表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/12

5話:希望的リカイン

 レオポルド様は、私の手を大きな手でがっちりと掴み、そのまま歩き出した。

 彼にちょっとでも手に力を入れられると、私の手は木っ端みじんだろう。

 そんなわけで私がその手を振り払うなんてできやしなかった。


「あ、あの……どちらに」

「こちらで待っていてはくれないだろうか」


 問答無用で放り込まれたのは、広い執務室。 

(なんだか、ものすごく偉い人の部屋に来ちゃった感じなんですけど……)

 格式高そうな机や本棚がずらりと並び、威圧感が半端ない。

(もしかして……もしかしなくてもレオポルド様の部屋……?)

 そういえば部屋からレオポルド様の匂いがする。それが妙に落ち着かない。

 たぶん草食動物が、肉食動物の住むエリアに来た時の落ち着かなさと同じ感じだ。

(わ、私、こんなに素直についてきて大丈夫だった?)

 足が震えて来たのが分かったのか、レオポルド様にソファに座るよう促された。

 そして私が座るなり、レオポルド様は一度部屋を出て、しばらくしてからカトリーナ様を連れて戻ってくる。

 私は驚いてソファから跳ねるように立ち上がった。


「カトリーナ様!」

「先程はありがとうございました」

「いえ、私はなにも……!」

「そんなことはないですわ。味方になっていただいて、大変心強かったです」


 カトリーナ様は、私の手を取ってくれる。

(あ、温かい。綺麗で柔らかな手。癒やし……)

 さっきまでのゴリラ級の握力を持ちそうな手とは違い、彼女の手は優しくて温かい。

 私の心拍数はそこでやっと落ち着いた。

 しかし、レオポルド様がなぜか少し目を見開いた。


(……え、何? 私、悪いことした?)


 怖くなって、慌てて視線を逸らして手を離す。

 彼はカトリーナ様に向き直ると、低い声で言った。


「俺もなにも気付けず申し訳なかった」

「殿下が気づかないのは当然です。あまりお気になさらないでください」


(今、レオポルド様、『俺』って言った?)

 それに驚きつつも、二人のやり取りと雰囲気から長い付き合いなのが分かる。

 私は気になっておずおずと口を開いた。


「あの……お二人はお知り合いなんですね……?」

「はとこ同士なんです。王と父は従兄弟で仲が良く、昔からよくお茶会に呼ばれていたのです」

 なるほど、そういうことか。

 納得していると、カトリーナ様がそっと私の耳元で囁いた。

「それに、本当は私、レオポルド様と婚約する予定だったんですの」

「え、えぇ!」

 驚愕のあまり変な声が出た。

 カトリーナ嬢はクスリと笑う。

「でも、レオポルド様は全く私になど全く興味がなく、それはそれは冷たかったのです。そこから私がエドワード様が好きになったところで、レオポルド様が『俺は婚約なんてしない』ときっぱり仰ってくださって……おかげでエドワード様と婚約することになりましたの。レオポルド様はそのように心根の優しい方なんです」

「そ、そんなことがあったのですね……」


 そういえばさっき、レオポルド様はカトリーナ様に謝っていた。

 第一王子がわざわざ頭を下げて謝るなんて、普通ではありえない。

 その時、私の前世の記憶が一瞬で集まってきて、ぴーん! と閃いたことがあった。


(レオポルド様は昔、カトリーナ様が好きだったのかもしれない!)


 カトリーナ様が冷たく感じたのも、好意の裏返し。

 よくドラマであるやつだ。

 幼馴染を愛していたけれど、彼女の幸せを願って冷たくして身を引いた……みたいなやつ。

 そして、自暴自棄になって好きになった相手が……私。


(レオポルド様、さすがにそれは自暴自棄になりすぎです!)


 思わず心の中で突っ込んでしまう。

 でもそうとしか思えなかった。

 自暴自棄になった反動で、私に向かった矢印が過剰に成長してしまったのではないだろうか……。


(自暴自棄でなら私を好きだって思ってるのも、理解できる……)


 正直、私はかなりのモブ。自暴自棄になって好きになるのにはいい相手だ。だって元に好きだった人とうまくいけば、すぐに気持ちを捨てやすいから。


 もしやレオポルド様は、もともとカトリーナ様が好きだったのも無自覚なのかもしれない。

 さっき、私がカトリーナ様と手を握り合っていた時、嫉妬したような表情を向けていたのもきっと無自覚だ。

 彼は自暴自棄に私が好きだと思っているけど、無意識にはやはりカトリーナ様が好きなのだ!


(もしカトリーナ様がレオポルド様を好きになれば、彼の大きな矢印は正しい方向……すなわち、カトリーナ様の方を向く!)


 さっきカトリーナ様も、レオポルド様は心根が優しいと言っていたし、可能性はゼロではない。

 私は納得しながら、レオポルド様とカトリーナ様を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