予防接種
お母さんはどこにも居ない。
探しても居ない。
僕たち兄妹三匹だけになっちゃった。
⦅おかあさぁ~ん。会いたいよぉ~。
もう会えないの? どうして?
もう会えないの?
おかあさぁ~ん。⦆
お母さんには会えないけれど、楽しいよ。毎日………
人が一杯で、いつも誰かが遊んでくれて楽しい!
ご飯も美味しい!
動物病院ってとこに連れてってもらったんだ。
⦅うわぁ~~い! 新しい人だっ!
お姉ちゃんみたいな人も居るっ!
嬉しいなぁ~。 ナデナデして貰えるかな?⦆
台の上に乗せられた。
「じゃあ、診させて貰いますね。」
「ゴールデンレトリバーの子犬、男の子ですね。
推定ですが、生後2ヶ月くらいでしょうか?」
「そうですか。」
「純血種ですよ。」
「そうですか! じゃあ、貰い手は見つかりやすいですよね。」
「それは、難しいと思います。」
「どうしてですか? 純血種なのに……。」
「先ず、血統書がありません。」
「血統書……。」
「それに、今は小型犬が主流になりつつありますので、大型犬は貰い手を見つける
のは困難だと思います。」
「そんな………。」
「うちの動物病院で飼い主を求めるポスターを貼って探す協力は出来ます。」
「お願いします。」
「取り敢えず、今日は健康診断と予防接種をしましょう。」
「お願いします。」
「おい、注射だぞ。頑張れよな。」
⦅ちゅうしゃ? 何? それっ………
美味しいのかな? 楽しみぃ~。⦆
何かを持った人が僕をナデナデしてくれた!
嬉しい! お尻尾ブンブン!
「この子はゴールデンレトリバーの子犬らしさが溢れてますね。
人が大好きだよね。」
「はい。そうなんです。」
お姉ちゃんみたいな人が僕を撫で?
なんか、ちょっと、違うみたいな……
でも、いいやっ!
ナデナデみたいだから……
「はい! 終わったよ。
気付いてないみたいだったね。」
「鳴きませんでしたね。」
「酷く鳴いてしまう子、怖がり過ぎて歯をむき出しにする子……
色々いるんですけどね。
この子は楽だなぁ……。」
「偉かったなぁ~。」
「じゃあ、次の子……。」
「はい。」
テーブルから僕、下ろされちゃった。
⦅ねぇ、僕、ここに居るんだよ。
ねぇ、ナデナデして!
ここに居るよ。僕……放っておかないでよ。お願い……。⦆
三匹とも予防接種ってのをしたんだ。
バスの人の所に帰ってからも、代わる代わるに褒めてくれて嬉しかったなぁ~。
夜になったら、誰も居なくなるから、僕たちを連れて帰ってくれる人が居るんだ。
夜だけ、その人の家で寝るんだ。
お母さんには、もう会えないのかな?
パパさん、ママさん、お兄ちゃん、お姉ちゃんにも、もう会えないのかな?
会いたいなぁ………。