043 レッドライン
「遅いぞ!!続け!!」
「ごめん!!」
グレンに叱咤され、急いでアクアタイガーに向かう。
ついでに行き掛けの駄賃だとばかりに、まだ手に持っていた折れた剣をアクアタイガーの顔面目がけて投げつける。
「グルル・・・。」
煩わしいとばかりに鳴くと投げつけられた剣を水の盾で弾き落とす。
そしてそのまま大量の水を出すと渦のようにアクアタイガーの周囲を回り始めた。
「ッ!!防御!!」
『防御して!!』
グレンとメイが同時に叫んだ。
僕は咄嗟にシールドを出して防御体勢を取った。
「グルガァアアアアアッ!!!!!」
渦の速度が上がったと同時に、アクアタイガーがその場で咆哮しながら回転する。
すると高速で回る水の渦が凄まじい勢いで広がった。
「ぐっ!ぐはっ!!」
「うぐぅ!!」
まるで大木にでも殴られたような衝撃が僕とグレンの全身を襲った。
そして地面を数度バウンドしながら吹き飛ばされる。
(・・・グレンが大きめなダメージ与えたと思ったんだけど、まだまだ足りないな。)
横っ腹と後ろ脚に深い斬撃痕。そして僕がつけた鼻と前脚の傷。
ダメージは入っているがアクアタイガーの動きはあまり鈍ってはいなかった。
『このままじゃこっちの体力が持たなくなるよ。』
全力戦闘な上に被ダメージも少なくない。
僕もグレンもそう長く戦えない。
どうするか。
「ナイン。15秒時間稼いでくれ。」
打開策を考えているとグレンがアクアタイガーから目を離さずにそう言ってきた。
「手があるんだな?」
どうにかする手が。
「ある。」
グレンは僕の方を見てしっかりと断言した。
その目には力強い意志のようなものが見えた。
「わかった。頼むよ。」
「ああ。まかせろ。」
言い終わると僕は走り出し、グレンは大剣を顔の前に掲げるように持ち上げた。
(いくぞ!これで決める!)
『頑張って!!』
メイの応援を受けさらに速度を上げる。
そしてその勢いのままアクアタイガーに袈裟斬りを放つ。
「マジックソード!はぁッ!!マジックソード!」
軽々と避けられ、攻撃後の隙を水魔法で狙われるがマジックソードで上書きする。
右手の長剣、左のマジックソードと交互に繰り出し、ダメージと時間を稼ぐ。
何とかこれだけで5秒は稼ぐことができた。
「あと、10秒!!」
だが僕が叫ぶと同時にアクアタイガーは後ろに大きく飛び距離を取った。
「ガルルルルルルッ!!」
そして力を込めるかのように声を出すとウォーター・ランスが1本、アクアタイガーの頭上に現れた。
『マズイよ!魔力充填してる!!』
魔力充填って何だよと思ったがメイに聞く前にわかった。
水の槍が段々とその大きさを増していっていた。
「なるほど。魔力込めて大きくしてるのか。避けきれないように。」
ここで僕を吹き飛ばしてしばらく戦闘不能にし、その間にグレンを仕留めるつもりだろう。
「させるわけないだろ。」
元の大きさの数倍になった水の槍を見つめ
、そう口にすると剣を引いて走り出す。
あと6秒。
「グルアアアッ!!!」
丸太よりも太くなった水の槍が発射された。
この槍を抜けた上でアクアタイガーに攻撃を1発。それで15秒だ。
「はあああああっ!!!」
迫り来る槍を前に声を上げ、僕は上へ跳躍する。
そして下へ落ちる直前、スキルを発動し空中で左脚を踏み出す。
空中跳躍スキル。空中で一度だけ跳躍できるスキルだ。このスキルはまだ、アクアタイガー相手に使っていない。だから僕が跳べることをアクアタイガーは知らない。
僕はさらに上へと跳び上がる。
だが少し、あと少しだけ高さが足りない。
だから。
「シールドッ!!!」
空中にシールドを生み出す。それに右脚をかけ、僕はさらに上へ跳んだ。
直後に通過した水の槍によってシールドと踏んだ右脚が膝下から持っていかれる。
だが超えた。
後ろから木々と地面を吹き飛ばす音が聞こえる。
アクアタイガーはその顔に驚愕の色を貼り付けていた。
僕はその顔に狙いを定め。
「もらうぞ左目!!」
自由落下の勢いそのまま、左目に剣を半ばまで突き刺した。
「グギャァァアアア!!!」
アクアタイガーが今までに聞いたことのない絶叫を上げる。
「どうだ?僕ごときに目を奪われた気分は?ぜひ教えてほしいけど・・・、残念。」
15秒だよ。
アクアタイガーにそう告げると剣を手放し、右脚を再生させながら残った左脚で後ろに跳んでその場を離れる。
「終わりだ。」
入れ替わるようにグレンが前に飛び出す。赤く輝くように、それでいて静かに燃える大剣を上段に構える。
「赤炎斬光!!!」
空間に赤い線を残しながら大剣が振り下ろされ。
アクアタイガーの首を断ち切った。
また明日。