090 休日終了の音
「そういえばこの辺に浜辺って無いのか?」
砂浜というものを見たかったし体験したかったので、近くにあるのかメイとグレンに聞いてみた。
「この周辺には無いかな。たぶん。」
「ああ、無えな。この辺は磯みてえな岩場が多い場所ばかりのはずだ。」
どうやら無いらしい。残念だ。海で遊んでみたかった。あと海辺の魔物と戦ってみたかった。
「そっかー。」
ちょっとだけ残念そうにしながら答え、歩を進める。
だがいずれ浜辺に行く事もあるだろうとすぐに考えなおし、大人しくカルヴァース観光に集中することにした。
「おー、タコうまい。」
「エビも美味しいよ。」
「一口頂戴。」
「いいよ。私も頂戴。」
「ほい。」
港に行き、ナインが初めての海に興奮し、たっぷりと眺めたり触れたりした2時間後。僕達は港近くにある市場に来ていた。
現在時刻が正午過ぎなので魚介を販売している店は軒並み閉まっているが、屋台はしっかり営業している。
時間のおかげもあってかナイン達と同じような屋台目当ての観光客が沢山おり、市場は人でごった返していた。
「おー、エビうまい。」
「タコも美味しいね。」
現在ナイン達は市場にある飲食スペースにてお昼ご飯を食べている。メニューは朝から言っていた通りに屋台で買ったものだ。そして今食べているのは魚介の串焼きである。
ちなみにグレンはまだ昼食を買い終わっていないのか、ここにはいない。
「さて、次はイカにしよう。」
「私はサバにする。」
飲食スペースのベンチに並んで座り、ニコニコと串焼きを食べる2人の姿はやたらと目立っていた。今も離れたところにいる老夫婦が微笑ましい表情でこちらを見ている。
だがおいしい食事に集中する2人には周りの様子が目にも耳にも入ってこなかった。
「うーん、イカもおいしい。」
「サバも。ねぇ一口あげるからそっちも頂戴。」
「あーん。」
「・・・めちゃくちゃ目立ってんぞ。」
ジト目をしたグレンが大量の食べ物を抱えてやってきた。バッグにしまわず手に持っているのはきっと面倒だったからだろう。
グレンの言葉に僕は首を回して周りを見る。そしてゆっくりと周囲に視線を向けていくと通行人から飲食スペースにいる人と、次々に目が合っていく。
「本当だ、すごい見られてる。」
「気付いてなかったのかよ。」
呆れた声で言いながらグレンがテーブルの上にドサドサと買ってきたものを置いていく。
「もう気にしない事にしたんだよ。それより色々買ったんだな。」
魚介の串焼きにスープにパン。それにステーキまである。
「ああ、せっかくだから色々食いたくてよ。さて、まずはこれだな。」
「それは?」
楽しそうにしながらグレンはテーブルに置かれた大量の料理から一つを選び、手に取る。どうやら白身魚の串焼きのようだ。
「鯛の串焼きだ。」
「え!?それ高いやつじゃん!」
美味しそうに串焼きに齧り付き、ゆっくりと咀嚼するグレン。
鯛の串焼きは3000トリアもする。対してナインとメイが食べているタコやイカ、エビなんかは300から500トリアだ。桁からして違う。
「俺は金に余裕があるからな。」
「くっ!羨ましい。次の休みの時に絶対食べてやる。」
「おう、頑張れや。あーうめぇ。」
若干腹立つ言葉が聞こえたがご飯が不味くなるので記憶から消すことにした。
「ほらナイン、冷めちゃうよ。」
「あ、ごめん。食べよっか。」
グレンのせいで少しモヤモヤしたうえにテンションが下がったが、見かねたメイに促され食事を再開する。
自分の買った値段の安い串焼きを口に運ぶ。
うん、美味しい。安くたって美味しい。味イコール値段じゃないのだ。
でも次は鯛を食べよう。
「さて、これからどうしよっか。」
昼食を済ませ、出店で買ったジュースを飲みながら暫しの休憩をとった。ナイン達は、午後からの予定を相談し始めた。
「露店とか見ようぜ。港町だから珍しいものとかありそうだ。」
「私は雑貨屋が行きたいかな。もう少し調理道具が欲しい。」
グレンとメイが各々行きたいところを主張する。ちなみに僕はどこでもいい。見てるだけで楽しいからだ。
「じゃあ露店を冷やかしながら雑貨屋に向かおっか。それでいい?」
「いいよ。」
「おう。」
午後の予定があっさり決まった。ただこれだけで午後の時間全部を使うわけではないので、雑貨屋の後にまたどうするか相談すればいいだろう。
「よし、じゃあ行。」
ドガアァァーーーンッ!!!!!
また明日。