225 王都に向けて
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テオドール達、骸の集との打ち上げから明けて翌日。ナイン達は、早々にシアントルの町を出立し、王都アズールへと向かっていた。
本当は、シアントルの町でメイの冒険者ランクを上げる予定だった。だがこの町にいれば、またスチュアートに出会う可能性が高い。そのため、すぐに町を出て、王都でランク上げをしようという事になった。
晴れ渡る青空の下、ナイン達は警戒しつつも軽く談笑しながら進む。
そうして和やかに歩を進めていると、グレンが昨日の打ち上げの際に出た話題を口にした。
「そういや、テオドールさんが『北で戦争の気配がある』つってたな」
「あー、言ってたね。『用がなければ行かないほうがいいでしょう』とも言ってたっけ」
ナインも、昨日のテオドールの言葉を思い返す。
『北の氷雪地域にて、どうやら戦争の気配があるようです。危険ですので、差し迫った用がなければ行かないほうがいいでしょう』
打ち上げの終わり頃に、テオドールが僕達に言った言葉だ。
戦争の気配。
この言葉を聞き、すぐに思い浮かんだのは、ラグナロクの暗躍だ。
グレン達から聞いていた話然り、この前のカルヴァースの事然り。どうにもラグナロクならばやりそうだ、という印象だからだ。
まぁラグナロクが関わっているのかわからないが、警戒しといて損はないだろう。というか行かなきゃいいだけだ。危ないし。
「行かなきゃいいだけだよ。もし行くとしても、落ち着いてからにすればいいし」
ルチルとルーチェと並んで前を歩いていたメイが、くるりと振り返ってそう言った。彼女も同じ考えらしい。
同じように振り返ったルチルも、うんうんと頷く。ルーチェも頷いていたが、君はちゃんと話を理解してるのか?
「ま、そうだな。わざわざ危険に首を突っ込む必要はねぇだろ。こいつみてぇに」
そう言ってグレンがこちらを向いた。
「グレンもだろ?ブーメランだぞ」
「あの時はお前の方が先だったろ?」
アクアタイガー戦の事を言っているのだろう。確かに僕の方が先だった。だが
「どっちもどっちだと思うなぁ」
呆れた顔をしたメイが、僕とグレンに向けてそう呟いた。
そうだね、僕もそう思う。
シアントルの町を出てから2日目。道中、たまに魔物は出るが、盗賊が出現するような事態は無く、穏やかだった。
あまりに何も起きず、若干気が抜けそうになる。
「暇だな」
しっかりと足を前に出しながらも欠伸を噛み殺し、素直な気持ちを溢す。
「じゃあ、新しい魔力運用法でも教えようか?」
そんなナインを見かねてか、メイがそんな提案をしてきた。
ナインとしては、暇だからちょっと雑談でもしたいなぁ。くらいの気持ちだったので、素直に驚きを表す。
「え?いきなり?なんでまた?」
「ちょうど時間もあるしねー。それに、護衛依頼中に、魔導銃のおかげで魔力制御が鍛えられたでしょ?だから、そろそろ次に行っても良いと思ってたんだよ」
「あ、そういう事」
メイなりに僕の事を見て、色々考えてくれていたらしい。
確かに、今なら時間はある。警戒は必要ではあるが、歩くくらいしかすることがないからな。そして魔導銃の弾丸変形で、魔力制御が鍛えられた感覚もある。あれ発射する一瞬で変形しないといけないからな。否が応でも鍛えられた事だろう。
「さて、それじゃあ教えていくけど、今回教えるのは、魔力の属性変換だよ」
両手をパンッ!と打ち鳴らしたメイが、新しい魔力運用法についての説明を始めた。
「魔力の、属性変換?」
「そう、属性変換。簡単に言うとこの属性変換は、『魔法スキルを使用せずに、無属性魔力を属性魔力に変換する』方法だよ」
・・・ん?
言われた内容が上手く理解出来ず、思考が止まりかかる。
え?いや、でも。あれ・・・?
属性魔力に変換する?
停止しかけた脳を無理矢理に動かして何とか理解しようと試みたナイン。それと同時に、過去に彼女自身から言われた言葉を思い出した。
「・・・出来るの?でも、属性魔法は使えないって言ってたじゃん」
まだ目覚めてからそれほど経っていない頃、魔法について聞いた時にメイはそう言っていた。間違いなく言っていた。嘘だったのか?
ナインはそう言いながら、メイに対して混乱と疑いがこもった視線を向けた。だが、彼女はそんなナインの考えなど意にもせず、軽く肩をすくめる。
「属性魔法は使えないって言ったんだよ。属性魔法って言うのは、魔法スキルを使用して使うものだからね。この属性変換は、魔力操作の一部であって厳密には魔法ではないんだよ」
嘘は言ってないとでも言いたげな口調で答えたメイは、最後に「一応、属性魔法の再現は出来るけどね」と付け加えた。
えー・・・。
「・・・言葉遊びじゃん」
疲れてもいないのに、体がドッと重くなったように感じ始めた。
確かに、属性変換と属性魔法は違うのだろう。属性変換は、純粋な技術で属性魔力に変える方法であるのに対し、属性魔法は、スキルによって変換された属性魔力を、これまたスキルによって魔法という形にしたものだ。とは言え、だ。結局、属性魔法の再現が出来るなら、それはもうほぼ同じではないか?
というか。
「・・・なんで、属性変換について最初から教えてくれなかったんだ?」
僕が属性魔法を使いたかったこと、知ってたよね?
ほんの少しだけ目に力を込め、睨むようにしながら詰問した。だがそんなナインの視線を受けても、メイの態度は変わらない。
「物凄く危ないうえに、難しいなんてレベルじゃないからだよ」
危ない?難しい?
「どのくらい?」
「あの時のナインだったら・・・、最低でも99%の確率で制御に失敗して暴発するね。大爆発で済めば良いくらいかな」
「は?」
あまりの難しさと危険さに、思わず気の抜けた声が出た。
最低でも99%って・・・。ほぼ失敗じゃん。しかも大爆発が良いレベルって何だよ。悪いレベルだと何が起きるんだ?
治っていた頭の混乱が、再度やってくる。
「正直、今のナインでも成功するかはかなり微妙なんだよね。でも、以前と比べれば魔力制御力も上達してるから、たぶん大爆発は起きないよ。起きても小爆発くらいじゃないかな」
また混乱し始めたナインに気付かないのか、メイの説明は続いた。いや、小爆発って。結局爆発してるじゃん。
それは本当に大丈夫なのか?混乱する頭で何とかそう考えた。一方でメイは、そんなナインを横目に、「それと、教えなかった1番の理由はね」と、続ける。
「あの時のナインにそんなの教えたら・・・、ねぇ?」
何故かこちらをジトっとした目で見つめてきた。なに?
「使いたかった属性魔法を再現しようとして、絶対に、間違いなく、100%隠れて使うのが目に見えてるもん。そりゃ教えないよ」
「うっ・・・」
彼女の言葉に、何も言い返せない。
自分でもわかる。絶対使った。そして大爆発を起こしてた。メイからは隠れられないのに、コソコソしてる自分の姿も鮮明に思い浮かんだ。
うん。これは、教えない選択をしたメイの方が正しいわ。
ブックマークありがとうございます!!
次回が今年最後の投稿になる予定です。
それでは~