235 足止めと時間稼ぎ
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仲間達が冒険者とギルドスタッフと共に、来た道を戻っていく。
ナインはその後ろ姿をじっと見つめる。
『ああ、僕はここで時間稼ぎをする』
そう言って僕だけここに残った。
やる事は単純。ダンジョン側からやってくる魔物をゆっくりと後退しつつ、ひたすら倒すだけだ。
小さな点にしか見えなくなった仲間達から視線を外し、魔物が放つ音と気配の方向へと体の向きを変える。
腰に下げた振切剣を右手で抜き、魔導銃を左手で取ると、構えをとる。
前方からは、ドドドドド!!という何かが激しく動く音と、それに伴って発生した振動が絶えずこちらへとやってくる。もうかなり大きい。すぐに魔物達の姿が見えるだろう。
そんな状況の中、迎え討つ構えのナインの表情には苦笑が表れていた。仲間達との別れが理由だった。
時間が無い状態だったため、かなり強引に納得させたからだ。
「・・・わかった」
しっかりと状況を理解しているグレンは、ほんの少しの間を置いてから了承した。そしてすぐさまその場にいる全員に「行くぞ!」と声をかける。だがやはり、メイだけは納得しなかった。
「なっ、待って!ナインも一緒に」
「ダメだ」
僕はばっさりと切り捨てた。そして時間が無いため、有無を言わさぬ勢いで早口に捲し立てる。
「いいかい?全員で撤退した場合、冒険者だけならいいけど、非戦闘員を連れての撤退で乱戦はマズイ。十中八九怪我人が出る。そうなれば撤退が遅れるし、最悪死人が出る」
正直この可能性が一番高い。それと最悪死人と言ったが、状況的に出たらヤバいのは怪我人の方だ。言い方は悪いが、死人の方がまだマシである。なにせ死体の場合、その場に置いていくかマジックバッグに入れればいいのだから。だが怪我人の場合はそれができない。確実に撤退の速度が落ちるうえに、その怪我人を守らなければいけなくなる。撤退失敗の可能性すらあるだろう。
「次に、さっき言ったけどメイからの撤退の指示だ。僕とメイなら思念での遠距離会話が出来る。これなら、逐次双方からの状況や情報の確認が可能だから僕への撤退指示もすぐに出来る。時間も情報も足りない今の状況だと、この思念会話はかなり有用だ」
口を挟ませずに次の理由を話す。
状況と情報の確認と指示。これもまた重要である。例えばだが、僕からは現在どれくらい魔物が出ているか、どのくらいの強さなのかを正確に、そして即座に伝えられる。対してメイからは、全員の撤退完了の報告と王都の防衛、迎撃準備の状況を僕へと伝えられる。これらの情報伝達を、戦闘中であろうと魔道具もタイムラグも無しに出来るのだ。
「最後に、僕の殿としての適性の高さだ」
最後の理由に関しては、これだけしか口にしなかった。パーティーメンバー以外に知られるのはマズいからな。
ナインの殿適性。これはもうどう考えても高いと言えるだろう。ほぼ不死身なうえに膨大な魔力を持つ。それ故に、継戦能力は高い。まあ体力については若干の不安要素だが、そこは気合いで乗り切るしかないだろう。
ちなみに殿適性で言えばメイもある。だがこれは選択肢としては微妙、というか選べない。彼女の心核は僕の中にあるので、彼女の方が不死身と言えるが、正直継戦能力は高くない。10分か15分くらいなら大丈夫だろうが、それ以上だと魔力が足りなくなる。
そして万が一にもだが、彼女の肉体の核である魔石が無くなってしまった場合、彼女という戦力がいなくなってしまう。それはマズい。それに代わりの魔石を用意出来るかもわからない。そうなれば、このスタンピード中に彼女が復帰できる可能性が低い。
早口で全てを伝えるとメイの肩を掴み、強引に後ろを向かせた。そしてグッ、と背中を押す。
「時間が無い。早く行け。説教なら後でいくらでも受ける」
「・・・わかった。覚悟しといてね」
「ああ」
ナインの有無を言わさぬ言葉と行動に、メイが下唇を噛む。納得していない様子だが、それでも状況を理解しているため、了承する。
そうしてメイ達は、ダンジョン側からやってきた冒険者とギルドスタッフと共に、王都の方向へと走っていった。
こりゃ、後でたくさん怒られるな。と、先ほどまでのやりとりを思い返したナイン。だが感傷はそこまでだった。
前方からの音と振動がさらに大きくなっていた。左右の森の中は見えないためわからないが、街道上をこちらへ向かって走る魔物の姿は見える。
「さて・・・」
ナインは右手をゆっくりと持ち上げ、剣の鋒を前へと向ける。
これから行うのは、会戦の狼煙という名の先制攻撃だ。
集中し、魔力を高めたナインの周囲に、マジックソードが15本出現する。
「それじゃあ、戦闘開始だ」
ボソリと誰に聞かせるわけでもなく呟いたナインは、マジックソードを視界と気配を頼りに撃ち出した。
海音氏、飛び散った木工用ボンドが口に入る。
う~ん、不味い・・・。
また次回。