070 サイズが無い
まだ幼さの強い少女の声で、目の前に立つ彼女はとても嬉しそうに僕の名を呼んだ。
僕が森で目覚めてからちょうど1ヶ月。まだたったの1ヶ月しか経っていない。それでもやっと会えたという思いが心の底から湧き上がってくる。
「そうだな、メイ。」
僕も顔を見て話せる事は嬉しい。だがなんだか妙に照れ臭くなり、たったそれだけしか返せなかった。
メイの姿は前に言っていた通り、僕と同じ真っ白な髪と赤い目をしている。それに整った顔立ちだ。これは色々と悪目立ちしそうな見た目だと感じた。
まぁそれはそれとして。
「どう?本物の私は、どう?」
「それは後でな。まずは服を着ろ。」
何故か期待した顔をしながら感想を求めてきたが後にしてもらう。僕はバッグから着替えの服やら靴を取り出してメイに手渡す。
全裸で感想求めてくんな。
「仕方ないなぁ。後でね。」
後での部分を強調された。まあいいか。メイの事だからどうせ忘れるだろう。
メイは僕の着替えのズボンを持つと裾に足を通し、それからシャツに腕を通した。が、案の定、僕の予想通りの姿になっていた。
「・・・やっぱり大きすぎるな。」
「裾もウエストもダルダルだね。」
今のメイの身長は120センチくらいしかないので服がかなり大きかった。
正直、僕のサイズで購入しているのでこうなるのはわかっていた。こんなことならメイのサイズで買っておけばよかったと少しだけ後悔する。
とりあえずなんとか着れるようにしなければ。
「どれ、ちょっと動くなよ。」
「はーい。」
メイの側に行きバッグから適当な紐を取り出す。それから膝くらいまであるシャツの裾をズボンの中に突っ込み、紐でウエストの部分をキツくならないように縛って調節する。
とりあえず町に戻るまでの応急処置だ。このダンジョン内ならほぼ人に見られる事も無いのでこれで問題無いだろう。そう思っておく。
ただ町に戻ったらすぐに服屋に行くのは決定だな。
「キツくないか?」
「大丈夫だよ。」
「ほれ、袖と裾は自分で折れ。」
「はーい。」
子供を相手にしてるみたいだ。
凄くニコニコしていてご機嫌なメイの今の状態は見た目まんまの子供みたいなのでそう感じてしまう。絶対言葉にはしないけどな。間違いなく不機嫌になるし。
楽しそうにしながら服の袖を折っていたメイは次に床に置かれていた靴に手に取った。だがじっと靴を見つめるだけで履こうとしない。服と同じように靴のサイズも合わないからだろう。
「靴はどうするか・・・」
「うーん。あ、小さい皮袋あったよね。確か2つ。あれ頂戴。」
「皮袋?」
よくわからないがバッグから皮袋を2つ取り出してメイに手渡す。ちなみに小さいとは言ってもサイズは大体20センチくらいのものだ。
受け取ったメイはさっそく皮袋で何やらゴソゴソとやり始めた。
「出来た!これでとりあえずは脱げないしずれないかな。動きにくいけど。」
そう言って僕に足を見せてきた。
何をしたのか気になったのでよく見てみると、どうやら皮袋を履いた上から靴を履いているようだった。確かにこれなら何とかなるか。メイの言う通りかなり動きにくいと思うけど。
「それでどう?私の姿は?」
「それはまた後でな。グレンがずっと後ろ向いたままなの忘れてないか?」
「あ・・・。」
忘れていたようだ。かわいそうに。
「忘れんな。それで、もういいのか?」
離れた場所にいる訳ではないので僕たちの会話が聞こえていたグレンが後ろを向いたまま声をかけてきた。
僕たちの邪魔をしないよう、始めた時からずっと黙っていてくれていたので少し申し訳ない。
「いいよ!ごめんね。忘れてた。」
「はっきり言うな。グレンがかわいそうだろ。」
気を遣ってくれたグレンに悪いだろ。
「お前ら2人ともだいぶ失礼だぞ。」
僕らの会話にグレンが呆れた顔をしながら振り返る。
そして僕の側に立っているダボダボの服を着たメイに視線を向けた。
「・・・小せえな。」
メイの姿に思わず思ったままの感想を述べた。
「え?最初の感想がそれなの?もっとあるでしょ?」
「ああ、悪い。ナインに子供サイズってのは聞いてたが、こんなに小せえとは思わなくてよ。」
確かに宿でした説明ではCランクだと子供サイズになるとは伝えた。だが想像していた以上に子供だったので驚いたのだろう。
かく言う僕ももっと大きいと思っていた。
「Cランクの魔力だと、体の大きさ的に10歳前後が維持出来る限界なんだよ。」
もっと上の年齢の肉体を作るにはより上位の魔石が必要になる。これも前に聞いていた。元の体の大きさ近くまでにするには最低でもAランク魔石が必要らしい。Sまでいけば元の体を作れるとも言っていた。
「なるほどな。・・・それにしても2人並ぶとそっくりだな。兄妹みてえだ。」
また明日。