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レゾンデートル  作者: 星街海音
第二章 海町は明日を願う
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096 倉庫街から出る


 「それじゃあ移動しようか。」


 声をかけながらメイ、グレン、ルチルと順番に見回す。


 そして3人がこくりと頷くと倉庫街の奥から移動を始める。


 さて、動き始めたはいいがこれからどうしたらいいだろうか。


 ずっと倉庫街に居続ける訳にも行かないので移動を提案したが、その後については正直ノープランだった。


 「なあ、移動しようっていったけどさ、この後どうする?」


 考えても思いつかないので、大人しくみんなに相談しようと声をかける。


 「まずは拠点となる宿を変える。人の目の無え場所じゃねえとゆっくり話もできねえだろ?」


 「確かに。じゃあまずは僕達の泊まってる宿に行くのか?」


 「ああ、俺達は出来る限り、疑われるような事はせずに普通にチェックアウトしといた方がいい。それとルチル。」


 グレンがスラスラと方針を決めていってくれる。決めてもらえるのは正直助かるので、大人しくグレンの言う通りにしようと考えた。


 「はい、何ですか?」


 「宿に荷物は置いてるか?」


 「いえ、全部リュックに入れてます。」


 「そうか。宿はいつまで取ってる?」


 「えっと、豊漁祭の翌日まで取ってます。何かあるんですか?」


 グレンがルチルに質問をし、宿について確認をしている。


 何でそんな事を聞くんだ?と思ったナインは、グレンに理由を聞こうとする。


 だが質問に答えるルチルがナインより先にグレンに聞きだした。


 「ルチルが泊まってる宿は、まず間違いなく警備隊に押さえられてるだろうからな。もし部屋に私物があっても取りに戻れねえから確認したんだよ。それと、いつまで取ってるか聞いたのは、先払いしてる宿代も返ってこねえからだ。チェックアウト出来ねえからな。」


 「あ、なるほど。」


 警備隊が押さえてるであろう、宿に顔を出すなんて事は出来ない。部屋に私物があるなら諦めなきゃいけないし、チェックアウトすれば返ってくるであろう数日分の宿代も諦めなきゃいけない。


 何はともあれ、部屋に私物を置いてなかったのは幸いだろう。


 宿代がいくらか知らないのでどのくらいかはわからないが、お金は事件が解決したら慰謝料として大量に頂けばいいのだ。


 「宿泊料は、残念ですが諦めます。仕方ないですからね。」


 残念と言いながらも声は全然残念そうには感じない。ルチルはお金に困っていないのかもしれない。羨ましい。


 「慰謝料にプラスして領主から金取ってやりゃいい。」


 「そうします。」


 「それと、一応呼び方も変えとくぞ。下手に外でルチルの名前出す訳にはいかねえからな。」


 ナインが思っていた事と同じ事を言ったグレンは、ルチルの呼び名の変更も提案した。


 確かに、今は周囲に人がいないのでルチルと呼んでも大丈夫だが、大通りなんかの人通りの激しい場所で呼ぶ訳にはいかない。


 別の呼び方にした方が安心だろう。それも、なるべくルチルから離れた呼び名の方が良さそうだ。


 「そうだね。何がいいかな?」


 「変じゃなければ何でもいいですよ。」


 「うーん、じゃあ、ルチルミナの最初と最後の文字を取って、ルナはどう?」


 少し考えただけのメイがささっと呼び方を提案する。


 一応ナインも考えてはいたのだが全然思い浮かばなかったので、あまりこういうのは得意ではないのかもしれない。記憶を無くす前はどうだったのだろうか。


 それはそれとして。


 まあ、離れた呼び名・・・かな?僕は大丈夫だと思う。


 「いいんじゃない?ルチルはどう?」


 そんな場合ではないが、本人が嫌がる呼び方はしたくないからな。


 「可愛い呼び方ですね。私に似合うとは思えないですし、ちょっと恥ずかしいですが、それで構いませんよ。」


 照れているのかほんの少しだけ耳と頬を赤くしたルチル。恥ずかしいが嫌ではないようだ。ならばこれで決定だ。


 「それじゃあ人がいるところで呼ぶ時はルナで決定だな。・・・うっかりルチルって呼ばないようにしなきゃな。」


 「大丈夫だろ?ルチルには悪いがそんな頻繁に外に出れねえだろうからな。呼ぶ機会も少ねえよ。」


 「それもそうか。匿うのがメインだしね。」


 「ああ。」


 いくら変装したとはいえ、どこでバレるかわからないからな。余計な事はしない方がいいだろう。


 それはそれとして、グレンに聞いておきたい事があった。いや、本当はもっと早く聞くべき事だったのだが、聞き忘れたというか確認し忘れた。忘れちゃダメだったのに、流れでそのまま巻き込んでしまった。


 「あー、グレン。」


 「あ?何だ?」


 「いや、その、今更だけど、グレンの気持ちとか了承も得ず勝手に事件に関わって解決しようとしてるからさ・・・。よかったのかな?って思って・・・。」


 「・・・マジで今更だな。」


 事件現場に行く時は一応確認を取った。だがその後、ルチルを追いかける時と、話をして助けようとした時は確認を取らず、流れで巻き込んだ。


 本当に今更だった。


 正直、グレンが怒ってパーティー解消をしてもおかしくない事だった。寧ろそれで済めばいいレベルだ。


 今更申し訳なく思い、顔色を伺いながら謝罪をする。


 「ごめん・・・。」


 だがグレンは肩をすくめるだけで怒ることはなかった。


 「気にすんな、って言いたいとこだが、次からはちゃんと聞け。別に拒否したりしねえよ。」


 「え・・・。」


 そう言って普段のグレンらしくない優しい笑みを浮かべながら、ナインに言葉をかける。


 怒られるんじゃないかと思っていたナインは、口をポカンと開けるばかりで上手く反応を返せない。


 「何だよその顔。怒ると思ったのか?」


 「あ、うん、少し。」


 「まあ普通なら怒るだろうな。だがよ、俺はお前がこういう奴だってわかってパーティー組んでんだよ。だからぶっちゃけ、爆発現場に向かった時からこうなるんじゃねえかなあ、って思ってたさ。」


 グレンは最初からわかっていた。爆発現場に着いたナインが、そのまま事件に関わっていく事を。


 怪我をした冒険者を助けるため、そしてグレンを死なせないために、圧倒的格上だったアクアタイガーと戦ったナイン。


 そんな彼が、ルチルの状況を知って手を貸さないはずが無いのだ。


 「助けんだろ?」


 グレンが知るナインという男は、自己犠牲のお人好しなのだから。


 「うん。」


 「なら次からはちゃんと相談しろ。助ける事は否定しねえからよ。」


 ニカっと音がしそうな笑みを浮かべたグレンが、ナインの頭をポンポンと叩く。


 子供扱いをされた感じがしたが、今回は圧倒的に自分が悪いので大人しく受け入れた。


 それに。


 嫌じゃなかったからな。

また明日。

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