250 嵐刃のサンズ
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Side サンズ
防衛線の一層目で待機するサンズは、魔物の集団に囲まれそうになっている冒険者達を見つけると即座に動き出した。
急行しながら腰に下げた長剣2本を抜き、数を確かめる。
「Cランク23体か」
彼らでは厳しいな。
今にも蹂躙されそうになっている冒険者達の強さで突破するのは、かなり難しいであろう。
手を貸すだけでは被害が出る。そう思ったサンズは、全力を出す事に決めた。
「ヴェントゥスソード、ヴェントゥスソード」
旋風魔法を二度使用し、自身の持つ2本の魔剣に風の剣を纏わせる。剣全体が風属性の緑色に発光し始めた。
一つ目の魔法を使用したサンズは、次の魔法を使用する。
「ヴェントゥスエッジ、ヴェントゥスエッジ」
先ほどとは違う魔法名を口にすると、刀身のみがより濃い緑色へと変わった。
全力戦闘の準備が完了したサンズは、魔物の集団との距離を一気に詰める。そしてそのまま突入していくと周囲の魔物に対し、足を止める事なく高速で剣を振るう。
ヒュヒュヒュヒュンッ。
一瞬のうちに小さな風切り音が4度鳴り、4体の魔物が地に伏せる。遅れて、恐ろしく綺麗な切断面から魔物の血が噴き上がった。
嵐刃のサンズ・ラーバは、長剣に旋風魔法を纏って戦う双剣士だ。特徴は、凄まじく速い剣撃である。
その分攻撃は軽くなるが、とにかく手数が多い。この速さを生み出すために彼は、装備もスキルも速度が上がるもの選んでいる。
だが魔剣には、速度が上がるようなアビリティは無い。
魔物の集団の中を斬り進みながら、サンズはチラリと手に持つ魔剣を見る。
サンズの持つ魔剣の名は、蜂翅無刃・賽目という。
アビリティは、風剣強化と風刃強化。これのみだ。
この強化系は、正直レアでも何でもない。魔物素材で武器を作れば、割と簡単に付くようなアビリティである。だがサンズの魔剣は、他とは違う。
サンズの魔剣は、アビリティ特化型なのだ。
武器作製の段階で剣自体の性能を犠牲にし、ほぼ全てをアビリティに注ぎ込んだ。
それ故にこの魔剣のアビリティは、通常の強化系の5倍ほどの性能を誇っている。
ただし、先ほども言ったように剣自体の性能を犠牲にしていため、剣のみの性能はかなり低い。
まず、名前に無刃と付くようにこの剣に刃はほぼ無い。ヴェントゥスソードとヴェントゥスエッジを使う事前提の剣なのだ。
そして耐久値も低い。Aランク魔剣だというのにEランクの鉄剣くらいしかない。雑に扱えば、割と簡単に折れてしまいかねないだろう。
では、何故こんな性能にしたのか?それは、この剣の素材になった魔物の戦い方にサンズが強い感銘を受けたからだった。
この剣の素材は、ユニーク個体の蜂型魔物である。名前は、ジェネラル・ツインリッパーという。ランクはAだ。ジェネラル・ツインリッパー自体は、Bランクの魔物なのだが、ユニーク個体だったためランクが上がっているのだ。
さて、このジェネラル・ツインリッパーだが、名前の通り常に2体で行動する。だが、相性のいいものを見つけて一緒になるわけでは無い。こいつらは、卵の中にいる時から2体なのだ。つまりは双子である。それ故に、ユニーク個体で生まれた場合も2体なのだ。
話を戻して、ジェネラル・ツインリッパーの戦い方だが、魔剣のアビリティと同じように、ヴェントゥスソードとヴェントゥスエッジを使う。どこに使うのかというと、翅に使う。そうして強化した翅で飛び回り、斬り刻んでくる。近づいてきて直接斬りつけてきたり、風の刃を飛ばしてきたりといった感じだ。
