044 勝利と疲労
「グルァ・・・。」
断末魔としては小さな声を溢しながら、アクアタイガーの首が地面に落ちていった。
ズドンッ・・・。
「「・・・。」」
僕とグレンはその光景を見てもまだ構えを解けずにいた。
そのまま数秒、無言で構え続ける。
[レベルアップしました]
目の前にレベルアップの表示が現れた。
勝った。
「終わったぁー・・・。」
『お疲れ様。頑張ったね。』
僕は力が抜け、その場に座り込んだ。
「あー・・・、当分あんなのと戦うのは勘弁だな。」
グレンも同じようなものなのか、座り込んでいる。
そりゃそうだろう。レベルでいえばグレンの方が上だが、ユニーク個体なのだ。
ましてや水魔法を使う。
僕としてもせめてもっと強くなってから戦いたかった。
改めて思うがレベル10で戦う相手じゃない。
普通の人間にはできない、重傷を負う前提で戦ってやっとだった。
「僕も当分は嫌かな。正直早くベッドでゆっくり寝たい。」
素直な感想を言いながらマジックバッグから着替えを出す。度重なる怪我で上下ともボロボロだ。
体中の血は・・・、このボロ布と化した今着てる服で出来る限り拭こう。
「俺もだ。あと美味い飯も食いたい。」
グレンはマジックバッグからHPポーションを出して一気に飲む。それから小さなパンを取り出して食べながらそう言ってきた。
パンではなくガッツリ食べたいのだろう。
「でも戻ったらギルドに報告しなきゃいけないよね。」
体を拭き、着替えをしながら面倒くさそうにそう溢す。
「ああ。流石に異常事態だからな。」
こんなに強いのが現れたしね。
「アクアタイガーがこの大陸にいるなんてどう考えてもおかしいからな。」
僕が思ってた異常とは違ったようだ。いや、強いのも異常なのだろうがそれ以前の部分からおかしいようだ。
(そうなの?って、そういえばユニーク個体だって言う前になんか言いかけてたよな?この事か?)
『そうだよ。アクアタイガーの生息地って北のノースト大陸だから、この大陸にいるのは変なんだよ。』
メイに確認してみるとこの事で合っていた。
それはおかしいな。何でいるんだよ。
「関わりたくない。絶対面倒事だ。」
無意識に本音が口から出てしまった。
『私も。』
「俺もだ。」
みんな同じ気持ちのようだ。
巻き込まれませんようにと願いながら着替えを終わらせた。
「これ、報告に必要だし俺のバッグにしまっとくぞ。分配は後でな。」
グレンは治療を終えて立ち上がるとアクアタイガーの死体に近づく。
マジックバッグのランクが高いからあのサイズも入るのだろう。羨ましい。
「わかった。」
僕が返事をするとグレンはさっさとバッグに死体を入れる。
「それじゃあ、そろそろ聞いてもいいか?」
また明日。