233 年明けて
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ギルドでの情報集め等から早一週間。1月6日の早朝。ナイン達は、王都アズールを出て目的のダンジョンへと向かっていた。
「いい天気だな。それに暖かい」
「だな。『冬越えするならノースト南』と言われてるだけあるぜ」
雲一つ無い青空の下、軽い足取りで街道を進む一行。目的地であるダンジョンは、この街道をずっと進んだ先だ。
ルートとしては、王都アズールを東門から出て、東北東に真っ直ぐ。といった具合だ。距離的には大体5キロほど。Aランクダンジョンという危険な場所なのにかなり近い位置だ。
まあ、そこは良し悪しがあるのだろうが、それはそれとしてダンジョンはお金になる。ダンジョン目的で王都にやってくる冒険者に、その冒険者が集めてきた素材やアイテムを目当てにやってくる商人。危険度は高かろうと結果的に経済に活気は出るだろう。
それに、何と言っても王都なのだ。騎士や兵士が多くいるため、防衛力は高い。何かあったとしても、十分に守る事は出来よう。
ああ、話は変わるが、観光と年越しに関しては別段話すような内容は無い。何せ普通に観光して年越ししただけだからな。
観光に関してならまだ話せるが、年越しは普通だった。去年の方が盛り上がっていたらしい。何せ去年は、1999年から2000年に変わる年だったからな。節目として盛り上がったのだろう。その分翌年である今年は、落ち着いていたらしい。残念だ。去年、一昨年はまだ眠ってたからなぁ・・・。
「それでは、向かってる間にダンジョンについてのおさらいをしますね」
「おねがーい」
到着するまでの時間を使って、ルチルは先日集めた情報の確認とおさらいを始める。
「今私達が向かっているAランクダンジョンの名前は、青の洞窟です。名前の通り洞窟型のダンジョンで、これもまた青という名前が示す通り、水属性の魔物が半分を占める場所ですね」
「残りの半分のうち、3割半が氷属性だっけ?」
「はい。あとの1割半は光と闇以外の属性ですね」
「かなり偏ってるよな。俺、氷なら問題無えけど、水は相性悪いんだよなぁ・・・」
魔物の割合についてルチルへ確認していると、グレンが愚痴り始めた。仕方なかろう。君が炎属性ばかり使うのが悪いのだ。
グレンの吐く愚痴に「頑張れば炎も通りますよ!」という、脳筋みたいなフォローをいれたルチルは、説明を再開する。
「青の洞窟の階層数ですが、Aランクダンジョンなので全20階層です。最下層である20階にダンジョンボスがいますが、途中の階層にもフロアボスというのがいます」
ギルドで貰った。いや、購入したダンジョンの情報や地図が書かれた紙束を手にしているルチルは、淀みなく続ける。
「1階から9階まではCランクの魔物が出ます。属性割合は、先ほど言った割合ですね。そして10階にBランクのフロアボスがいます」
「Bランクの魔物か。初めて戦うからドキドキするな」
まだBランクの"魔物"とは出会った事は無い。戦ったのはBランクの第二級魔人だ。まあ、あれは半分魔物みたいな存在っぽいが、ノーカンだろう。見た目ヒトだし。
「アクアワイバーンだっけ?」
「そうです。飛び回りながら水魔法や水のブレスを吐くのが特徴ですね。あとは尾や足の鉤爪、噛み付きをしてきます」
メイの確認にルチルが答える。デカいのか。中々大変そうだな。
大きさというのは純粋な強さに直結する。大きければ力も強いし体力もある。防御の面でも、肉体表面は傷付けられるが、内部には届きにくい。単純に倒しにくいと言える。
「フロアボス以降の11階からは、Bランクの魔物が出現し始めます。Aランクは15階からですね。ですが情報によれば、Aランクの出現頻度は高くないそうです」
大体、30体に1体くらいみたいです。と紙を見たルチルは、Aランクの出現頻度を口にした。
十分高いように感じるが、これでも低いらしい。僕の時はもうちょっと低くしてほしい。50体に1体くらいで。
「最下層である20階のダンジョンボスは、Aランク上位のブルーヒュドラです。Aランクという枠組みですが、ダンジョンボスなのでほぼSランクくらいの強さみたいですね」
「Sランクかぁ・・・」
Aランクに属するが、実質もう一個上らしい。ヤバイな。Bランクでドキドキしている場合じゃない。
ルチルと、過去に戦った事があるメイの説明によれば、ブルーヒュドラは九つの首を持つ水属性の青い蛇らしい。特徴は、とにかくデカい。最低でも、過去に出会ったアクアタイガーやレッサーキマイラの3倍はあるらしい。でけぇよ。
流水、雲霧魔法を使う。そして毒も使うとのこと。ああ、雲霧魔法は、水魔法からの派生魔法だ。ルチルが使う重力魔法みたいな、地魔法からの派生と同じものだ。
あ、っとそれからメイの冒険者ランクだが、これは護衛依頼完了時にCに上がっている。
護衛依頼に関しては、パーティー単位での報告だったが、ランクアップは個別での手続きとなる。それと、高ランクへのランクアップでもない限り、手続きはすぐ終わる。そのため速攻で終わっていた。
「一応階層やボスに関しては以上ですね。あとは着いてから適宜確認していきましょう」
「そうだな。そもそも今回は、レベル上げだけじゃなくて俺らがどこまで行けるかの確認。っつう意味もある。ゆっくりでいいだろ」
グレンの言葉に僕達は頷く。
彼が言うように、レベル上げを抜きにすれば今回は確認の意味が強い。その都度ゆっくりと、だがしっかり情報を確認して進んでいくのがいいだろう。というか、最初から全部覚えるのは無理だ。絶対抜けが出る。そっちの方が危ない。
情報の確認を終えたナイン達は、街道をのしのしと軽快に進む。
そうこうしているうちに、ダンジョンまで残り3分の1までやってきた。残りは1キロちょっとなので、あと10分くらいで到着するだろう。
さて、久しぶりのダンジョン。楽しみだ。
そう思いながらナインが歩を進めていると、突然、進行方向であるダンジョン側からこちらへ向かってくる十数人の気配を感じとった。
「魔物じゃないな。誰か来るぞ」
「本当だ。・・・あれ?でも何か変だね」
同じように気配を察知したメイが、こてんと首を傾げる。その様子にナインは、やっぱりか。と思った。
何故なら、感知した者達の気配からは一様に、"焦り"と"恐怖"が感じられたからだ。
何だ?何があった?
疑問に感じながらも、ナイン達は一瞬で警戒度を上げ、戦闘態勢をとる。ヒトの気配しか感じないうえに、焦りと恐怖の気配があるが、盗賊じゃないとも限らないからだ。
そうして構えてから30秒後、ダンジョンへの道の奥から気配の主達が走ってくるのが見えた。
「盗賊・・・、じゃなさそうですね」
気配の主達を見たルチルがそう呟く。
走ってきた者達の見た目は、冒険者と非戦闘員といった姿だった。
割合としては、冒険者の姿のものが大半だが、3割程そうでない非戦闘員が混ざっているといった具合だ。そしてこの非戦闘員。服装からして冒険者ギルドのスタッフだ。ギルドで何度も見たので、よく覚えている。
これはもしや・・・。
ナインの頬を嫌な汗が伝う。
「あ!おいっ!!今すぐ逃げろ!!」
集団の先頭にいた冒険者らしき男が叫んだ。
どうやらまた厄介事に巻き込まれたらしい。
くぅ・・・、やることがいっぱいあるぅ・・・。
時間が足りない・・・。