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レゾンデートル  作者: 星街海音
第二章 海町は明日を願う
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084 制覇報酬


 ダンジョン制覇報酬が出てるとグレンが言い、奥に向かって歩いて行った。


 制覇報酬という言葉は聞いたことが無い。ギルドで言われた記憶も無ければ、ダンジョンについて書かれた地図にも記載が無い。


 「ごめんメイ。制覇報酬ってなんだ?」


 グレンの後を追いかけながら、メイに聞いてみる。ついさっき空気を読まずにジョブの説明を求めたのでちょっと気まずい。


 「あれ?知識に無かった?・・・抜けたのかな?まあいいや。制覇報酬っていうのは、ダンジョンボスを倒した後に出現する宝箱の事だよ。中身は大概が武具とかアクセサリーだね。」


 メイの説明を聞き、名称そのままなんだなと納得する。それと武具ばかりで魔石はほぼ出ないから今までの説明に無かったようだ。


 「武具かアクセサリーか。何出るか楽しみだな。」


 「だね。でもCランクダンジョンだと鉄剣とかも普通に出るから期待し過ぎないほうがいいよ。」


 「鉄剣・・・。その時は売るか予備にしよう。」


 そういえばアビリティがついた武具はレアなんだったか。


 とりあえず何が出てもいいやくらいに考えながら宝箱の前にいるグレンに近づく。蓋が閉まっているのでわざわざ開けずに待ってくれていたようだ。


 「ごめん待たせた。」


 「おう。」


 「それじゃあ・・・。あ、ドロップ品拾ってなかった。」


 戦闘後、すぐにジョブの説明を聞いていたので、エアーウルフ5体とウインドウルフ1体の素材と魔石を拾ってくるのを忘れていた。


 急いで戻って拾ってこようと体を反転させる。


 「あ!待て!大丈夫だ。ちゃんと回収してっから。」


 今にも走り出そうとしていた僕の肩をガシッと掴み、少しだけ慌てながらグレンが止める。いつの間にか回収してくれてたらしい。


 もしかして。


 「もしかして、僕がジョブについて聞いてた時・・・?」


 「ああ、時間があったからな。気にすんな。知らねえ事があると聞きたくなんのはわかっからよ。」


 すごく大人な対応をされ、居た堪れなくなってしまう。


 僕とメイだけの時ならば、好きな時に質問したりしても問題無かった。だが、今はパーティーを組んでダンジョンに来ている。仲間に迷惑をかけないようにしなければいけない。


 ただでさえ僕が一番弱いんだから。


 「ごめん、ありがとう。」


 「だから気にすんな。ほら、開けねえのか?」


 僕の落ち込み具合にグレンが焦り出し、宝箱に話を戻す。


 確かにずっと落ち込んでるのも仲間に迷惑だ。切り替えなければ。


 「開けるよ。あ、罠感知外してる・・・。」


 「制覇報酬に罠は無えぞ。」


 あ、そうなんだ。なら。


 「ならグレンが開けなよ。このダンジョンでまだ1回も宝箱開けてないだろ?」


 罠がある可能性があったので、毎回僕が開けていた。ただ罠が無いのであれば、誰が開けても問題あるまい。


 「そうか?まあそこまで言うなら仕方ねえな。開けんぞ。」


 別にそんなに勧めるような事を言ったつもりはないが、グレンは嬉しそうな顔を一生懸命隠しながら不承不承と言った雰囲気でかがみ込み、宝箱に手をかけた。


 開けたかったんだな。ごめんよ。次機会があったら順番にしようか。


 僕とメイは見えてないことをいい事に後ろから生暖かい目を向ける。見られたら拗ねられそうだ。


 「・・・お!当たりだ。」


 宝箱をゆっくりと開けたグレンが嬉しそうな声を上げた。当たりというからにはレアな物が入っていたみたいだ。


 「何だ!?見せてくれ!」


 「あ、私も見たい!」


 僕とメイはかがみ込むグレンに覆い被さるようにしながら後ろから宝箱の中身を見る。


 宝箱の中に緑色の鞘に入った剣が入っていた。


 刀身の長さが僕の持つ長剣よりも短い。同じサイズの剣を武器屋でも見た事がある。確か小剣だったかな。


 グレンが当たりと言っていたので鑑定を使って詳細を確認する。


風狼の小剣

等級:C

種別:小剣

属性:風

アビリティ:<風刃>

耐久値:280/280


 「アビリティ付いてる!ん?風狼?」


 鑑定がⅡなったおかげで、小剣に風刃というアビリティが付いていることがわかった。


 それとは別に剣の名前が気になる。


 「さっきのあれだね。」


 「あれだな。」


 メイとグレンが首をまわして後ろを見る。見ている先は先程まで戦っていたボスのウインドウルフがいた場所だ。


 やっぱりそうなのか。


 「て事はこの風刃ってエアーカッターみたいなのかな?」


 アビリティ名からおそらくそうだろうと思う。


 「たぶんそうじゃないかな。使ってみれば?」


 メイが宝箱の中から風狼の小剣を取り出し、僕に手渡してきた。


 確かに使ってみるのが一番早いか。


 「そうだね。いい?」


 受け取りながらグレンに確認をとる。勝手にやって怒られる事は無いだろうが、一応聞いておいた方がいいだろう。


 「いいぞ。こっち向けんなよ。」


 「向けないよ。」


 茶化されながら後ろを向き、数歩移動してから小剣を抜く。


 薄い緑色をした両刃の小剣をとりあえず上段に構え、風刃と念じながら振り下ろす。


 シュパッ!


