と右手を確り繋いで、桜色の欠片が舞い散る中をゆっくり歩く。
「綺麗ねぇ」
彼女がうっとりと左手を差し伸べる。
気紛れに揺れる花弁は、彼女の指先を擦り抜けて風に舞う。
くすくす。
くすくす。
彼女が癖の無い髪を揺らして楽しそうに笑う。
僕もそれで楽しくなる。
彼女が泣くと悲しくて。
彼女が笑うと嬉しくて。
ああ、本当に。
僕は、君が―――
「ねぇ、カイン。綺麗ねっ」
彼女が振り向く。
長い髪がふわりと舞い上がり、柔らかく肩に落ちる。
うん、綺麗だね。
桜色に染まる君は、とてもとても綺麗だね。
「うん、とても」
彼女が淡く染まるように微笑む。
綺麗な綺麗な愛しい僕の桜【キルシェ】。
君に伝えたいことがある。
ずっとずっと昔から、君に伝えたいことがある。
絶対、必ず、君に伝えると決めていることがある。
「キルシェっ」
「? なぁに?」
「僕は、君が―――」
薄紅色した桜の花弁が鮮やかに空気を染め上げる日。
僕の一世一代の求婚を、愛しい彼女と桜だけが聞いていた。