そしてサンズは、この自分もこの戦い方をしたいと思った。
そうして仲間達と共に必死になってユニーク個体のジェネラル・ツインリッパーを討ち倒したサンズは、「どうしてもこいつで魔剣が作りたい!」と仲間達に頼み込んだ。土下座までして頼み込んだ。
そんなサンズの様子に「あぁ、土下座するくらい本気で欲しいんだなぁ」と思った仲間達は、快く譲る事にした。
その後、街の鍛治屋に頼み、素材のほぼ全てを使って蜂翅無刃・賽目を作ってもらったサンズは、とにかく修行した。旋風魔法スキルは持っていたため、魔法制御力をとにかく鍛えた。
そして修行に修行を重ねて半年後、現在の嵐刃のサンズ・ラーバの戦い方となった。
「大丈夫か?」
スパスパと魔物を倒していき、後方から囲まれた冒険者達の前へと躍り出るサンズ。
「大丈夫です。すいません・・・」
「気にすんな。そのためにいんだからな」
申し訳無さそうにする冒険者達に、サンズは特に気にした様子もなく答えた。そして片手を上げて自身がやってきた方向を示す。
「とりあえず下がって怪我の治療しとけ。まだまだ続くぞ」
「わかりました」
空いた後方からの退避を勧めると、冒険者達は即座に了承した。よしよし、良い判断力だ。
撤退する冒険者達をサンズは、内心で褒める。正直、怪我を負った状態なのに「まだ戦えます!」などと言って居残られるのは邪魔でしかない。一緒に戦った事もないから、連携も取れないしな。
1人残ったサンズは、魔物達へ向き直ると即剣を振った。
「ふっ!」
声というより口から空気が漏れたような音が出る。
この一瞬に剣が6回振られ、刀身から風の刃が飛ぶ。
「グガァアア!!」「ゴアアアッ!!」「シャキィイイ!!」
滑るように飛んできた風の刃によって、前方にいた魔物があっさりと両断された。
「おら、邪魔だぞ。さっさと死ね」
近づく魔物を剣で斬り捨て、距離がある魔物に風の刃を放つ。
高速で振り続けられる双剣により、サンズの周囲には、緑色に輝く剣の軌跡が浮かぶ。
この姿こそが二つ名、嵐刃の由来だ。
「おらおらおらおらおらッ!!」
ニヤリと笑みを浮かべたサンズの剣がさらに加速する。
剣での攻撃は、緑色の残光しか見えず、その残光の合間から緑色の刃が飛び出す。
剣速が加速してから僅か5秒で、サンズの周囲にいた魔物は全滅した。
「まぁCランクならこんなもんか。さて、他にフォローは・・・。ああ、あそこか」
手応えの無さに愚痴を漏らしつつ、ぐるりと周囲を確認する。そしてすぐに手助けが必要そうなパーティーを見つけた。
「さて、と本番が来るまで頑張るとするか」
そう口にしたサンズは、数十メートルほど離れた位置にいる冒険者に向かって走り始めた。
スタンピードは、まだ序の口だ。ここからもっと沢山。そしてもっと強いのが来る。
その時のためにも戦力が減るのはダメだ。
とはいえ、もうすぐ騎士団もやってくる。戦力的にかなりの増強だ。
だが、たぶんそれでもヤバいだろう。
Aランク冒険者としての勘が、自身にそう訴えかけていた。
「こりゃ、かなりキツイかもな・・・」
フォローに向かうサンズは、誰にも聞こえない音量でそう呟いた。
リアルが少々立て込んでいるため、明日から10日程お休みをいただきます。
正直このままだと執筆どころではないため、この10日でどうにかしてきます。
楽しみにしていたモンハンもやれないレベルです。
すいません。
次回更新の予定日は、3月6日です。
よろしくおねがいします。
※3月6日追記
活動報告の方にあげましたが、作者都合により次回投稿をお休みします。
申し訳ございません。