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レゾンデートル  作者: 星街海音
第二章 海町は明日を願う
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079 就寝と寝ぼけ


 「お前ら、ノースト大陸に行ったら何すんだ?」


 グレンがまた質問してきた。ノースト大陸に行く予定だとしか伝えてないので気になるのだろう。


 「特にこれといって無いかな。」


 「あ?これも無えのか?」


 さっき目的は特に無いって言ったじゃないか。無いんだよ。世界を見てまわるのが目的なんだから、観光くらいに思ってくれ。


 「無いよ。だから、まずはこれから行く港町のカルヴァースで情報を集めるつもり。 4、500年経って今の世界がどうなってるのかわかんないからね。」


 確かにどうなってるのかわからないな。僕はそもそも前の世界すら知らないけど。


 カルヴァースという町でノースト大陸や他の大陸の情報を集め、今後の旅をどうするのか決める予定だ。


 「なるほど。4、500年じゃ色々変わってるか。んじゃとりあえずはカルヴァース行ってから決めるって感じか。」


 「そんな感じ。」


 「そうだな。」


 基本ノープランなんだ。


 彼はこれで聞きたい事が無くなったらしく、食後に唐突に始まったグレンの質問タイムはあっさりと終わった。


 さて、今日は後は寝るだけだな。












 僕たちは今、寝床の準備をしている。


 と言っても、マントを敷いて着替えの入った皮袋を枕にするだけなのだが。


 因みに外で野営する時は、グレンが持つテントを利用している。ただし、1人用なうえに夜の見張りが必要なので4時間交代での使用だった。


 「ほら、出来たぞ。メイはここで寝てくれ。」


 用意した場所はメイ用の寝床だ。汚れるが僕はそのまま地面で寝る。


 言われたメイは靴を脱ぎ、地面に敷かれたマントの上に座った。そして僕を手招きする。


 「ありがとう。ほら、ナインもおいで。」


 「・・・何で?」


 聞き返したが言っている意味はわかる。


 「何でって、一緒に寝るんだよ?」


 やっぱり。


 何当たり前の事聞いてるの?とでも言いたげな顔でメイが答えた。


 「1人分しか無いんだから、僕はいいよ。」


 「1人分しか無いから言ってるんだよ。」


 「いや、確かにそうだけど・・・。」


 流石に一緒に寝るのは恥ずかしいので抵抗がある。


 それにしても君はぐいぐい来るね。改めて思うが何でこんなに好かれてんだろう。本気でわからん。


 「いいかいナイン。私達は夫婦です。」


 断言されてしまった。


 「何だ?だから夫と妻は一緒に寝るって事か?」


 「その通り!」


 合ってるのかよ。それにしてもいい笑顔だな。そんなに当たってたのが嬉しいのか。


 「だから早く来なさい。」


 有無を言わせぬといった感じだ。


 「押しかけ女房みたいだな。」


 「私のところにやって来たのはナインの方だけどね。」


 仰る通りです。僕が心だけでやってきました。


 「どうせ離れられないんだから諦めなさい。」


 いつまで経っても納得しない僕に、メイが少しだけ拗ねながら諭すようにそう言ってきた。


 仕方ない。どう言ったって頑固な彼女は考えを変える気は無いだろう。メイの言う通りに諦めるしかないのかもしれない。


 「はぁ・・・。」


 溜息を吐きながら僕も靴を脱ぎ、寝床に座るメイの左横に移動した。そしてすぐにメイと反対の方を向いて寝転ぶ。


 「うんうん。ほら、早く寝ようね。」


 背中側から聞こえてくるメイの嬉しそうな声を聞き流し、僕はさっさと寝ようと目を閉じる。


 今日はダンジョン探索に加え、メイの体を作ったり、初めて顔を合わせたりと色々あったのでかなり疲れている。なのですぐに眠れそうだ。


 「おやすみ。」


 「おやすみー。」


 メイを無視して寝ようとしたが、いつも通り就寝の挨拶をしてしまった。


 くっ。いつも言ってたから癖になっていた。・・・はぁ。もういいや。寝よう。


 考えるのをやめ、寝る事に集中する。するとやはり疲れていたのかすぐに眠気がやってきて、僕は眠りに落ちていった。


 隣で横になっているメイも、同じように疲れていたのかすぐに眠っていった。


 「・・・諦めんの早えな。」


 離れて横になっているグレンの呟きは2人には届かなかった。












 体が重い。まるで重りでも括り付けられているような感覚がずっとしている。それに何かで縛られているような感覚も。


 何だ?何があった?


