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10 2か月後



「天音、オマエはリビングから出て行け」


「僕が先に約束したんだからね。心美ちゃんに、アニメ一緒に見ようって」



 ただ今の時間、夜の9時50分。

 千柳さんの家のきらびやかなリビング。

 目を吊り上げた美男子二人が私を挟んで立ち、グルルグルルと獣みたいに睨みあっています。


 猛獣の名は『綺月君』と『天音君』



「俺の心美に近寄るな!」


「僕の精神安定剤を取らないでって約束したでしょ!」


「天音は心美の親友、俺は心美の彼氏、そうだよな?」


「彼女を自分の所有物みたいに扱う男に、心美ちゃんを託す気なんてないんだけど」



 わぁ~~

 今夜も綺月君と天音君のケンカが勃発しちゃったよ。


 千柳さんの家に引っ越して1か月が過ぎたけれど、『彼氏』対『幼なじみ』のバトルは毎晩のこと。


 いや夜だけじゃないか。

 朝も学校でも。

 綺月君と天音君は喧嘩ばかり。


 その内容のほとんどが私がらみという現実に、申し訳なさで胃に穴が開きそうになる。



「綺月君、3人でヴァン様のアニメを観ようよ」と提案するも「ムリ」と即答され。


「天音君はリアルタイムで観たいよね?」と、顔色を伺ったのに


「僕はアニメが見たいんじゃなくて、ヴァン様を見ながら微笑む心美ちゃんが見たいって、なんでわからないかな」


 なぜか私まで天音君に怒られちゃった感じで、しょぼん。


 無力の私を挟んで、二人の言い合いはエスカレート。


「天音の瞳に心美を映すの禁止な!」


「だから綺月君のそういうところが、心美ちゃんの彼氏にふさわしくないって言ってるの!」


「天音にダンスを教えてやらない」


「一度アイドルを辞めて出戻った人に、教わりたくないんだけど」


 だから二人ともケンカはやめてよ。

 私はただ綺月君と天音君と3人で、仲良くアニメを観たいだけなんだから。


 2か月前、綺月君が私だけを客席に座らせて

ゾルック復帰ライブをした次の日から、綺月君は天音君に『千柳の家に住んで』とお願いする日々が始まった。


 天音君は頑なに拒否。

 アイドルなんてしたくない!

 目立つ人生は送りたくない!の一点張り。


 でも最後は天音君が折れたんだ。

 学校では席に座っているだけで好奇な目が、天音君に四方八方から突き刺さっていて、尾ひれがついた悪意のある噂も飛び回っていて、天音君はそんな高校から逃げたかったんだと思う。


 でも一番の理由は、多分私。

 クラスメイトのほとんどに無視をされるなかで高校に通っていた私を助けるため。

 そして私が、綺月君と一緒に住めるようにするため。

 転校して千柳さんの家に住むことを、天音君は決断してくれたんだと思う。



 まだ天音君はアイドルになることを拒否し続けているけれど、放課後には綺月君と一緒に歌やダンスのレッスンを受けている。


 私が記憶を巻き戻している間も二人の口論は続いたままで、意識を現在に戻した今も収束する気配は一切ない。


「だいたいね、綺月君は心が狭すぎなの」


 冷酷な天音君の声に、吐き捨てる様な綺月君の声が続く。


「は?」


「遊園地で心美ちゃんが男の人と一緒にいたのだって、その人が落とした結婚指輪を探してあげただけなのに、あんなに怒って」


「それは悪かったって、心美に謝ったし」


「前の学校で綺月君が美女と歯ブラシ買ってたって噂になってたのに、否定すらしなくて。心美ちゃんを心配させて」


「だからあれはマネージャーの蓮見さんだったんだよ。仕事、仕事。心美がその噂を信じてたなんて思わなかったし」


「心美ちゃん、本当に綺月君が彼氏でいいの?」


 ひょえ?

 天音君、いきなり私に話を振らないでより


「心美、天音と親友の関係、今すぐ切れ!」


 ひょえええ?

