040 消えぬ思い
Side グレン
「くっそぉおおおッ!!!!」
ここまでか、そう思った。
だがその瞬間目の前にナインが現れ、アクアタイガーの攻撃をまともに喰らって吹き飛ばされていった。
ナインのレベルは明らかに俺より低い。
動きなんかを見ても10ちょっと。よくて15だ。
治癒魔法が得意なのか回復速度と回復量はかなりのものだが。
どう考えても即死だ。
水魔法で威力を上げた爪撃を胸に受け、ありえない量の血を撒き散らせていたのだから。
「また・・・。また、死ぬのか・・・?」
俺が・・・、俺が弱いから・・・。
少しは強くなれたと思った。だがこの程度ではまだ足りないらしい。
この程度では自分を生かす事も、誰かを助けることも出来ない。
逃げる冒険者たちから話を聞き、俺は走った。
今の俺なら助けられる。そう思ったのだ。
昔とは違う。
何も出来なかったあの頃の俺ではないと。
相性は悪いがアクアタイガーなら何とか勝てると。
だが助けに入ってみれば、そこにいたのは普通のアクアタイガーではなかった。
ユニーク個体。
それは場所が場所ならエリアボスになるような存在だ。
たぶん勝てねぇなどと言ったがたぶんではない。勝てないのだ。
鑑定で見えたレベルは28。対して俺は34。
だがユニーク個体はランクが1つ上がる。
おそらくCランク上位。レベル換算で45前後。
だから時間稼ぎを選んだ。
なんとかナインを助け、自分が死ぬ方を。
なのにあいつは、自分も戦う事を選んだ。
俺が死ぬと気付いたからだ。
俺より弱いやつが俺を助ける為の決断をした。
「俺はまた、誰かの犠牲の上を行くのか・・・?」
それでいいのか?
それが嫌であそこを出たんじゃないのか?
ならば立て。
剣を構えろ。
俺は立ち上がり、炎剣を構える。
ナインは俺を守って死んだ。
だから俺は生き残らなければならないだろう。
だが。
「もう、誰かの犠牲の上で生きながらえるのは・・・、嫌なんだよ。」
だから戦う道を選ぶ。
生き残りたければ、勝てばいいのだ。
(助けてくれたのに悪いな、ナイン。)
心の中で謝罪する。
それと輪廻で会ったらもう一度謝ろう。
アクアタイガーが俺を見据える。
「グルルッ。」
そしてボロボロの俺を見て笑った気がした。
「虎風情が。見下してんじゃねぇよ。」
アクアタイガーの態度に俺は睨みつける。
それから呼吸を整え、自身の最後の戦いを始めようとした。
「おい。」
Side ナイン
気づけば真っ暗な場所にいた。
周囲も何もかもわからない。そんな場所を漂っていた。
僕はアクアタイガーとの事を思い出していた。
冒険者の1人がやられ、自分が囮になった事。
勝てないと言ったグレンの時間稼ぎに僕も参戦した事。
殺されそうになったグレンを庇った事。
その全てが誰も死なせない、死なせたくないという思いからの行動だった。
僕は、誰かが死にそうになった時、動かずにはいられない。
体が、心が動き出すのだ。
何故なのか理由はわからなかった。
だがグレンが殺されそうになった時、理由がわかった。
僕の中の遠い過去が、消えたはずの記憶が叫んでいた。
心が叫んでいた。
もう、目の前で誰かが死ぬのはごめんだ。と。
そうか。これが僕の原点なのか。
だから助けるのか。
じゃあ助けなきゃな。
まだ終わっていない。ただ庇っただけだ。
グレンはまだ生きている。
起きろ。
助けたいのなら。
誰も死なせたくないのなら。
起きろ。
起きて、戦って。
勝て。
「おい。」
また明日。