1曲目 出逢い
いつもより早く目覚め、いつもより早い電車で学校に通う。365日ある一年の中、私は君に出逢う為の当たりくじを今日引き当てた。
『おはよう…』
『あら光おはよう。今日はいつもより早いのね、3年生初日だから?』
『ちげーよ。なんか目が覚めちゃって。ご飯!』
『は〜い』
朝ご飯は毎日食べる。遅刻しそうでも必ず。お昼までにお腹が空いてしまうから。今日も味噌汁が美味い。
『ごちそうさま』
食器を流しに持っていき、身仕度をする。外は天気がよさそうだ。こんな天気の時はお気に入りの靴を履くと決めている。
『いってきま〜す』
勢い良く玄関の扉を開け、駅までの道程を歩き改札を通る。
この時間の電車に乗るのは1年の入学式以来だ。
ホームに電車がやってきて車内に乗り込む。
あいにく座席はうまっていた。しかたなく反対側のドア寄り掛かる。学校まで電車で15分、3つの目駅で下りる。外に目を移し、流れゆく景色を眺めていると15分の道程などあっというまだ。2つ目の駅、電車が止まり人が入ってくる。光は何気なく開いたドアに目をやった。何人もの人が乗車してくる中に君がいた。
《かわいい…》
心の中で思った言葉が危うく口に出そうだった。一目惚れなどした事がない。女の子と結構付き合ってきた。それは光を感じたことのない思いに駆り立てる。その間に光の学校の最寄りの駅に着き下車する。ほんの3分の出来事だった。
昼休み、屋上で一人パックの牛乳を飲みながら今日の電車のあの子を思い出す。
『ひ〜かる!何やってんの?』
『どーせエロい事でも考えてたんだろ?』
『エロ大明神だからね、光は!』
仲のいい友達がやってきた。こいつらとは幼稚園からの付き合いだ。だから考えてる事などは大体分かってしまう。三人同時に話しだす。
『で、誰が好きなの?』
『で、次は誰や?』
『で、可愛いの?』間髪入れずに返す。
『そんなんじゃねーよ!』
『今、眉動いたな…』
『動いた動いた…』
『やっぱり…昔から変わってない…』
光はウソを付くと眉が動いてしまうらしい。
《くそっ、こいつらには嘘をつけないか…てか俺はあの子好きなのか?一目惚れなんてありえないし》
色々考えている光。
『てか光なんで今日いつもの電車乗ってなかったん?乗り遅れたか?』
《よし、話が流れた!》
『あぁ、今日は早く起きたから早い電車で来た』
『はぁ?光が早い電車?』
『ありえない…、雪でも降るんじゃねぇ?』
『ばぁーか。いくら何でも雪なんて…』
その瞬間強い風が吹いた。
『おぃ、まじかよ!!今4月だぞ…』
その雪は彼らの周りを取り囲む。よく見れば薄いピンク色だ。
『な〜んだ、桜の花びらかぁ〜』
チャイムが鳴り終わっても4人は教室に戻らない。
神山光上戸彰室井銀慈小金井静は紅陽高校通称紅高を仕切っており、県内では有名な不良。紅高の制服は男女とも高名の通り上着が紅色である。だから遠くからでもよくわかり、この4人組を他校の生徒は道を通るときに避ける。ある日、機嫌の悪い銀慈に喧嘩を売ったやつは、たくさんの学生がいる駅のホームで見事に数秒でボコられた。その時、銀慈は自分の制服を掴みこう言った。『よ〜く見ろ。紅(赤)は止まれだ!』
それからというもの、県内では紅(赤)は止まれが鉄則になった。声を聞き付け先生が来た。
『お〜ぃ、誰だぁ!授業始まってる…』
4人ということに気付き態度を変える。
『授業始まってると思うぞ…は、早く教室に行ってな』
そういってそそくさと立ち去る。彰が舌打ちをする。
『なんだよあれ、ビビってんじゃねーよ!』
そういってポケットの煙草を口にくわえて火を付けようとした。
『彰〜!!』
そういいながら後ろから大声がする。一斉に振り替える4人。
『由美ちゃん!』
光の担任の女教師。唯一この4人を扱える教師。こっちに歩み寄る。
『彰…それなんだ?』
『ごめんなちゃい』
『お前等も、早く授業行け!もう始まってるぞ!』
『はぁ〜い』
『光?どうした、元気ないな』
『いゃ、大丈夫だよ』
『恋だ恋!』
そう言って彰がおちょくりながら教室に迎う。
『ばか、ちげって言ってんだろ』
『恋だったら私の専門分野だぞ』
少しの沈黙ののち。
『由美ちゃん…無理すんなって』
『すまん』
それぞれのクラスに行く。光は3-1、彰と銀慈は3-2、静は3-5。光は授業を真面目に受けてノートを取っている。実は頭がいいのだ。彰は爆睡、銀慈はマンガ本この二人は言うまでもなく頭が悪い。静は音楽を聞いている。しかし頭は学年上位。
そんなこんなで一日の授業が終わる。少し早く終わった彰が3-1に行きドアを開ける。
『光〜、エデン行こうぜ!』
エデンとは4人の行きつけの喫茶店であり千春の両親が経営している。ダーツとビリヤードがあり暇つぶしにはもってこいだ。まだ3-1は授業が終わっていなかった。しかし誰も目を合わせようとしない。その沈黙を破るように声がした。
『ば〜か』
空気が一瞬凍る。クラスのみんなは誰が言ったのかビクビクしている。紛れもなく女の子の声。
『千春!バカとはなんだバカとは!』
『バカだからバカって言ったの』千春も幼稚園から一緒で仲がいい。
『ちーも彰もよせ!彰、校門で待ってろ』
『おぅ』
光の言うことを聞きながら口パクで千春にバカと言う。それに気付いた千春はあっかんべーをする。実に仲がいい二人。
やっと光のクラスの授業が終わり光は教室を後にする。