062 秘密の共有と紹介
冒険者ギルドを出た後、ダンジョン攻略のための買い物を終わらせて宿に戻ってきた。
と言っても買う物は食料が中心だったのですぐ終わった。携帯食料がいっぱいだ。
それと一応地図に書き込んだりするかもしれないので魔道具のペンと普通のインクを買った。ペンにインクを入れた状態で魔力を流すと書けるようになるものだ。インク漏れも無いらしい。便利だな。
「よいしょっと。それじゃあ明日の準備も終わったし、ギルドで言ってた魔石の事について話すか。」
あとは明日に備えて寝るくらいなので今話すのが丁度いいだろう。
「ああ、言ってたやつだな。色々考えたが、マジックバッグの強化に使う・・・じゃねぇよな。結局わかんなかったんだよなぁ。」
考えたのか。まぁ普通はわかんないよな。
「あー、違うな。とりあえずこれも僕の体の時みたいに秘密で頼むな。」
メイの事もバレると面倒くさい事になるかもしれないしな。
「わかってるよ。て事はまたとんでも事情か・・・。お前はビックリ箱か何かなのか?」
うっ!否定出来ない。
「そ、そんな事ないよ。」
否定出来ないけど否定しておく。たが僕自身も知らない事があるのでやっぱり否定出来ない。
「さてと。それじゃあどう話すかな。うーん、やっぱり1番大事な部分からだな。僕の中にはもう1人、メイって存在がいるんだよ。それで・・・。」
僕の中にメイがいる事。元々メイが魔人だった事。500年前に僕が魂だけの状態でメイの元に現れた事。まぁ改めてだが僕の事と僕たちの大体の事情だな。
そして色々説明したが、僕の中にいるメイの体を作るために、最低でもCランクの無属性魔石が必要なのだ。
30分程かかったが、頑張って僕たちの事と魔石が必要な理由を語った。正直疲れた。
「ふぅー・・・。」
沢山喋ったから口が疲れている。なので水でも飲もうと思い、バッグから水筒を取り出す。
「・・・。」
因みにグレンは話の途中から固まってしまい、口を半開きにして一言も喋らなくなってしまった。
とりあえず彼は落ち着くまで放置しておこう。
(疲れた。)
緊張もあったのかどうやら口だけじゃなく、精神的に疲れているようだ。
『お疲れ様。それにしてもグレンの反応は予想通りだね。』
そりゃこうなるだろう。だって意味わかんないし。
(まぁどうしようもないから放置だな。それより明日見つかるといいな。)
反応の無いグレンより魔石だ。出来ればダンジョンで見つかるのが嬉しい。たぶん町を回って探す方が時間がかかる可能性があるので購入は最終手段だ。というかお金足りるかな?
『そうだね!楽しみだよ!』
物凄くはしゃいでいる。これは見つからなかった時はかなり落ち込むだろうな。
そうしてダンジョンについてだったり、体を作ったらやりたい事だったりを話しているとグレンがゆっくり動き出した。
「大丈夫か?」
『動いたね。10分は止まってたよ。』
長いな。
「・・・ああ、大丈夫だ。まだ秘密はあると思ってたが、流石にもう1人いるとは思わねえだろ。」
ごもっともです。普通そんな奴いないからな。
やっと動いて喋るようになったが、グレンの動きや反応はまだ鈍そうだ。
「何か聞きたい事はあるか?」
混乱してどうしたらいいかわかってなさそうだし、促した方がグレンも反応しやすいだろう。
「・・・そう、だな。メイって言ったか?その人?にはこっちの事が見えたり聞こえたりしてんのか?」
『見えてるし聞こえてるよー。それより人に?付けないでもらえるかな。一応人だよ。一応。』
僕が答えるより先にメイが答えている。
聞こえてないだろう。これ、僕が代わりに伝えなきゃいけないんだろうな。
「見えてるし聞こえてるよ。ってさ。それと人って部分に?付けるなだって。一応人だって文句言ってるよ。」
