247 報告と推測
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「私達水竜騎士団は、早朝からダンジョンに入り、スタンピード発生時には6階を探索していました」
話し始めると、エレオノーラ達3人は椅子に座った。僕達の分の椅子は流石に無いのでそのまま立ったまま聞く事にする。
「7階への階段近くまで来た時に、奥からいきなり魔物の集団が現れました。下り階段がある側から現れたうえに、Bランクが混ざっていたので、まず間違い無く階段を上がってきた魔物だと思います」
「なるほど」
相槌を打つのはエレオノーラだ。他の者は、ただ黙って聞く事に徹する。こういう時に何人も喋ると邪魔だからな。
「そこからは周囲の様子も変わりました。まず、6階にいた魔物の気配が一気に動き始め、5階への上り階段の方へと向かうのを感知しました」
「ふむ・・・、直接追い立てられた感じでは無かった。という事か?」
「そうですね。どちらかと言えば、魔物の集団の気配を感じたから逃げた。という風に感じました」
「そうか」
エレオノーラの質問に、カルテインが私見を口にした。彼の言葉に他の水竜騎士団の面々も頷いているので、同じように感じたようだ。
「魔物集団が現れ、周囲の魔物も逃げるような様子を見せ始めたので、私達は急ぎ撤退する事にしました。最短ルートで出口へと向かっていたのですが、途中の階層に魔物の姿はありませんでした。唯一見つけられたのは、冒険者が身に付けていたであろう鎧の一部や、壊れた武器のみです。壊れてから時間が経っているようには見えなかったので、おそらくですが、撤退が間に合わずに亡くなった者の装備だと思います」
「・・・水竜騎士団以外の者は全滅の可能性が高い、か。・・・わかった」
ダンジョン内にいた者は、彼らを除いて全滅。2人の予想に、その場にいた者達全員の表情が暗くなる。
たぶん、逃げる間も無かったか、逃げても間に合わなかったのだろう。足止めとして残って戦っていたが、かなりの数が襲ってきたからな。
魔物の集団相手に僕が戦えた理由は、死なないからというだけでは無い。戦闘場所が外だったから、というのが大きいだろう。
ダンジョンは、狭い通路で形成された迷路だ。それ故に撤退は、中々に難しい。とくに今回のようなスタンピードであればより困難になる。
現れる魔物を倒しても減らない。急いで撤退するからか、焦りで道に迷う可能性が高い。そして、下手に戦ったり迷ったりすれば回り込まれる。
そうなれば、待つのは死のみだ。
(良い来世を迎えられる事を願ってるよ・・・)
名も顔も知らぬ者達に、心の中で冥福を願う。
『大丈夫。彼らの心は、世界の輪廻に向かったはずさ。いずれちゃんと生まれ変わるよ』
どうやら思いが強すぎてメイに届いてしまっていたようだった。
(そうか。なら良かった)
思念で返し、内心でホッとする。長き年月を生きた故に沢山の事を知る、そんな彼女が言うのだから大丈夫なのだろう。世界の輪廻が何かわからないけど。
言葉の感じ的に、死んだ者の心が向かう場所って感じかな?そしてそこで生まれ変わる、と。どこにあるんだろう?
ちょっと気になるが、今はそれどころではないのでまた今度にする。
「ダンジョンの外に出ると、入り口周辺には溢れたのであろう魔物が大量にいました。私達は、それらを何とか退けつつ街道を走り、途中で、足止めに残っていたナイン氏に出会いました」
そう言ってカルテインが僕の方を見る。あ、僕の番か。
前に出た方がいいかと思い、とりあえず一歩進む。
「えーと、足止めに残ってたナイン・ウォーカーです。まず、カルテイン氏と遭遇した流れまで説明します。最初にーーー」
なるべく短く、されどわかり難くないように話そうと頑張った。
話した内容はそう多くない。朝から王都を出てダンジョンへ向かった。残り3分の1くらいまで来たところで人の気配がした。現れた冒険者とギルドスタッフがスタンピードだと言った。非戦闘員がいるため自分だけ足止めに残り、他のみんなを撤退させた。足止めしていると水竜騎士団が現れた。生存者はもういないだろうと言われたため、彼らを先に逃し、1分後に自分も撤退した。以上である。
あ、現れた魔物の種類やランクも伝えたよ。水と氷属性が多かったって。
話を聞いたエレオノーラ達が、考え込むような仕草をとる。
「・・・ふむ。やはり妙だな」
「そうですね。通常のとは違います」
「となると、地脈異常でしょうか?」
顔を上げたエレオノーラ、ライオネル、ガトリンが何かを話し始めた。
聞こえてくる内容からして、どうやらスタンピードの原因についてのようだ。ただ、スタンピードについてそこまで詳しくないナインには、ほぼ何を話しているかわからない。
どういう事だろう?と首を傾げていると、気づいたエレオノーラが説明してくれた。
「ああ、ダンジョンで起こるスタンピードというのはね、そのほとんどが、魔物の数が増え過ぎたか強力な魔物が発生したことが理由なんだよ」
「あー、はい。その辺は知ってます」
以前に聞いていたので、発生理由については知っている。だからこそ、妙とは何だ?地脈異常って?
