覚書3.桜の花が咲く頃
帰らなきゃ。
彼女が待ってる。
絶対に帰るって約束したんだ。
絶対に、必ず帰るって誓ったんだ。
帰らなきゃ。
帰らなきゃいけないのに。
瞼が酷く重い。
身体が指先からどんどん冷えていく。
きっと、目を瞑ったら二度と開かないんだろうな。
帰るって、約束したのに。
聖誕祭の夜は一緒に祝おうって約束したのに。
ゴメン。
ゴメン……
帰れないかもしれない。
ゴメン。
ゴメン―――
「諦めちゃダメだよ」
?
君は?
「ねぇ、諦めないで。
まだ『命の灯【ひ】』は消えてない。
だから、諦めちゃダメ」
君は、誰?
彼女に似てる―――
君は、誰。
「わたしは 。
ねぇ、もうすぐ会えるの。
もうすぐ会えるから。
ねぇ、一緒に帰ろう。
この手を取って。
ねぇ、一緒に帰ろうよ。
一緒にあの温かいお家に帰ろう」
―――うん。
うん。
帰ろう。
温かい場所に。
帰りたい場所に。
待っていてくれる人がいるところに帰ろう。
「うん。うん。
帰ろう 」
うん。一緒に帰ろう。
彼女が待ってる。
だから、一緒に帰ろう。
「うん。
一緒に のところに帰ろう。
」
名前、考えなきゃ。
彼女と一緒に、君の名前を。
優しい名前にしよう。
温かい名前にしよう。
綺麗な名前にしよう。
待ってるよ。
彼女と一緒に君を待っている。
帰るから。
必ず、絶対、帰るから。
彼女の為に。
君の為に。
オレの為に。
きっと、帰るから。
だから、また会おう。
「うん。
。
待っててね。
と一緒に待っててね。
桜の花が咲く頃に、二人に会いに生まれるから」
うん。桜の花が咲く頃にまた会おう。
「うん。
またね」
うん。また―――
桜の花が咲く頃、盗賊退治で大怪我を負い九死に一生を得た兵士は、仲間に支えられて帰った家で妻と一緒に新しい命を向かえた。
生まれた子は、母親に良く似た女の子だった。