083 今更ジョブ
ウインドウルフの素材が出現し、僕に至ってはレベルアップ表示が現れた事で、やっと戦闘態勢を解いていく。
戦闘時間としては1分ほどだったが、新しい魔法なんかも使ったので思った以上に疲れた。
「・・・何か思ったより弱かったね。」
だがそれよりも想像以上に苦戦しなかった事に少し驚く。
Cランク下位と聞いていたので、正直もっと強いと思っていた。
「そりゃユニークのアクアタイガーと比べたらな。アレが強すぎんだよ。」
グレンは僕が何と比べていたのか気付いたようで、呆れ声でそう言ってきた。どうやらこれが普通らしい。
「そうなのか。」
「それに今のウインドウルフだってダンジョンボスだから普通より強いんだぞ。」
「え?そうだったの?」
これも普通ではなかったらしい。一度普通のCランク魔物と戦ってみたいところだ。普通がわからん。
「お疲れ様ー。」
僕とグレンがCランク魔物の強さについて話しているとメイが労いの言葉と共にやってきた。
そういえばいたの忘れてた。
「ナイン?忘れてないよね?」
何でバレるんだ!?
顔は笑顔なのにすごく冷たい目をしたメイにいきなり見抜かれ、ドキッとしてしまう。
「忘れてないよ。大丈夫。いつもメイの事を考えてる。」
思いつく限りの言い訳を口にし、何とかご機嫌を取ろうとする。
「え?いつも?そんなー・・・。恥ずかしいよ。」
いつも考えてるの言葉が刺さったようだ。わかりやすいくらい照れながら、物凄く嬉しそうにしている。何とかなったようだ。チョロ過ぎない?
ええい、もじもじするな。
「そうだ。今の戦闘でレベル上がったよ。これで19だ。」
話題を変えるため、レベルが上がった事を伝える。実際嬉しい事なので話したいだけなんだけど。
「もうちょいで20だな。そうか19って事はジョブもまだなのか。」
横にいるグレンが聞き慣れない単語を口にした。
ジョブって何だ?知らないぞ?
「何だそれ?」
「は?ジョブ知らねえのか?今更?」
僕がジョブを知らない事にグレンがかなり驚いている。今更と言われるほど常識なのかもしれない。
「知らない。・・・教えてもらってないなあ。ね?メイ。」
グレンからメイにゆっくりと顔ごと視線を向けながら話しかける。今の僕はとてもいい顔をしている事だろう。
「うあ・・・。」
「またいつもの言い忘れかな?メイさん?」
そうなのかな?
先程まで僕の言葉で嬉しそうにしていたメイが、今は物凄くしどろもどろしている。
「ち、違うんだよ。まだ先だと思ったから後にしようと思って・・・。」
「で、忘れたと。」
「・・・はい。」
僕の圧力に屈したメイは忘れた事を認めた。言い訳したってバレるんだぞ。
「次何か言い忘れてたら、1週間一緒に寝るの禁止ね。」
今回は許そう。だが次は罰を与える。
「そ、そんなぁっ!?それだけは許してぇ!!」
涙目になりながら僕に縋り付いてきた。なんだか側から見ると少女を虐めてるみたいに見えそうだ。
というかそんなに嫌なのか。なんかそれはそれで恥ずかしいんだが。
「ならちゃんと忘れないでね。」
「・・・はい。」
しょんぼりしながらメイはこくんと頷いた。なんか罪悪感あるな。
まあ実際こう言ったが、忘れても罰を与えるつもりはない。ただかなりの頻度で伝え忘れがあるので、釘だけは刺しておかなければいけない。
「それで、ジョブって何だ?」
話を戻し、ジョブについてメイに聞いてみる。
「・・・はぁ。ジョブっていうのは、30レベルになると取得できるステータス上昇効果のみのスキルみたいなものだよ。」
溜息をついて気持ちを切り替えたのか、メイがジョブについて説明を始めた。
「取得するには、30レベルを超えた状態で教会にあるジョブストーンに触れるだけだよ。」
ジョブストーン?何だそれ?石?それに何で教会?わからないので聞いてみよう。
「ジョブストーンって何だ?それに何で教会なんだ?」
「ジョブストーンっていうのは大きな壁みたいな石板の事だよ。それと教会にある理由はわかんない。昔から教会にあったから。」
「そうか。」
壁みたいな石板というのが、いまいち想像出来なかった。まあこれに関しては30レベルになったら実際に確認出来るのでとりあえず納得する。
ただ教会にある理由はメイも知らなかった。彼女も知らないという事はたぶん、調べてもわからないだろう。そういうものだと納得するしかないのかもしれない。
「話を戻すね。ジョブも色々な職種とランクがあって、最初は剣士とか魔法使いみたいな下級職からだよ。」
「最初は下級職・・・。という事はジョブもスキルみたいに進化するのか?」
「そうだよ。例えば剣士だったら、剣スキルみたいに剣を使用していればジョブレベルが上がるよ。」
聞けば聞くほどかなりスキルに似てるな。
「なるほど。ステータス上昇って言ってたけどどのくらい上がるんだ?」
「剣士の場合、ジョブレベル1でSTRとDEXが5パーセント上昇するよ。上限の50レベルまで上がると、両方とも10パーセント上昇だね。」
初期で5パーセントか。少なく感じるが、ジョブレベルと基礎ステータスが上がれば上昇値も増えるので、かなり重要だろう。
「バカに出来ない上昇値だな。進化するとどんな感じになるんだ?」
「剣士からは武器種によって色々だね。長剣士とか大剣士とかだよ。ちなみに進化すると上昇するステータスの種類と上限も増えるよ。」
「ふむ・・・。進化先も考えて選ばないといけないな。」
どこかにジョブについての本とか無いかな?出来れば暇な時とかに読んでゆっくり覚えたい。
「そうだね。ジョブについてはこんな感じかな。あ、一応、複合ジョブとか特殊ジョブとかもあるんだけど、でもこれは本当にだいぶ先になるだろうから、また今度にしよっか。」
え?まだこれ以外にもあるの?
言い忘れるな、ちゃんと教えろみたいに言った手前、また今度にしようとは言いづらい。なのでメイから今度と言われて少しホッとした。
「そうしよう。とりあえず詳しい説明なんかは道中で頼むよ。その時にジョブについて相談するな。」
よく考えたらボスを倒したとはいえ、まだダンジョン内だ。ジョブの詳細は港町へ向かう道中なんかでいいだろう。
「わかったよ。まずはダンジョンから出よっか。」
メイも後でと思ったようだ。今回に関してはこの場で説明を求める必要は無かったと反省する。
宿か野営時、それか移動中に聞けばよかった事だ。知らない事だったために今の状況を無視してしまった。
「終わったか?」
キリの良いタイミングだと思ったグレンが話しかけてきた。グレンの事も無視してしまっていた。本当に反省しよう。
記憶と知識が無いせいなのか、知らない事があるとどうも気になってしまう。もう少し落ち着きを持とう。
「ごめん。終わったよ。」
「そんじゃ行こうぜ。奥にダンジョン制覇報酬の宝箱出てんぞ。」
謝罪をしたがグレンは気にした様子も無く、そう言ってボスの間の奥に向かって行った。
・・・ん?ダンジョン制覇報酬ってなんだ?
また明日。