240 魔力機動
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「うん。使えるな」
たった3体の魔物との戦闘だったが、わかりやすく手応えを得た。
攻撃後の体勢を、魔力解放によって生じる衝撃で無理矢理動かす。理屈としてはこんな感じだ。
「ただ、わかってたけど痛いな」
魔導銃とマジックソードで魔物を牽制しながらボソリ呟く。
そう、痛み。こればっかりはどうしようもない。何せ、直前の攻撃による慣性が残っている状態で、普通では切り返せないような体勢から無理矢理に動かしているのだ。関節にかかる負担がかなり大きい。
たぶん、上手く出来るようになっても多少は痛みが出るだろうなぁ。
近づく魔物を斬り捨てつつ、どうしようもないデメリットを残念に思う。
というかそもそもの話、ナインがちゃんと切り返したり、避けたり出来るような体勢を作れるようになればいいだけなのだ。だが、それがまだ出来ないから、こんな無理矢理な戦法を使う羽目になっている。
「やっぱり一も二にも修練だな」
自身に足りないものを改めて認識したナインは、うんうんと頷くと新戦法を使って攻撃を続ける。
「とりあえず、名前でも付けとこう。何がいいかな・・・」
新戦法の痛みに耐えながら、何故か名前を考え出す。今じゃなくてもいいんじゃないかと思うだろうが、魔法や魔力を操作する際にはイメージが結構重要だ。名前があれば、その動作や魔法を使う際にイメージが浮かびやすくなる。まあ、それ以外にもあったほうが気分が良いからというのもあるけど。
胸元で魔力を解放し、衝撃を利用して強制的に上半身をのけ反らせる。腰の辺りからゴキッという音がしたが、たぶん大丈夫だろう。めちゃくちゃ痛いけど。
シュンッ!!と音を立て、先ほどまでナインの上半身があった位置を風の刃が通る。
よしよし。回避にも使えるな。
多少腰にダメージを受けたが、問題無いレベルなので許容範囲だ。
「おいしょっと。うっ、いて」
重心が後ろにいってしまっているので、このままでは倒れる。なので次は背中で魔力を解放し、無理矢理体を起こす。背中を叩かれたような痛みに声が出たが、隙を晒してフルボッコにされるよりは遥かにマシだ。
横をすり抜けて王都方面へ向かおうとする魔物達を出来る限り倒していく。
「流石に半分以上抜けられるな。いや、仕方ないか」
倒していくのだが、いかんせん数が多い。自分1人ではどうしても手が届かない。なので、やれる範囲で足止めするしかない。
「最低でも手傷は負わせないとな」
狙いも付けずにマジックソードを周囲へと放ちながら、やるべき事を口に出す。あ、名前名前。
新戦法の名付けの途中だった事を思い出し、戦いながら考える。
ふむ・・・。魔力によって肉体を動かす。魔力動法?なんか違うな。これじゃあ魔力で僕が動かされてるみたいだ。うーん・・・。
「あ、魔力機動にしよう」
左足裏と左肩、左腰から魔力を解放し、強制的に体を横移動させながら、新戦法の名前を決めた。
魔力解放を利用した三次元機動。略して魔力機動だ。
「うん、しっくりくるな」
寄ってきた魔物を斬り捨てながら笑みを浮かべ、うんうんと頷いて満足そうにするナイン。その勢いのまま、次の魔物に攻撃しようとした瞬間。
[レベルアップしました]
「おっと」
目の前にレベルアップ表示が現れた。
「2レベル目か。早いな」
足止めを開始してから2度目のレベルアップだ。実はE、Dランクを倒している途中にも上がっていたのだが、それどころではなかったので無視していた。
「喜んでる場合じゃないけど、正直助かるな」
嬉しいには嬉しいが、状況を考えたら喜び難い。だが、ステータスが上がるのは助かる。スタンピードは始まったばかりであり、この後もまだまだ戦闘は続く。今やってる足止めにおいても、ステータスが高くなるのはありがたい。
「ふっ!」
レベルアップ表示から視線を外し、ジャンプと同時に魔力を足裏で解放する。
多めに魔力を込めたからか、ドバンッ!!!という音ともに斜め後ろの空中に跳び上がる。後退と攻撃を目的とした跳躍だ。
「デカいの一発だ!追加もあるぞ!」
若干制御は覚束ないが、直径3メートルほどの魔力弾を街道上の魔物の集団に撃ち込む。追加で即座にマジックソードを10本、街道脇の森へと撃つ。
「ガァーッ!!!」
「キィーッ!!」
「ゴォーッ!!」
大量の魔物に当たったからか、魔物の叫び声が周囲から沸き上がる。街道上からがとくに多い。大半が倒し切れてはいないが、かなりのダメージが入っているのか、瀕死の状態の魔物がたくさんいる。
地面へと降り立ったナインは、再度マジックソードを使用する。狙いは瀕死の魔物ではなく、さらにその後ろの魔物達。瀕死の奴らは放っておいても死ぬか、死ななくてもダメージの多さで動きが鈍くなるので放置だ。僕の役目は足止めなのでこれでいい。
マジックソードを撃ちながら、後方の魔物をしっかりと確認する。
「サンダーファルコンにフレイムホースにロックゴーレム。げっ!スライムまでいる」
ちょっと遅れたけど何とか・・・。