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2/12

1話:一か月前

 考えてみれば、ほんの一か月前はこんなことになるなんて思ってもみなかった。


 最初の変化は、前世の記憶を取り戻したこと。

 私はローランド男爵家の娘として生まれ、このグランディア王国立学園でのんびりと暮らしていた。

 学園では、とにかく目立つのも発言するのも苦手で、クラスメイトの恋模様を眺めてはひっそり応援する——そんな影の薄い存在だった。

 それでも、幼いころから知っている友人エリザベートの恋が実ったときには、涙が止まらないほど感動した。

 そして、その夜。

 夢の中で、私は覚醒したのだ。


(え? ちょっと待って、私、前世はただの恋愛ドラマ大好きな女子高生だったの⁉︎)


 そう、私は恋愛ドラマが好きなだけで、特に特筆すべき点のない女子高生だった。そんな私は16才で事故で死亡してしまったようだ。


(でも、まぁ、それなら今もこんなに人の恋愛を応援するのが好きなのも納得……)


 やっていることは、目の前の恋愛を応援しているか、テレビの中の恋愛を応援しているか、それだけの違いだ。

 生まれ変わっても何も変わらない事実に驚きつつも、妙に納得してしまった。

 ――けれど、それだけでは終わらなかった。


 その日から、突然、人々の頭の上に『矢印』が見えるようになっていたのだ。

 最初は何が起こったのか分からなかった。

 でも、日頃から恋愛模様を観察していた私はすぐにその矢印の意味を理解した。


(この矢印……好きな相手を示してる? しかも、大きくて色が赤いほど気持ちが強いんだ!)


 なぜ見えるのか原因は不明だが、思い返せば、前世の私は、好きなドラマや漫画の登場人物を相関図にして、「→好き」と矢印を書きまくっていた。

 転生しても全く変わらない自分の特性に、神様が「もういっそ本当に見えたら楽しいでしょ?」とプレゼントしてくれたのかもしれない。


 それからの私は、この能力を活かし、学園内の恋愛をひたすら観察する日々を送った。

 二人の矢印が向かい合った瞬間には、いつも感動する。

 楽しくて、平和で、最高の趣味——の、はずだったのに。

 ある日、事件が起こった。


***


「もう限界だ。今度のパーティーで、これまでのリリィへのいじめを断罪する。そして、カトリーナに婚約破棄を言い渡してやる!」

 その日の放課後、そんな声が聞こえて、私は思わず足を止めた。

 声の主を探すと、教室内にいたのは第三王子エドワード・フォン・グランディアと、半年前に転入してきた特待生の平民令嬢リリィ・アーヴィング。

 どちらも同級生だ。


(もしかして……私、とんでもないことを聞いちゃった⁉︎)


 咄嗟に身を隠し、そっと二人の様子を窺う。

 二人は熱い抱擁を交わしていた。さらにはキスまで……。

 恥ずかしくてこちらが見ていられない。


 矢印が見え出してから気にはなっていた。

 エドワード王子の矢印が、しっかりとリリィに向いていて、しかも大きかったのを見ていたから。

 エドワード王子にはリリィ以外の婚約者がいるのに……。

 エドワード王子の婚約者はさっき名前が出ていた公爵家令嬢、カトリーナ・フォン・アルセインだ。


 しかし最近、学園では「カトリーナがリリィをいじめている」という噂が広がっていた。

 しかも、リリィは涙ながらにエドワード王子へ訴えている場面を何度か目撃していた。

 その結果——王子はすっかりリリィに絆されているようだ。

 

 でも、私はカトリーナがリリィをいじめている場面に遭遇したことがない。

 それに、リリィは……彼女の頭の上は——。

 見たことがないほど多くの矢印が、一本どころか四方八方に伸びているのだ。

 しかも、男性からの矢印も異常に多い。


(こんなに気が多くて、しかも男性からもモテモテな人が、本当にいじめられる……?)


 正直、その噂も、エドワード王子の心変わりも、私には到底納得できなかった——。


 なのにこのへっぽこ王子……いや、エドワード王子は、パーティーでカトリーナ嬢のいじめを断罪して婚約破棄までしようとしてるらしい。


 私は、気づけば自分の手をぎゅっと強く握りしめていた。

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