 綺月君、そんなことできないよ。


 綺月君に嫌われたくない。

 天音君を怒らせたくもない。


 うわ~、誰か助けてください!!



「あらら、またわめいてる」


 願っていた救世主が、ドンピシャなタイミングで現れた。

 リビングに入ってきたのは、優雅な笑みを浮かべた千柳さん。

 ケンカの止め方がわからず困惑気味の私の頭に、千柳さんはポンポンと手を乗せた。


「心美ちゃん、俺の部屋においで」


「え?」


「壁いっぱいの大きなスクリーンで、ヴァン様を堪能させてあげるから」


 千柳さんに肩を抱かれて、ホールド状態。

 私の力じゃ逃げ出し不可能と、脳が早くも諦めモード。

 強引に引っ張られているし。


 ひゃぁぁぁ、このままじゃ千柳さんのお部屋に連行されちゃうよ。

 助けて、綺月君!!



「せ~ん~りゅ~う~」


 綺月君は恨みたっぷりのゾンビ声で、私の肩に添えられた千柳さんの手を引き離してくれた。


 ホッと一安心。

 したのに……


 綺月君の瞳に宿る怒りが、千柳さんを呪い殺しそうで、怒りをどう鎮火すればいいかわからない。


 千柳さんが来る前の方が、まだマシな状況だったような……


「千柳にも言ったよな。同居しても、俺の心美には絶対に触れんなって!」


「言われたけど、綺月に従う理由なんてないよね」


「だから心美は俺の彼女で……」


「それなら綺月より俺の方が、心美ちゃんに触れる権利があるよ」


「はぁ?」


「だって俺は今、心美ちゃんの親代わりなんだから」


 にんまり笑顔で、私の頭をペタペタ触る千柳さん。

 やめてよ。

 これ以上、綺月君の怒りの炎に油を注がないで。



「だから心美に触んな!」


 その時、千柳さんがクスクス笑いながら私にだけ聞こえる声を発した。


「心美ちゃん、耐えてね」


「え?」


「俺ね、嫉妬に狂ったヴァンパイアの曲を綺月に作らせようと企んでるんだ」


 これって火に油を注いで、素晴らしい曲を生み出させるための策略なの?

 私を巻き込まないでください。


 私にウインクをした千柳さんは「雪那のところに行ってくるね」とリビングから出て行ったけれど、綺月君のイライラはまだ収まりきっていないみたい。

 



 この後。


 綺月君と天音君に挟まれた状態のまま、ヴァン様のアニメを観た。


 そして綺月君に強引に引っ張られ、私は綺月君のお部屋に連れてこられたのだった。






 

☆綺月side☆



 あ~もう。

 最近の俺、マジで心に余裕がない!


 心美を自分のベッドの端に座らせ、反対側の端に座った俺。

 自分の情けなさで心美を傷つけている現実に、ため息しか出てこない。



 新しく転入した高校での俺は、心美と付き合っていることを伏せている。

 友達のフリを貫き心美にベタベタできなくて、心がモヤってばかり。


 教室で俺よりも天音の方が彼氏っぽく心美に微笑んでいるのも、なんかムカつく。

 

