087 海町カルヴァース
アルトの町を出発し、途中の村に泊まったり寄り道をして魔物を倒したりして7日。
僕達はイース大陸最北の町、カルヴァースに到着した。
「海!海!海が見たい!!」
「うるせぇ。子供かお前は。いいから並べ。」
「仕方ないよ、記憶無いんだから。それに可愛いでしょ?私の夫。」
「・・・俺が可愛いって言ったら気持ち悪いだろ。」
町に入場する為の列に並びながら騒がしくする3人の姿は、その見た目も相まってかなり浮いていた。ただ本人達は一切気づいていない。
そうこうする内に列は進み、入場審査の番が来た。
「身分証の提示を。」
近づいてきた門番に僕達は冒険者カードを取り出して手渡す。門番は手慣れた様子でカードをさっと確認するとすぐに返してきた。
「確認した。入る前に一つ伝えておく。現在カルヴァースは3週間ほど前から謎の爆発事件が多発している。いまだ原因も不明で犯人がいるのかもわかっていない。そしていずれも人通りの少ない通りに1人でいる時に発生している。注意するように。」
カードを受け取りバッグにしまおうとすると何やらとんでもない注意がされた。
爆発事件?
「わかった、気をつける。入っていいか?」
「ああ。」
驚く僕をよそにグレンが対応し、僕達は町の中に入る。
正直いまだ何も判明していない爆発事件に注意と言われて、テンションは下がってしまった。というよりも何だかはしゃぐのが申し訳なく感じてしまっている。
「あんまり気にしちゃダメだよ?こういう事は町の警備隊や騎士に任せておけばいいんだからね。」
「そうだぞ。むしろ俺達が余計な手出しすると面倒な事にもなる。専門家に任せとけ。」
「わかった。」
メイとグレンのフォローを受け、何とか気持ちを切り替える。
せっかく港町に来たのだから楽しまなければ。だがその前に。
「ギルドに寄ってから宿行くんだっけ?」
一応道中に倒した魔物の素材がそれなりにある。売れば数万トリアにはなるだろう。
「いや、先に宿だな。思ったより人が多い。少しでも早く宿を決めねえと無くなりかねねえ。」
周囲を見回し、人の多さを確認したグレンが先に宿に向かうと決める。確かに人が多い。
「やっぱり祭りがあるからか?」
「たぶんそうだろ。これからもっと混み出すぞ。」
「なるほど。じゃあ宿探そっか。メイ行くよ。ってどうした?」
後ろを振り返りメイに呼びかける。だが彼女はその場で立ち止まり、何故か真剣な表情で周囲を見回していた。どこか目も鋭くなっている。
何かあったのだろうかとナインもメイの近くに行き、その場で首を回して人混みや建物に視線を向ける。だが別段変わった物や雰囲気は感じ取れない。
「本当にどうした?何かあった?」
「・・・ん。何か妙な感じがした気がして。」
「妙な?何かあるのか?」
「わかんない。町に入ってからしてたんだけど、最初は気のせいかなって思ったんだ。でもやっぱり何か変な、というか妙な感じがするんだよね。原因も何も全然わかんないんだけど。」
僕には何も感じずわからないがメイはこの町で何かを感じた。だがその何かがまったくわからない。
「爆発事件と関係してるのかな?」
「うーん、正直それもわかんない。この町由来の何かかもしれないし、それこそ特殊な結界の影響って言われたら納得しちゃうくらいの感じなんだよ。」
「かなり曖昧なのか。」
「うん。」
何もわからないからこそ、これが原因だよって言われたら納得してしまうくらいの曖昧さなのだろう。説明しているメイも理由がわからずに少し困った顔をしてしまうくらいに。
「とりあえず今わからないことは町を歩きながらゆっくり確かめればいいよ。まずは宿に向かおう。ほら。」
「あ、うん!」
人混みの中でずっと立ち止まっていると邪魔になるのでメイの手を取って移動を再開する。メイもすぐに嬉しそうにしながらナインの手を握り返した。
「どうした?何かあったのか?」
「うーん、あとで教える。とりあえず宿を探そう。」
「?わかった。」
今説明するより宿やらギルドやらを済ませた夕食時の方がいいだろうと考え、後回しにする。それに説明するにしても、違和感を感じたメイ自身が正直よくわからないと言っている。それなら尚更時間をおいた方がもっと何かがわかるかもしれない。
僕らは町の様子を物珍しく見回しながら空室のある宿を探して通りを進んで行った。
宿の確保とギルドでの素材売却を終えた夜。僕達は港近くの店に夕食をとりに来た。
この店は宿の店員が教えてくれた海鮮料理が美味しいと評判のおすすめの店だ。やはり港町に来たなら海鮮は外せないだろう。あまりお金は無いけど。
「ふー。やっぱ港町だと新鮮で美味えな。それに安い。」
「エビ。エビが至高だ。こんなに美味しいなんて。」
「ナインはエビが好きになったんだね。私は魚かな。海の魚は泥臭くなくて美味しい。」
食事を終え、三者三様の感想を言いながらお酒やジュースを飲む。
因みにお酒を飲んでいるのはグレンだけだ。ナインとメイは見た目的にアウトという事でお酒は禁止にされた。
「んで?結局宿探しの前に教えるって言ってたのは何だったんだ?」
お酒を片手に少しだけ声を落としたグレンが2人に聞いてきた。
「ああ、あれね。何かメイがこの町に入ってから妙な感じがするって言ってたんだよ。」
「妙な?」
「うん。上手く説明できないんだけど、何かこう、違和感というか不思議な感じというか、捉えどころのない感じ。最初は気のせいかなぁって思ったんだけど、やっぱり気のせいって感じがしなくて立ち止まって確認してたんだよ。そうしたらナインが私の様子に気付いて聞いてきたの。」
「違和感や不思議な感じか・・・。俺は全く感じないな。それで原因はわかったのか?」
「わかんなかった。」
ナインとメイも声を落とし、何があったか説明する。グレンも違和感等は感じなかったらしい。そして結局夕食後でも原因はわからなかった。
「そうか。爆発事件とは関係無いのか?」
「それは僕も気になったから聞いたんだけど、わかんないってさ。」
やはりグレンも爆発事件との関連が気になるらしい。それはそうだろう。町に入ってから変な感じがする。そして現在この町では爆発事件が起きている。となれば関係しているのでは?と考えるのが普通だ。
「ふむ、何もかも不明か。まあわかった。とりあえずは放っておこう。」
「いいのか?」
「ああ。原因がわかってから考えりゃいい。それに町に入った時にも言ったが、基本こういう事は警備隊や騎士の領分だ。俺達が積極的に関わる事じゃねえ。」
「そうだな、わかった。今は自分達のことを優先だな。」
「そういう事だ。」
隣に座るメイもコクコクと頷いている。そういう事ならこの事は一旦脇に置いておこう。
僕達が優先すべき事は。
「それじゃあ、僕達が優先すべき事についての話をしよっか。」
予約投稿忘れて寝そうになりました。
また明日。