燃える花
あれから一週間、最近また琴音を見ていない。早朝6:30朝練がある為、早めに登校していた。
「はあっ、はあ…、」
(もう1回、)
トスを高く上げ、足を踏み締めて高く飛ぶ。
ドンッ
力強く、激しくボールが床に打ち付けられる。
「はあ、はあ…」
ガラ
「?」
「お盛んだねえ〜」
「おま、、はあっ…ことね、、」
「ようよう、少年〜」
そこに居たのは一週間前と変わらない顔をしたジャージ姿の琴音だった。手を軽く振りながら此方へ歩いてくる。
「はあっ、はあ…琴音、学校来てなかったろ」
「うんー、今日は朝だけね」
「心配かけんな」
「ごめんね。ありがとう」
いつもと変わらない表情で此方に笑いかけてくる。
「どうよ、バレーは。楽しいかい」
「まあな、琴音のおかげだよ」
俺がバレーを始めたのは琴音が昔、バレーを教えてくれた事がきっかけだった。籠りがちだった俺を「バレーしよう」と外へ連れ出してくれていた。
「トス上げてよ、久しぶりに」
「飛べるのか?」
「最近はしてませんでしたけど、それなりには」
と、自分の胸を叩いて大きく見せる琴音。
「分かったよ」
息を大きく吸い、高く、琴音の位置までボールを届けようとトスを上げる
キュッ
微差で上靴の底が床と擦れる音がし、琴音が高く、頂を目指すかのように高く飛ぶ
(この瞬間も、残しておきたかったな)
ドンッ
強く打ち付けられる
「はっ、……っふふー」
「流石だな」
と、グータッチを交わす。
それからはトスを上げたり上げられたり、他の部活生が来るまで飽きる事無く打ち続けた。
「やっぱり俺より上手いな。尚更バレー部入れば良いのに」
「勘弁勘弁〜私は帰宅部でいいのよ」
「そもそも来てねえだろ」
「どもども…」
他の生徒の声が聞こえてきて、琴音が帰る準備をする。俺も軽く片付けをしていく。
ガラ
「ん、気をつけろよーまたな」
「はーい。あ、そうだ」
「?」
「今度の花火大会、予定空けとけよ〜」
「え」
シーーーン
俺の返答を待たずして琴音は行ってしまった。ダメという訳では全くないが突然の誘いとなると暫く脳がフリーズする。
空っぽの頭で片付けを進め、ホームルームに間に合うように教室へ向かった。
帰宅した頃ちょうど携帯の通知が鳴った
〔7/13の花火大会頼んだぞー!〕
幻聴等ではなかったらしい。
「はあ、」
深々とため息をつき「了解」とだけ送ってカレンダーに目をやると3日後…
(3日後…!?あ、アイツめっちゃギリギリで言ってくるじゃん!)
「はあぁ、」
さっきより大きく深くため息をつく
(そうだ、そういう奴だった…。とにかく今日は休もう、なんか色々あった…)
する事を早めに済ませ眠りについた。
ピピッピ…ピピッ
ヴーヴー
タイマーと携帯の通知音で起こされる
「朝から騒がしい…」
携帯を見ると7/13と12:00の表記
(ああ、そっか、今日か…)
俺は休みの日に関しては平気で昼まで寝る。
部屋を軽く片付け、風呂に入り軽く腹に入れると琴音へ連絡を入れる。
〔もう出れるぞ、時間になったらまた連絡入れてくれ〕
時刻は14:30
(ちょっと早すぎたな、)
と暇潰しにゲームを始めた。
ヴーヴー
「?」
携帯の通知が来て、画面を見ると琴音から「5件」の表記。
(まさかっ、、やば…)
急いでゲームを閉じ靴を履いて家を出る。それから連絡を確認すると
〔そろそろ行こーぜ〕
〔おーい?〕
〔あと10分待ってやるからなー〕
〔清水くん?何してんだー?〕
〔先行ってますから〕
ゲームに夢中になりすぎて通知に全く気づけなかった。最後の連絡はついさっき、何処かで会えるかもと急ぐ。
(やらかしたっ、、くそっ)
「はあっ、はあ…」
会場は人集りで前すら見えない。
(琴音に連絡…)
は、無理だった。人が多すぎる。待ち合わせ場所も決めてなければ琴音は拗ねている状態。花火が打ち上がるのは19時半から。今は18時…
(見つけなきゃ、)
念の為琴音に連絡を何件か入れて探しに出た。
〈その頃〉
「…清水くんのばか、一緒見る言うたのに、」
周りは誰かも知らない人ばかり、いつもより気合を入れた服も髪も全て台無しになろうとしてた。
時間はどんどん過ぎていく、清水の居そうな場所を探し回ったが居なかった。
携帯を確認すると時刻は既に19:15と表記されていた。
「せっかく、、はあ…」
一人で見るしかないと開けた場所に出ると
ヒューーー
ドカン
遂に花火が打ち上がってしまった。それと同時に涙が込み上げてきて、必死に抑えようとする。
(な、なんでっ…なんであんな奴の為に…泣いてんのよ、)
周りにバレまいと必死に意識を逸らそうとする。それでも涙は止まることを知らず、どんどん流れていく
(いっしょ、見たかったのに、なあ…)
「ははっ、ばっかみたい…」
その時遠くで清水の姿が見えた。急いで涙を閉じ込める
「清水くーん!!」
「あ、琴音!」
「はあっ、はあ…ごめん、俺…」
「大丈夫?よかった一緒見れて」
「うん、ありがとう…はあ、花火、みよっか」
「だね!」
綺麗だった
カシャ
デジカメでまた一枚残す。
少し横目に清水の姿を眺める
(よかった…一緒見れて。泣いてたなんてバレたら一生の恥よ…)
そのまま花火ではしゃぎながら一生の思い出を作った
「おい琴音、、食いすぎなんじゃ、」
「んえ?んうー!」
(いや明らかに食い過ぎだろ、そんな満面の笑みで此方を見られても…)
「ふふ、だって美味しいもん」
「ああ、そうかそうか…ならよかったよ」
(まあ、今日は俺の奢りだし…)
そうして2人は花火大会を満喫したのだった。