 軽い空気が切れるような音と共に薄緑色の刃が刀身から前方に飛び出していった。

 

 「おお!まんまエアーカッターだ!風魔法だ!」


 新しいおもちゃで遊ぶ子供のようにその場ではしゃぎだす。2人に見られているのがわかっていても楽しいものは楽しいのだ。


 だが僕はすぐに風狼の小剣を鞘に戻し、2人のもとに戻っていく。


 本当はもっと試してみたいが、2人を待たせる訳にはいかないのでぐっと我慢した。


 「ただいま。ちゃんと見えた?」


 「見えたよ。はしゃいでる姿も。でも我慢したんだね。」


 普通な顔をして戻ったが、ニコニコしたメイは流してはくれなかった。触れないでくれ。


 「う、待たせる訳にはいかないからな。」


 「偉いね。」


 ええい子供扱いするな。夫じゃないんか。


 そう思ったが言っても揶揄われるだけなので話を進める事にする。


 「アビリティが付いてるのはいいんだけど、小剣は使わないなぁ。サイズ的にちょっと短いんだよ。」


 1ヶ月とはいえずっと長剣を降ってきたので、小剣は少しだけ使いにくい。間合いが変わるのがキツい。


 「グレンも使わないだろ?」


 「ああ、大剣両手持ちだからな。いくらサイズの小さめな小剣だっつっても、今の戦い方に組み込めねえ。」


 使わないだろうなと思ってグレンにも聞いてみると、案の定だった。


 確かに、大剣だからこそ僕以上に使いにくいだろう。


 となると。


 「メイが使うか?」


 「私?」


 自分に振られると思わなかったのかメイが驚いた表情をした。


 「グレンもいいよな?」


 「いいぞ。使えそうな奴がいるのに、売るのはもったいねえしな。」


 「だってさ。」


 グレンにも確認を取ると迷う事なく了承してくれた。

 

 現在彼女が背に持つ長剣は僕の予備である。元々長剣を使っていたらしいが、今のメイの体だとかなり大きい。


 だがこの小剣ならば少し大きいが、今のメイでも何とか腰に差して持ち運べるだろう。


 武器スキルに関してもおそらく問題ないと思っている。だてに2000年生きてないのだ。たぶん小剣スキルも高レベルで持っているだろう。


 「うーん・・・。じゃあ使わせてもらうね。」


 「ああ、ほら。って先に背中の剣外さないとな。」


 メイは僕と風狼の小剣を交互に見てから考えるような素振りをし、小剣を使うことを決めた。


 たぶん僕が何を考えてるのかわかってくれたのだろう。今の状態だと背から剣は抜けても戻せないからな。


 「外れたぞ。」


 「ありがとう。」


 メイの背中の長剣を外し、小剣を手渡す。長剣は予備として僕のマジックバッグに戻しておく。


 「んしょ・・・。とりあえずこれでいいかな。」


 「まあ今の格好じゃ仕方ねえよな。」


 グレンが言った仕方ないの言葉通り、今のメイは腰部分で縛ってある紐に小剣を無理矢理突っ込んで固定していた。かなり歩きにくそうだ。


 「戻って素材売ったら絶対服だな。」


 「だね。じゃあそろそろ出よっか。」


 そう言ってメイは宝箱のさらに奥に視線を向ける。


 宝箱に気を取られて気付かなかったが、そこには薄っすらと光を放つ魔法陣があった。たぶんあれが脱出用の転移門なのだろう。


 転移門と聞いていたのに門ではなく、魔法陣なのか。


 なら転移陣でいいのでは?と思ったが、僕が言ったところで名前が変わるわけでもないので、何も言わない事にした。


 「遅くなると町の門閉められちゃうから、少し急ぎめで帰ろっか。」


 「そうだな。素材の買取にメイの服。ああ、あと宿も見つけなきゃだ。」


 「やる事ばっかだな。急ぎめっつうか急ぎで帰るか。」


 僕たちは町に戻ってからの予定を言い合いながら転移門に向かう。


 近くなのですぐに到着するとグレンが躊躇無く転移門の上に歩いて行った。そしてメイも続いていく。


 正直僕は転移というものが初めてなのでちょっと怖い。だが2人が先に乗ってしまっている上に、脱出する為には乗らないわけにはいかない。


 心の中でぐっ!と気合を入れ、それでいて何事も無い顔をしながら僕は転移門に足を踏み入れていった。


 「よし、全員乗ったな。んじゃ行くぞ。転移!」


 気合いは入れたが心の準備はしていなかった。だがそんな事は知らないグレンは全員が転移門上にいるのを確認すると、さっさと転移門を起動させてしまった。


 「うえっ!?そんないきな・・・。」


 我慢していたが咄嗟に出てしまった僕の叫びは、起動した転移門の光と音に飲まれて無人のボスの間に掻き消えて行った。

また明日。

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