僕の考えてることがわかったのだろう。それらについての説明が始まる。
「妙なのはね、今回の発生理由が、どちらでもあるかどちらでもないからだよ」
「どちらでも?」
んんん?よくわからないのだが。
より首を傾げる事になったナイン。見かねてか、メイが前に出た。
「状況的に、どっちでも理由になり得るからですか?」
「そうだ。魔物の数が多いから増え過ぎた結果かとも思ったが、それにしては集団で一気動いている。まるで、下層に何か強力な魔物が現れたかのようにな」
メイの問いにエレオノーラが答える。そのおかげか、ナインも理解が出来た。確かにどちらでもあると言えるな。ならどちらでもない、とは?
「どちらでもない場合は、さっき言ってた地脈異常?が理由なんですか?」
理解出来たナインは、ない場合の理由をエレオノーラに確認する。そもそも地脈って何?
「そうだ。先ほども言ったがスタンピードの発生理由のほとんどが、魔物の増加か強力な魔物の出現だ。だがほとんど言ったように、それ以外もある。それが地脈異常だ」
そう言うと、簡単に地脈について説明してくれた。
地脈は、大地の下を流れる魔力の道とか川みたいなものである。世界中に張り巡らされており、魔力が地表に出る噴出口が世界中にある。噴出口付近は、魔力濃度が濃くなるため、魔物の領域になりやすいのだとか。あとは、精霊の棲家にもなっているらしい。
ダンジョンは、この地脈の噴出口の上に出来るものであるとのこと。つまりは、地脈の魔力によってダンジョンが動いている。ということだ。
だから、ダンジョン付近の地脈に異常が起きると、近くのダンジョンも影響を受ける。
「とは言え、そんなに頻繁に起きるものでもない。過去300年の青の洞窟のスタンピード発生理由を見ても、地脈異常が理由なものは、たった1回しかない」
300年で1回。かなり少ない。地脈異常とは、それほど起こり得ない事なのだろう。だが
「でも今回はその可能性がある、と?」
「ああ」
エレオノーラがしっかりと頷く。
「まぁ、調べなければわからないがね」
そう言って彼女は立ち上がり、ライオネルとガトリンへと向く。
「私はこれから地脈の状態を確かめる。ライオネル、ガトリン。後ほど私の代わりとしてロッシュをこちらへ送る。各自連携を取ってくれ。騎士団とも同じように。何かあればロッシュに言え」
「わかりました」
「ロッシュ殿ですか。ならば問題ありませんね」
ライオネルとガトリンが即座に了承をする。ところで、ギルマスの仕事を割り振られたロッシュとは誰だろうか?
「ロッシュさんは、冒険者ギルドの副ギルドマスターだ」
「なるほど。ありがとう」
僕の様子に気付いたカルテインが、小声で教えてくれた。副ギルマスか。なら大丈夫か。
ライオネルとガトリンの反応にも納得だ。なにせ王都の副ギルドマスターだ。どう考えても有能だろう。
「では行く。あぁ君達は少し休みなさい。まだ始まったばかりだから」
本部テントを出ようとしたエレオノーラが、僕達と水竜騎士団達にそう告げた。
そうだ。まだスタンピードは始まったばかり。
戦いは、これからさらに激化する。
「はい」
「わかりました」
僕とカルテインが答える。エレオノーラはこくりと頷くと片手を上げ、颯爽とテントを後にした。
前話を17時に投稿したのですが
正直あまり変化はなかったですね。
うーん、よくわからない。
とりあえず、今日は16時にしてみました。
次回は、明後日の18時に投稿してみます。
それでは~