232 賑わうギルド2
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「エルフの女子が驟雨。狼獣人の男が嵐刃だ」
なるほど、あの2人がそうなのか。
二つ名持ちのAランク冒険者。そんな2名は、どちらともパーティーメンバーと一緒にいた。
「驟雨と呼ばれているあの娘の名は、マールシア・マーレントだ。マールとか呼ばれとる」
「マールシアさんですね。弓を使いながら水と風、雷の魔法を使う人でしたよね」
教えてくれるガンドットに答えつつ、マールシアへを見る。
依頼掲示板前にいる女性4人組。人間2人、猫獣人1人、エルフ1人のパーティーのようだ。驟雨は、この1人だけいるエルフである。
彼女の背には、装飾の少ない木製の弓と矢筒が背負われている。簡素な弓に見えるが、たぶんあれも魔弓か何かだ。あの弓と魔法を持って、雨のような攻撃をするのだろう。
見た目は、薄緑色の長い髪に、エルフの特徴であるピンと伸びた耳が印象的だ。そしてめちゃくちゃ美人だ。
仲間と依頼についてでも話しているのか、時折り笑顔見せるマールシア氏の姿を、ナインはじっくりと眺める。うーん、凄い綺麗な人だ。
知らず知らずに鼻の下が伸びかける。そんなナインの様子に、隣に座る少女が気付かぬはずがない。
「・・・ナイン?」
「ッ!?」
メイがニッコリとこちらを見ていた。彼女の声と笑顔、そして瞳に、心臓が跳ね上がる。
い、言い訳を・・・。
「大丈夫!メイの方が100倍可愛いよ!」
物凄く言い訳感のある言葉になってしまった。だが吐いた言葉は取り消せない。これで何とかなってくれ!
そう思いながらメイの様子を伺う。
「え?も、もう・・・。仕方ないなぁ」
すると、あっさり許された。チョロ過ぎないか、我が嫁よ。
嬉し恥ずかしといった具合なのか、メイは頬を赤ながら椅子の上でクネクネと動き出した。うん、放置しとこう。
「・・・終わったか?」
「・・・終わったよ」
「そうか・・・。それじゃあ気を取り直して次だな」
ガンドットにまで気を遣われてしまった。ごめん。というか忘れてたよ。
その後、何事もなかったかのように話は戻った。
「さっきも言ったが、嵐刃はあの狼獣人の男だ」
嵐刃の紹介になり、視線を酒場にいる狼獣人に移す。
「名は、サンズ・ラーバという」
ガンドットの口から、嵐刃の名が出る。
その嵐刃サンズ氏は、酒場の奥側にて仲間であろう獣人達と酒を飲んでいた。
灰色の髪からピョンと飛び出た獣耳に、腰からは尻尾が出ている。背に着けられた剣帯には、鍔が緑色に染まった長剣が2本収まっていた。色からしておそらくは風属性の魔剣だろう。
確か、旋風魔法と2本の剣を合わせた戦闘スタイルだったか。あの剣を見るに、魔剣のアビリティも合わさっていそうだ。剣速が凄く速いらしいが、どのくらいなんだろうか。一度見てみたい。
そうしてガンドットによる説明を聞いていると、逃げていたルチルとグレンが戻ってきた。僕らの様子からそろそろ戻っても大丈夫だとでも思ったのかもしれない。
「遅かったな」
グレンに声をかけながら、ジトっとした目を向ける。だがそんな目を向けられても、グレンは肩をすくめるだけだった。
「爆弾の年末セールが始まったからな。仕方ねぇのさ」
どうしようもない事態だったとでも言いたげな口調だ。いや、買いに行ったのはお前だろ。
こりゃ言ってもどうしようもないな。と思ったナインは、はぁ・・・。と溜息を吐くと、話を爆弾に移した。
「まぁいいや。で?爆弾ってどんなの?いくらだった?」
「まてまて。とりあえず、爆弾はこれだ」
グレンは、ナイン達が座る席に腰を下ろすと、マジックバッグから人の頭くらいのサイズをした赤く丸い物体を取り出し、テーブルの上に置いた。どうやらこれが爆弾らしい。
向かいでは、ルチルがガンドットに挨拶していた。知り合いだからか、2人からは笑顔が見える。
僕は爆弾をジッと凝視する。ちょっと触ってみたいが、爆発物なので手が出ない。ついこの間まで爆弾には手を焼かれたからな。
「結構大きいな」
見たまんまの感想を口にする。
「威力に対して言や、これでも小せえ方だぞ?」
「そうなのか。どうやって使うんだ?」
「魔力を流せばいいだけだ。魔道具と同じだな。そんで10秒後に爆発する」
ほう、確かに魔道具と同じだ。それに10秒か。なかなかに絶妙な時間だな。
これが5秒なら、自爆したり仲間を巻き込んだりといったことが起きかねない。そして10秒以上だと、今度は長過ぎる。爆発を相手に当てにくくなる。
「誰でも買えるのか?」
「一応ランク制限はあったぞ。Cランク以上じゃねえと買えねえ」
「ああ、危ないからか」
「そういう事だな」
冒険者はCランクから一人前という扱いになる。それ故に、それより下には販売をしていないのだろう。事故る可能性があるから。
ランク制限のある爆弾だ。はてさて、どのくらいの威力なのだろうか。そんな事を考えながら、未だ触れることはせずにテーブル上の爆弾を眺めていると、グレンが口を開いた。
「ちなみに値段は5万だ」
え!?高っ!!そう思ったが、周りの反応は真逆だった。
「ほう?安いな。これなら通常は10万するぞ」
「そうですね。Bランクの爆弾ですから、素材も貴重でしょうし」
「顧客集めのためじゃない?たぶん購入数の制限とかあったでしょ?」
ガンドット、ルチル、メイが口々に爆弾について話出した。メイの言葉にグレンが答える。
「ああ。1人1個までだった」
「やっぱり。今回の年末セールで採算度外視で売って、次からは通常価格で買わせるって流れだね。爆弾って強いから1回使うとまた使いたくなるし、特にダンジョンみたいな倒し方を気にしなくていい場所だとかなり万能だしね」
「確かにダンジョンだとそうだな。粉々にしちまっても、ドロップ素材に影響は無えからな」
メイとグレンの会話を聞き、なるほどと納得する。
今回、年末セールで爆弾を1つ購入する。ダンジョンに行き、ボスクラスや強い魔物相手に使う。沢山の経験値とレアな素材が手に入る。その流れに味を占め、再度爆弾が欲しくなる。だが次は通常価格になっている。高いが、リスクを抑えて敵を倒せるため、購入する。みたいな流れだろう。まぁ単純に爆弾にハマる奴もいると思うけど。それは極小数だろう。
グレンもダンジョンで使うためだろうか?そう思ったので聞いてみた。
「いや、使わねえよ」
違うらしい。
「じゃあ何で?」
単純に欲しかったのか?そう思ったが、理由は全然違った。
「俺らは厄介事に巻き込まれるタイプみてぇだからな。そういう時のためだ。切り札みてえなもんだと思っとけ」
「・・・なるほど。手札はいくらあってもいいって事か」
「そういう事だな」
深く納得した。
うん、大事だわ。まあ、そういう事態に巻き込まれないのが一番いいんだけど。
「無理だろうなぁ・・・」
誰にも聞かれない程度の大きさで、そう呟いた。
まったりした感じの話はそろそろ終わります。
それではまた~。