034 それは突然に
『ごめん・・・。もう大丈夫。』
心だけの状態のはずなのに鼻をぐずぐずさせながらメイが声をかけてきた。
「ああ、それじゃあそろそろ進むか。僕のくだらない話でこれ以上時間使うわけにもいかないし。」
僕が話したのだ。僕が気を遣わなかったのだ。
なんとなく、そんな思いを込めて言葉にする。
泣かせたしな。
『・・・ありがと。よし!今日も頑張ろうね!』
込めた思いを理解してくれたのだろう。
メイは一言お礼を言うといつも通りに戻っていった。
それでいいのだ。
そして次からは何かあっても黙っていよう。
いずれメイの方から話してくれる。
その時まで僕は何も言わない。聞かない。
そう心に深く刻み、僕は森の奥へと足を踏み出す。
「目標は昼前までに5体だ。そうすれば昼過ぎくらいで10体狩れるだろ。バッグの容量も増えたし出来れば多めに狩りたいな。」
皮算用で適当に答えながらメイの声から様子をうかがう。
『無理じゃないかな?森の中走り回るの?』
もう大丈夫みたいだ。
「マジックショット!あぁ・・・。」
ビッグスネーク探しを始めて2時間。
順調に討伐が進み、現在は3体目と戦闘中だ。
ビッグスネークは体長4〜5メートルはある青色をしたヘビの魔物だ。
属性は体表の色でもある水属性だが魔法は使ってこない。
主な攻撃は巻きつきからの締めつけと噛みつきだ。
毒も持っていないのでしっかり攻撃を見極めて避け、頭を狙えばFランクでも倒そうと思えば倒せる。
ただし回避に失敗したり仕留めきれなければ、締め付けられて圧迫から窒息死になる。
魔法の訓練と遠距離からの攻撃。
そう考えてマジックショットを使うが失敗した。
この2週間。毎日練習しているが未だに成功していなかった。
球体にするところまでは何とか出来るのだ。
だがそれを打ち出そうとすると、制御がうまく出来ず魔力が霧散してしまう。
「また失敗、か!」
悔しい気持ちをぶつけるように、木の枝からからぶら下がるビッグスネークの首に、スラッシュを使用した袈裟斬りを叩き込む。
「シャーッ!?」
断末魔を上げて首が地面に落ちると、残った体も枝から落ちてきた。
「上手くいかないなぁ。マジックシールドはかなり良くなったのに。」
剣に付いた血を落とし、鞘にしまってからビッグスネークの死体をマジックバッグに入れる。
『うーん。逆にマジックシールドのイメージの仕方にに引っ張られてるのかもね。』
その場でうんうん唸って考えているとメイにそう言われた。
引っ張られてる?
「どう言う事?」
『マジックシールドはその場に出して終わりだけど、マジックショットは出して打ち出して終わりなんだよ。だからイメージする段階で球体を作って一度終わってしまって、イメージが途切れてるんじゃないかなって思って。』
なるほど!!
「ありえるわ。次はそこに気をつけてやってみるよ。」
そうして次のビッグスネークを探そうと動き出そうとした。
その瞬間。
ドガガガガガッ!!!!ドドドンッ!!
ものすごい音と地響きがナインのいるところまで伝わってきた。
「ッ!?なんだ!?」
何が起こった!?
『わかんない!でも音は北からだった!とにかく注意!それから退路を確認して退避!』
「ッ!わかった!」
パニックになりかけたがメイの言葉で少しだけ落ち着く。
軽く息を吐くと急いで周囲を確認し、それから街の方向へ退避を始める。
「くそッ!何だってんだよ!」
走りながら悪態を吐く。
この森でこんな音がするなどどう考えてもおかしい。
急いで逃げなければ。
「ッ!?北からなんか来るぞ!数3!」
気配察知の範囲に何かが3つ引っかかった。
走りながら後ろを振り返る。
3つはかなりの速度でこちらに向かってくる。
僕の退避速度よりも速い。移動速度を上げる強化魔法を使っているのか、すぐに姿が見えそうだ。
『冒険者だよ!!』
こちらに来る3つの反応の正体にメイが先に気付いた。
言われてすぐ僕も視界に捉える。
前から来たのは斥候の男と剣士の男、それから魔法使いの女だった。
3人を見ながら走り続けていると、一番前にいる斥候の男が僕の存在に気付いた。
「ッ!人!?おいそこのお前!!急いで逃げろ!!」
斥候の男が焦った声で僕に警告してきた。
これはマズイ。
僕は出来る限り走る速度を上げる。
絶対にヤバイ。
僕たちの上を何かが通過した。
「はッ!?」
そして僕たちの目の前に音も立てずに着地する。
ほとんど無意識に鑑定が発動した。
アクアタイガー
Lv.28
属性:水
HP:1407/1422
また明日。