 眠りから意識を覚醒させながら、その理由を探る。


 するとどうやらこの重さと束縛感は僕の左半身に集中しているようだった。


 ダンジョンが崩落して体が・・・。は無いか。ダンジョンって壊れないらしいし。じゃあ何が原因だ?


 理由がよくわからず、確かめるためにゆっくりと瞼を開けていく。


 ダンジョンの天井が見える。横向きで寝たはずなので、途中で仰向けになったようだ。


 じゃあ何が僕の左半身をと思い、目を向ける。


 「・・・。」


 そこには、僕の左側に絡みつくように抱きつくメイがいた。


 こいつが原因か。


 寝ぼけたのか、それとも意図的にか、理由は不明だが僕を抱き枕にしていたせいだったようだ。


 そりゃあんな感覚がするはずだ。


 「ほら、メイ、起きろ。朝だぞ。」


 右手でしがみつくメイの肩を揺すって声をかける。彼女は朝が弱いので、正直すぐ起きてくれるかは微妙だ。


 「よいしょ。メイ、起きろって。」


 何とか上半身を起こし、再度声をかける。


 「・・・ナイン、そんな大胆な。うにゅうにゅ。」


 どんな夢見てんだこの子は。というかその見た目でやめろ。僕が変態みたいに見られるだろうが。


 「はぁ・・・。ん?」


 ふと前方に気配を感じて顔を向ける。するとそこにはいつの間に起きていたグレンが座っていた。


 「・・・。」


 「・・・。」


 グレンにスッと目を逸らされた。見なかった事にしたらしい。たぶん。なので僕も何もなかった事にする。


 「おはよう。早いね。」


 「おう。まあ早く寝たからな。今日はさっさとボス倒して町に戻ろうぜ。もう携帯食料は飽きたぜ・・・。」


 「わかる。肉とか魚が食べたい。」


 ダンジョン探索中の食事はずっと携帯食料だった。安く、腹持ちが良く、持ち運びが楽なこの固形の食料。こういった簡単に町に戻れない時には便利だが、いかんせん不味い。レンガみたいな見た目とモソモソした食感、そして土みたいな味。


 当分食べたくない。マジックバッグの拡張が済んだら肉とか野菜、後は調理器具を購入しようと思う。


 「うにゅぅ・・・、あ、ナイン。おはよ。」


 戻ったらあれが食べたいこれが食べたいと話していると、左下から寝ぼけた声が聞こえてきた。


 やっと起きたか。いや、まだ起きたとは言えないな。


 「おはよう。ほら、起きたなら離してくれ。朝の仕度が出来ないだろ。」


 「はーい・・・。」


 まだ寝ぼけた状態だが、朝の仕度と言われたのがわかったのか手を離してくれた。


 僕はまた掴まれても困るのですぐに立ち上がると水の魔道具で水を出し、顔を洗う。


 やっとさっぱりしたな。グレンは・・・、自分で先に終わらせたみたいだな。


 グレンの分の水を出そうと思い、彼の方を見ると首を横に振って断ってきた。どうやら僕たちが起きる前に自分でやったようだ。


 「メイ、起きたか?なら水出すから早く顔洗え。」


 「はーい・・・。」


 まだ意識が半覚醒な状態なのか、寝床から立ち上がるとふらふらと歩き出した。危なっかしいな。


 僕はメイの元に行き、手を貸しながら水場にしている場所に連れていく。


 「もしかして今後毎日こんな感じなのか・・・?」


 この先も朝が弱いメイの相手をしなければいけないのかと気付いてしまった。


 寝ぼけ姿のメイの仕度を手伝いながら、僕は朝から少しだけ憂鬱になった。

また明日。

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