248 少しの休息1
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本部テントでの報告を終えたナイン達は、防衛線の三層目にある城壁の上に来ていた。
一応救護所には行ったのだが、メイ達に怪我は無く、ナインも再生によって無傷だったためいる理由はなかった。全員走って疲れてるくらいだ。
唯一救護所でした事といえば、ボロボロになったナインの服を着替えたことくらいだ。また着替えが減ってしまった・・・
「おー。よく見えるな」
「防衛のためってのもあるけど、弓とかの遠距離職や魔法使いのための場所でもあるからね」
「なるほどー」
その場に座って休息しながら、ナイン達は上からの景色を眺める。かなり距離はあるが、しっかりと前線が見えた。
「・・・でも、この距離で届くのか?」
最前線まで200メートルくらいあるけど。
三層目から見えるとはいえ、人は石ころ程のサイズにしか見えない。
門から三層目の城壁までは、100メートルほど。そこから100メートル毎に二層目、一層目といった感じで防衛線が作られている。
「最低でもCランク中位以上の強さは必要ですが、届きますよ。もちろん簡単にはいきませんが」
「弓士ならそんくれぇ届くな。魔法使いは・・・、Bランクくれぇは必要か?」
「うーん、Cランク上位くらいでしょうか?中位くらいの私だと、ギリギリ届くか届かないかといった感じですね」
「そんなもんなのか」
ルチルが僕のだけでなく、グレンの疑問にも答えてくれた。
そうか、魔法特化のルチルでも届かないのか。
「そんなに必要なの?上に登る人少なくならない?」
強さの必要最低値が高過ぎる。王都なうえにダンジョンが近くにあるから、普通よりはいないこともないだろう。だが、それでもかなりの数の冒険者は、上に登っても届かないという事態になるのではないだろうか。
そう思って口にしたが、僕が阿呆だった。
「そりゃ一層目の一番前の話だろ?本格的に戦闘が始まったら戦場は、一層目と二層目辺りになる。そうなりゃDやEでも届くさ」
「・・・そうですね」
よく考えれば。いや、よく考えなくてもわかる話だ。スタンピードという大量の魔物が襲ってくる事態なのだから、本格的に戦闘が始まれば最前線は後退する。そうなれば、城壁から魔物までの距離は短くなる。低いランクの者でも、問題無く攻撃が届くだろう。
あ、そうだ。
「そういえば気になったんだけどさ、王族の人がギルマスやることって結構あるの?」
馬鹿を晒した恥ずかしさを隠すついでに、気になっていた事を聞いてみる。
これには、この国出身であるためエレオノーラについてもそれなりに知っているルチルと、ついでにグレンが答えてくれた。
「貴族の方がなるのはたまに聞きますが、王族はほとんど聞かないですね」
「俺もだな。冒険者ギルドは実力主義だからな。権力で役職を取るっつうのは無理だ」
やはりそうある事では無いらしい。
「そうなんだ」
「もし権力でギルマスなんかになったら、その支部の評判はガタ落ちだからな。何年か前にどっかの国であったよな?」
「緑風皇国ですね。たしか、四年前でしたか」
「ああそれだ」
どうやら実際にあったらしい。
話を聞くに、何でも緑風皇国のとある街で、ある貴族が権力を用いてギルドマスターの地位に納まった。冒険者としての実力も無く知識も無く、そのうえナチュラルに冒険者を見下す。結果、そんな貴族に冒険者は猛反発した。そして波が引くように冒険者は街から離れ、その街から冒険者の姿が消えた。
その後は、冒険者ギルドの本部から調査が入り、その貴族と周囲の者は解任。この件に関わった全ての者達が罪に問われた。
ちなみに今は、その街の冒険者ギルドも信用を取り戻してる。後任でやってきた者達がかなり優秀な人達だったのだとか。
「なるほどねぇ。って事は、エレオノーラ様は、実力でギルマスになったって事か?」
権力ではなれないなら、実力しかない。まぁ、見てすぐ「あ、すっごい強い」って思ったから、納得するけど。
「そうです。今はギルマスの地位に就いてますが、エレオノーラ様は、現役の冒険者でもありますよ」
「マジ?引退してる訳じゃないんだ」
てっきり引退してギルマスになったんだと思ってた。
「引退してなる方もいますが、7割くらいの方は、現役らしいですよ」
世界中で見ると、このくらい。とルチルが捕捉してくれた。結構多いな。
エレオノーラについての話が続く。
「エレオノーラ様の冒険者ランクはSです。そういえば、数ヶ月前にレベル100になったらしいです」
「100!?マジか」
流石ギルマス、レベル三桁か。
予想を超えた強さに、ナインの空いた口が塞がらない。
以前不幸な出会い方をしたギルフォードもそうだが、自身の3倍ほどのレベルである。強すぎるぞ。
あれ?でも100って事は
「聖人化してるのか?」
「していないそうです。エレオノーラ様は、すぐにでも試練を受けに行きたかったそうなのですが、忙しすぎてまだ行けそうにないんだそうです」
「あー、ギルマスだもんね」
ルチルの言葉にメイが納得した。隣の僕は、こくこくと頷くのみだ。
精霊王の試練を受けるには、その名の通り精霊王に会いに行かなければならない。ではその精霊王がどこにいるかと言うと、普通に精霊の棲家である。
精霊の棲家の場所は、基本的に公開されていない。理由は二つあり、一つは、精霊を守るためだ。彼らは魔物では無いからな。そしてもう一つは、怒りを買わないためだ。
精霊を傷つけるような行為をした場合、彼らは人と同じように怒る。だがその怒り方が凄まじいのだ。まさに烈火の如く怒る。しかもその棲家の者達全員がだ。
そうして精霊の怒りに触れた結果何が起こるかと言うと、単純に破滅が待っている。
街や村が滅ぶならいい方で、最悪国が滅ぶレベルだ。過去に滅んだ国がいくつかあるらしい。
そういった理由のため、精霊の棲家は秘匿されている。
じゃあ自力で棲家を見つけなきゃ精霊王に会えないじゃん。そう思うかもしれないが、一つだけ公開されている棲家がある。それが、中央大陸にある世界樹の根本だ。
ここには世界最大の精霊の棲家があり、たくさんの精霊が住んでいる。
人との交流も盛んで、ある種の国のような形をしているらしい。そして、もちろん精霊王もいる。
このように場所も存在もわかっているからか、精霊王の試練を受ける者は、皆ここへ向かう。探す手間がかからないからな。
ただし、中央大陸のさらに中心なため、かなり遠い。結構な移動時間がかかるため、エレオノーラが中々行けずにいるのも仕方ないのだろう。
「Sランク冒険者ですから二つ名もありますよ。不退転のエレオノーラと呼ばれてますね」
中々にかっこいい二つ名だ。羨ましい。メイもそう思ったらしい。
「おー、かっこいいね。絶対に退かぬ者、って感じだね。やっぱり王族だから?」
「それもありますが王族としての誇りより、『私は、進む者』という、座右の銘の方が強いですね」
あとは、性格もでしょうか。と小声で続けた。
なるほど。大変お転婆だったのだろう。失礼だがそんな感じがする。
うんうん。と、僕とメイとグレン、ルーチェまでが納得したように頷いた。皆同じように感じたのだろう。
「年明けにお会いした時、『早く20代の姿に戻りたい!』って愚痴ってましたよ」
そう言ってルチルは、ふふっと笑みを浮かべた。
次回は、明後日の16時です。
それでは~