234 スタンピード
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「あ!おいっ!!今すぐ逃げろ!!」
いきなり先頭を走る冒険者らしき男に言われ、ナイン達はさらに警戒度を上げる。
冒険者ギルドのスタッフらしき者が同行しているため、おそらく盗賊ではないだろう。だがそれとは別に、どうやら緊急事態のようだった。
前に出たグレンが叫ぶように返す。
「何があった!!」
「スタンピードだ!!!」
事態の確認をすると、先頭の男は食い気味に返してきた。
スタンピード。以前、四足ダンジョンへ行った時に説明として聞いている。簡単に言えば、何らかの理由により大量の魔物が暴走する状況のことだ。
発生する原因は色々とあるが、大概は強い魔物が出現したか、魔物の数が多くなり過ぎたかだ。
強い魔物が出現した場合は、その強い魔物を中心にして周囲の魔物が逃げる。勝てないからだ。そうして逃げると、その逃げた魔物達が集団となって大移動を始める。移動方向は不明。ほとんどの場合は、一塊になって一方向に向かうらしい。
次に魔物の数が多くなり過ぎた場合。この場合の時は、さらに色々とパターンがある。単純に餌が足りなくなるパターン。魔物同士の縄張り争いが発生したパターン。多くなり過ぎた魔物同士で殺し合い、強い魔物に進化するパターンなど様々だ。強い魔物に進化すると、先ほど説明したような状況になったりする。
まあ色々と話したが、色々と理由やパターンがあるわけだが、彼らが逃げてきた方向にあるのはダンジョンだ。となれば、ダンジョンでスタンピードが発生したのだろう。
はてさて、何が理由なのか。
「なっ!?マジかよ。場所と状況は!?」
一瞬狼狽そうになったグレン。だがすぐに冷静さを取り戻し、スタンピードの発生場所と現在の状況を聞く。
ナイン達の近くまでやってきた男達は、その場で膝に手をつくと、肩で息をしながらぜぇぜぇと答える。
「青の、洞窟だ!!上階層の、Cランクは、もう出てきてる!!!」
「ちっ!ヤベェな!!」
ダンジョンから出てきている。その状況にグレンが隠さずに舌打ちした。彼の気持ちはわかる。自分も正直舌打ちしたい気分だ。
ダンジョンでスタンピードが発生した場合、魔物が外に出てしまう前にダンジョン内で対応する。これが一番被害が出ずに早く収束済む。何故なら、やってくる魔物をダンジョン内の通路で待ち構えればいいからだ。
だが、魔物がダンジョン外に出てしまった場合だとそうはいかない。外に出た魔物達は、一方向に移動するとはいえダンジョン内の通路以上に広がってしまうからだ。そうなれば戦闘領域が広範囲になってしまい、ヒト同士の連携が難しくなる。結果被害が大きくなり、収束も遅れる。
今回に関しては、もはや外に出てしまっているためダンジョン内での収束は不可能だ。まだCランクしか出てきていないとは言え、状況は最悪と言えよう。
息を整えたギルドスタッフが、追加の情報を口にする。
「ダンジョン内には現在、12組53名の冒険者がおります。おりますが・・・、まだ、誰も出てきてません」
「・・・わかった」
ギリリと歯を噛み締めたグレンが、辛そうな表情で答えた。
聞けばダンジョン内にいるのは、Bランクパーティーが3組、Cランクパーティーが9組であるとのこと。
正直、その冒険者達の生存はかなり難しいだろう。スタンピードの兆候ではなく、発生だ。そのうえ魔物がダンジョン外に溢れている。おそらくだがダンジョン内は、大量の魔物が暴れ回る地獄のような状態だろう。
「王都へは、魔法通信でスタンピードの発生を伝えてます。ですが、魔物が外に出た事は伝えられていません。連絡をする前に出張所を破壊されてしまいましたので・・・」
ギルドスタッフの話ぶりから、対応が間に合わない勢いで事態が動いていた。ということがわかった。
ちなみに出張所とは、管理のためにダンジョン前に設置された簡易冒険者ギルドの建物の事だ。この出張所には2名のギルドスタッフが常駐しており、ダンジョンに入る者のチェックなんかをしている。
そうしてギルドスタッフと冒険者の男から状況を聞いていると、気配感知の領域に大量の何かが入ってくるのが感じられた。いや、何かじゃないな。魔物だ。
「魔物の集団が来たぞ!!」
僕は即座に声を上げる。ナイン達は気配の方向である前方を、男達は自分達が走ってきた後方を振り返る。
冒険者達の気配感知にも反応があったようだ。その顔に緊張と恐怖の色が現れ、見る見るうちに青ざめていく。逃げ切れるか微妙だ。追いつかれて乱戦になりかねない。
これは、すぐに決断しないとダメだな。
そう思ったナインは、速攻で意識を切り替えると仲間達の方へと向く。
「全員、すぐにこの人達と一緒に王都まで撤退。グレンとルチル、王都に着いたら状況の説明を。メイ、王都が防衛と迎撃の準備を始めたら僕に教えてくれ」
仲間達に即座に指示を出す。一応パーティーリーダーはグレンだが、自由なる庭園で指示を出すのは、ほぼ僕かグレンなので問題は無い。だが、今回問題があるとすれば指示の内容だろう。
「お前・・・」
驚きに目を剥くグレンが口を開く。指示の内容を正しく理解したようだ。ルチルも同じ反応だった。
「僕に教えてって、ナインは・・・」
メイも理解したらしい。言葉が尻すぼみになっていった。足元にいるルーチェもその幼い顔を歪ませ、僕を見つめていた。
僕は、心配気な表情を顔いっぱいに貼り付けた彼女に、頷き返す。
「ああ、僕はここで時間稼ぎをする」
また次回!