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10話:大・Hard

 なぜか私が結婚をOKしたと誤解しているレオポルド様は、さらに『キスをしてもいいか?』とまで聞いてきた。


(レオポルド様はきっと唇まで力強いだろう。キスをすれば、私の唇はもげちゃうよね……)


 さすがにこんなモブ顔でも、唇がなくなるのは嫌だ。

 泣きそうになりながら「それは無理ですぅ……」と言ったら、なぜか彼の頭の上の矢印がさらに巨大化した。


(それ、 一体どういうシステムで大きくなるの!?)


 正直、全く彼の矢印巨大化システムが分からない。

 これまで見てる限り、こんなにどんどん大きくなったことはないからだ。

 実はあの矢印は恋愛感情を示すものではなかったのかもしれない、とまで思った。

 レオポルド様ともあろう人が、私なんかにここまで好意を寄せるなんて、あり得ないからだ。


(でも、レオポルド様以外は、ちゃんとしたキュンとする場面で矢印は大きくなっていたのにな……)


 今はむしろどう言っても、動いても、大きくなってしまう。

 その時、レオポルド様が突然、私の頭を撫でた。


(な、何!? まさか、さっきキスを拒否したから『この生首を切って晒してやろうか?』的な脅迫!?)


 そんなことあるわけ……いや、でもこの世界は貴族社会。王族からのキスの誘いを断った人間なんてそもそも耳にしたことはない。

 もしかして『王族のキスを断った罪』なんてものがあって明日には晒し首になるのかもしれない。


 私が固まっていると、次の瞬間、また強く抱きしめられた。

 うっぷ、と口から勝手に音が漏れる。


「エミー、……は……いのか?」


 レオポルド様が何かを言っている。

 でも、全身の震えがひどすぎるのと、彼の分厚い腕の中では何を言っているのか聞こえない。

 ただ今の状況から想像すればちゃんとわかる。


(『エミー、命は大事ではないのか?』だ! めっちゃ脅されてる!)

 

 私はもちろんファーストキスだが、『命かキスか』と言われたら、普通にキスを選ぶ。

 唇はなくなったら悲しいけど、それよりなにより……

 ーー命、大事。


 腹が括れてしまえば、私は色々な意味で吹っ切れた。


 目をギュウッと閉じて、「大事ですよね! ならば、どうぞ!」と覚悟を決めたのだ。


(さよなら、私の唇!!!)


「よかった! では、行こう」

 突然そんな声が降ってきて、手を取られてずんずんと彼は歩き出す。

 突然のことに状況の理解が追いつかない。


「ど、どちらに?」

「城だ。先ほど快諾してくれただろう。本当によかった。実は、すでに俺の父にも、エミーの父親にも、話を付けてあるので心配するな」


 頭の良いレオポルド様の放つ言葉が難しすぎるためか、はたまた現実逃避したい私の本心のせいか、私はお城につくまでその言葉の意味を理解できなかった。

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