花
「お前が花を愛でることなんてなかっただろ!」
彼はそう言い放ち、私が抱きしめていた花を奪い、投げ捨てた。
彼は私の裏切りに酷く傷つき、愛していたことが馬鹿みたいだと私に訴え続けた。
私は彼に何も言うことができず、ただ見つめることしかできなかった。
ごめんなさい、りん。
私は守ることができなかった。
りんは私の最愛の人だった。
夜が嫌いな私の心の穴を埋めてくれた人。
不安定な私をいつも危険な甘い香りで包んでくれた。
本当はいけないことだったんだね。
りんと出会ったこと、花をもらったこと、どうしようもないのに守りたいと思ってしまったこと。
近づくなと拒む彼のことを抱きしめ、無言で頭を撫で続けた。
彼が泣き疲れて眠ったあと、一人暮らしには広すぎる部屋で死んでしまった花を眺めていた。
寝室の電気が花を責めるように照らしていたので、私はできるだけ音を立てずに電気を消した。
窓の外の明かりが私と死んだ花を照らす。
ここはもう私とりんだけの空間。
ずっと夢見ていた二人だけの空間。
「自分の居場所は自分で探すのよ。
私があなたを見つけたように。
あなたなら見つけられる。」
りんが遠くへ行ってしまうと突然知らされ、泣くことしかできなかった私にいつもの優しい笑顔でそう言った。
どこにも行かないでずっとそばにいてほしかった。
私の知らない場所で誰かの花になってしまったりん。
新しい場所でもあなたらしく咲くことはできるのだろうか。
朝の光で目が覚めた時、彼が私の肩で寝ていた。
死んだ花は綺麗に飾られていた。
「私が1番好きな花をあなたにあげる。
いつまでもあなただけのそばに置かせて。
私のことをいつまでも大切にして。」
私が守らなければならない。
死なせてはいけない。
彼の頭を優しく撫で、死んでもなおまだ美しさを保つ花に熱い視線を送った。