「あ、悪い。いや、でもよ。普通はありえねえからよ。悪かった。」
気持ちはわかるよ。そもそも魔人自体、今はそれなりにいるみたいだが稀なのだ。その上で体の中に魂が2つ存在するなど、グレンの言う通りありえないのだ。
『気をつけてね。今回だけだよ。』
偉そうだな。
「気をつけて、今回だけだってさ。」
「怖えよ。」
「大丈夫だ。どうせ本人はすぐ忘れるから。それで他に聞きたい事は?」
『ちょっと!忘れないよ!ていうか扱い雑じゃない?』
僕の発言にメイが文句言っている、ような気がするが聞こえないふりをしておく。話が進まないからな。
「無属性の魔石で体を作るって言ってたがどうやるんだ?」
グレンの調子も少し戻ってきたのか、すぐに次の質問がきた。落ち着いたならよかった。
「確か、魔石を核として魔力で肉体を作るって言ってたな。それでその作った体にメイが意識を投影して操作する。だったかな?」
確か前にメイが教えてくれたのはこんな感じだったはずだ。
「なるほど・・・。とりあえずわかったがわけわかんねえな。」
わけわかんねえって・・・。
グレンが何だか渋い顔をしている。
僕にとっては自分の体も魔力で作ってるので何となく納得できるが、グレンはそうもいかないのだろう。
「他に聞きたい事は?」
「他・・・。いや、わかんねえ事ばっかで何を聞けばいいのかわかんねえ。とりあえずは今聞いた事はちゃんと秘密にする。・・・つか話しても信じてもらえねえだろ。」
どうやらまだ少し混乱しているようだ。ただ秘密にしてくれると言ってくれたので問題ないだろう。信じてもらえないって思ってるみたいだしな。
とりあえず質問も無いみたいだしこれで説明も終わりでいいだろう。あとは聞きたい事が思いついた時にしてもらおう。
「頼むな。一応ダンジョンで魔石が手に入らなかったら町で探して買おうと思ってるんだけど・・・。売ってるかな?」
アルメガの街では売ってなかったからな。出来れば売っていてほしい。
「この町はダンジョンが近いから売ってる可能性はあるぞ。」
「本当に?」
「ああ、ただCランクの無属性魔石だと、最低でも10万くらいすんぞ。」
「・・・本当に?」
「おう。」
めっちゃ高いじゃん。
売っている可能性が高いのは嬉しいが値段が高くて買えない可能性も高い。しかも最低で10万らしいからもっと高いかもしれない。まずいな。
「ん?金か?それなら安心しろ。もし売ってたら貸してやる。返済も出来る時で構わねえよ。」
「え?いいの?・・・でも、なんで?」
手持ちが5万トリアくらいしかないので正直かなり助かる。だがなぜ?
グレンが騙したりするとは思えないが、なぜそこまでしてくれるのかが全然わからない。
理由がわからないので僕は疑いの目を向ける。
「ギルドで魔石が出るって聞いた時、お前めちゃくちゃ興奮してただろ?つう事はそれだけ欲しいって事だ。だから手伝ってやるよ。」
そういうことか。
たぶん、ただの善意だ。
僕がどうしても欲しがっていたから手伝ってくれる。それだけなんだ。
まったく、お人好しめ。だがまぁグレンはそんな奴か。じゃなきゃアクアタイガーとの戦いで、他人を助けるために自分が死ぬ選択をしないだろうし。
「そっか・・・。ありがとう。買う事になったら、頼むな。」
「おう。」
グレンがニカっと音がしそうな笑顔で答えた。
『ありがとう。』
「メイもありがとうってさ。」
「お、おう。」
まだメイには慣れないのかグレンの笑顔と喋りが崩れた。慣れてくれ。
仲間、か。
いいものだ。この絆は大切にしよう。守ろう。
僕はしっかりと胸に刻みこむと、再度明日の予定をグレンと話し合う。
明日のダンジョンがもっと楽しみになった気がした。
また明日。