 でも俺の心を追い詰めている一番の原因は、心美ではない。

 アイドルをやっている時の俺自身だ。


 1か月後には、ゾルックファンを集めた俺の復帰ライブがあるのに、レッスン時の俺はゾルックのセンターにふさわしくないどころか、千柳と氷牙の魅力に飲み込まれっぱなし。


 そのうえ天音の歌声が、天使なのか?ってほど透き通った美声で、俺までもが聞き惚れてしまうほどで、全ての面でみんなに勝たなきゃと焦りは募るばかり。

 本当はカッコいい俺だけを、心美に見せたいのにな。



 ため息をこぼしながらうつむいていると、ベッドの端に座る心美が恥ずかしそうに耳に横上をかけた。


「お母さん達、よりが戻ったみたいで良かったね……」


「ああ」


 俺の父さんと広美さんは、また心美の家で暮らし始めた。

 でも籍は入れないって決めたらしい。


「それでねお母さんたちのためになにかしたくて。いろいろ考えたんだけど、サプライズ結婚式はどうかなって」


「場所は?」


「お母さんが働いている結婚式場の支配人さんが、

ガーデンチャペルを使っていいって言ってくれたの」


「父さんたち喜ぶよ」


 まだ心が重くて、心美を瞳に映すことすらできない俺。

 離れて座る心美との距離を縮められない俺に


「部屋に戻るね」


 寂しそうな心美の声が届いた。


「もう?」


「お母さんに着てもらうウエディングドレス、

まだ完成してないんだ」


 

 『帰るなよ』とも『俺のそばにいろよ』とも言えない情けない俺を見限るように、心美はベッドを降りドアの方に歩き出した。


 でもドアの前で歩みを止め、なぜかベッドに座る俺の前に戻ってきて。


 目をしばたかせている俺の右手を、温かい両手で包見込んできた。


「どうした?」


 うつむいて、これでもかってほど顔を真っ赤にして。



「綺月君……あのね……」


 心美の口から次の言葉がなかなか出てこない。


 その代わりなのか、包んだ俺の右手を強く握ってくれている。


「だから何?」


「辛い時は……私に甘えて欲しいの……」


「え?」


「最近の綺月君を見てると……頑張りすぎて壊れないか……心配になっちゃうから……」


 心美は気づいてたんだな、俺の心が病んでること。


 私に甘えて欲しいか。

 すごく嬉しいことを言ってくれるよな、心美は。


「あっ、私なんかじゃ綺月君を癒すとかムリだよね」


 慌てたように心美は包んでいた俺の手を離したけれど、今度は俺が心美を包みたい。

 絶対に離したくない。


 俺はベッドから立ち上がり、強引に心美の腕を引っ張り、俺の胸に引き寄せた。



「安心する」


「え?」


「心美の温もりを感じるだけで、すごく癒される」


 癒されるけど……

 心美を抱きしめてるだけじゃ足らないんだ。


 俺にとって心美がどれだけ大事かきちんと伝えたくて、心美の頭に手を乗せ何回も何回も優しく撫でる。


「心美、聞いて」


「……うん」


「1か月後の復帰ライブ、心配なんだ」


「どうして?」


「2年のブランクが予想以上に大きくてさ。千柳たちに劣ってる自分が許せなくて。正直すごく焦ってる」


 初めてライブの不安を口にした俺に、心美は俺の胸に頬を当てたまま穏やかな声を発した。


「綺月君が一番カッコよかったよ」


 え?


「私だけの前で3人で歌ってくれた時、綺月君が一番輝いてるように見えたんだから」



 ……

 ……



 心美って何者?


 どれだけダンスレッスン受けても、必死に歌いまくっても、こんな俺じゃステージに立つ資格なんかないって自信を失っていたのに、心美の言葉が心に沁み込んですごく楽になった。


「ありがと」


「私は特に何も」


「さっき甘えていいって言ったよな?」


「言ったけど……」


 俺の行動が読めないからだろう。

 ソワソワしはじめた心美。

 俺は腕の中に納まっていた心美を解放すると、今度は俺の勉強机の下に心美を押し込んだ。


「ひゃっ……き……綺月……くん?」


 机に手をつき見下ろす俺の瞳には、心配そうに瞳を揺らす心美が映っている。


 マジで可愛すぎ。

 すっげー大好きすぎ。

 他の男なんかに絶対取られたくない。

 一生、俺の机の下に押し込めておきたい。


 俺は心美の前にしゃがみ込み、心美の頬に右手を添えた。


「一生、俺から離れるなよ」


 潤んだ瞳で頷く心美。

 俺を受け入れてくれたかのように、静かに瞳を閉じた。


 『死ぬまで俺に溺れますように』


 そして俺は心美の柔らかい唇に、恋の猛毒入りの甘いキスを落とした。


  






☆ぼっちのキミに毒はまり END☆


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