6話:ミッション•インディスペンサブル(レオポルドside)
パーティーの終わり、気づけば彼女の手を引いていた。
(もうOKも出たし、これは結婚に突き進むしかない……!)
さすがにいきなり寝室はやりすぎだろう。
結婚するのだから、まずは自分を知ってもらおうと王宮の執務室に案内した。
部屋に入り、ふと彼女を見ると細い足が震えている。
(あんなに速足で歩いたのがまずかった!?)
慌てて彼女をソファに座らせるが、それでも足の震えは止まらない。
(え……もしかして、足の病気!? いや、そんな……!)
ならば、俺が彼女の足となり、一生そばで支え続けよう。
(絶対に君に足は使わせないから……! だってプロポーズをOKしてもらったのだから!)
そう思ったところで、ふと違和感がよぎる。
(……あれ? プロポーズ……したか?)
確かに結婚したいと強く思っていた。
でも、それを言葉にした記憶は……
(まだ言ってなかったーーー!!!)
俺は、自分の気持ちが強すぎて、完全に妄想と現実がごっちゃになっていた。
驚いて彼女を見ると、彼女は所在なげに視線をさまよわせている。
(怖がらせてしまったか!? しまった、俺の愛のパワーが強すぎた!)
よく見ると、彼女の大きな黒目がうるんでいる。
俺は焦って部屋から飛び出し、カトリーナを探した。
***
「えぇっ……! エミー様を執務室に連れて監禁ですって⁉︎」
廊下で見つけたカトリーナに事情を話すと彼女は大きな声で叫んだ。
「監禁はしていない。しかし、結婚できると思って興奮して連れて行ってしまった」
「殿下。この世界では、それを誘拐というのですよ」
「マズイ……どうしよう。もう嫌われたか……」
俺が頭を抱えていると、カトリーナはなぜか笑った。
昔よく見たような、心底楽しげな笑顔だ。
「大丈夫です。私が連れてきてもらったことにしましょう。ちょうどお礼もお伝えしたかったですし」
「そ、そうか……! 恩にきる」
カトリーナをつれて部屋に入るなり、エミーが跳ねるように立ち上がった。
「カトリーナ様!」
「先程はありがとうございました」
カトリーナは優しくエミーの手を取る。
その瞬間、俺の心に雷が落ちた。
(な、なぜ俺はあのように優しく手を取らなかったのだ!?)
先ほどの自分の荒さを思い出すと、自分を自分で殴りたくなった。
しかも、エミーはカトリーナを見てポーッとしている。
(くっ……なぜだ……。なぜ俺にはその反応がなかった!?)
嫉妬心がメラメラと燃え上がるが、ここで取り乱してはならない。
ありがたいことに、今、カトリーナは全面的に俺のフォローに回ってくれているのだ。
その善意を最大限に活かしたいと思った……ものの、結局その日は、エミーの可愛さのせいか、最初の強引さの後悔のせいか、最後まで上手く話せなかった。
***
エミーを自宅に送り届けた後、カトリーナと二人きりになる。
「今日は、ありがとう……。カトリーナが大変な時に本当に申し訳なかった」
「よいのですよ。むしろ、レオポルド様を見ていると元気になりますし」
「そうなのか」
「えぇ。本当は私ももっと素直になればよかったんでしょうね……」
カトリーナは顔を伏せる。
昔はよくわからなかったが、今は彼女の気持ちが少しわかるようになっていた。
俺は一瞬言葉に詰まり、なんとか言葉を吐き出す。
「本当に婚約破棄となれば、エドワードが全面的に悪い。いくらでも慰謝料を請求してくれ。君の言い分が通るように、俺も必ず協力する」
「いいえ……私、まだ婚約破棄にはなっていないと思っておりますし、もし破棄されてももう少し頑張るつもりなんです」
彼女はそう言って、まっすぐな瞳で俺を見た。
(そうか、こんな局面でも、彼女は諦めていないのだ)
きっとエドワードみたいに足元がおぼつかないやつは、彼女のような人間といたほうがいい。
俺は彼女が頼もしく感じ、本当にうまくいって欲しいと思った。
「ならば、うまくいくように協力しよう」
「心強いですわ」
カトリーナは微笑んで、続ける。
「レオポルド様も、私が全面的にバックアップいたしますから」
「そんなことまでしてもらわなくても……」
「今日、子犬のような目で私に助けを求めにいらしたでしょう? またきっとそうなります。それに、私……本気でレオポルド様はエミー様とお似合いだと思っているんですよ」
カトリーナにそう言ってもらえると正直に言って嬉しい。
彼女は意味のないおべっかは使わないからだ。
「ありがとう、カトリーナ。ではよろしく頼む」
(エミー、待っていてくれ……! 俺は今度こそ、ちゃんとプロポーズして君を幸せにするから!)
俺の頭の中では、すでにエミーが俺の横に立ち、たくさんの子どもたちに囲まれている図が明確に浮かんでいた。