223 SSランクと聖人1
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「うーむ、思い出したらまた腹立ってきた」
酒の入ったジョッキをドン!とテーブルに置きながら、ナインはイラついた感情を口から溢した。
あれからもう2時間弱は経過しているが、薄れてはいても、未だ怒りの感情は消えない。
「まぁまぁ、落ち着きましょう。そのままでいては、美味しい食事に失礼ですよ。ほら、これも美味しいですよ」
「いただきます・・・」
向かいに座るテオドールが、何だかよくわからない茶色のプルプルしたものが乗った皿を勧めてきた。
何だこれ?すごいプルプルしてる。話にだけ聞いてるスライムかな?
受け取った料理を眺めながら、小さく首を傾げる。スプーンを出すには、少しだけ勇気がいるな。
あの騒動の後、ギルドで依頼の達成報告をしたナイン達は、そのまま連れ去られるようにしてテオドールおすすめの食事処に来ていた。
そうして始まったのは、無事に依頼を達成した事による打ち上げだ。
多種多様な大量の料理に、これまた多種多様な酒。これ全部でいくらするんだろう。と思えるほどのものが、テーブルの上に次々と運び込まれた。
この後にくるであろう支払いに、内心ビクビクしていたのだが、何と全てテオドール持ちらしい。正直助かった。お金に余裕はあるが、使い過ぎれば無くなるからな。
テオドールの音頭で乾杯し打ち上げが始まると、各々好きに飲み食いを始めた。そしてナインはこうなった。
イラつくナインを、テオドールが料理や酒で落ち着かせる。という流れが、始まってから6回は繰り返された。
ちなみにテオドールが世話を焼く度に、彼へ向けてメイが恨めしそうな表情をしていた。どうやら自分がやりたかったらしい。
謎のプルプル料理を突きながら、ナインはふと、先の騒動時のテオドールの発言を思い出した。
「そういえば、あのおじさんの事、雷轟?ギルフォード何ちゃらって言ってましたが、知り合いなんですか?」
そう言うと、思い切ってプルプルの料理を口にした。あ、美味い。
「知り合いではないですね。ただ、世界的に有名な方だったので知っていただけです」
テオドールは、飲んでいたジョッキをおろした。
「世界的?」
「ええ。あの方は、SSランクの冒険者ですから」
「・・・へ?」
マジ?
驚きにスプーンを持つ手が止まった。
「あ、やっぱりそうなんだ」
ナインが固まっていると、隣にピタリとくっつくように座るメイが、納得したように反応した。
「・・・メイは、わかってたのか?」
スプーンを皿に置き、メイへと聞く。
彼女はコクリと頷くと、自身の前にある焼き魚をフォークで崩し始めた。
「知ってたわけじゃないよ。ただ、あの人の雰囲気がそんな感じに見えたからね。はい、あーん」
そう言って、フォークに刺した魚の身を僕の口へと運ぶ。
「・・・そうか」
恥ずかしさを隠しながら、パクリと食べた。うん、美味い。ただ、人前ではやめような。
周囲から、僕達へと生温かい視線が向けられているのを感じる。
空気を変えるべく、ナインは「ごほんっ!」と一つ咳をし、話を戻す。
「そういえば、なんかあの人の話し方って、おじいさんみたいだったよな」
見た目は40代くらいだったのに、〜じゃ、〜じゃろう、みたいな口調だった。何というか、見た目に合わない感じだ。
「ああ、それはね、あの人が聖人だからだよ」
「せいじん?」
何だそれ?
初めて聞く言葉だ。疑問符を浮かべていると、向かいのテオドールが教えてくれた。
「聖人とは、レベル100に到達し、精霊王の試練を超えた者の事ですよ」
「レベル100・・・。それに試練、ですか?」
「はい。ざっくりと説明すると・・・」
ナイフとフォークを置いたテオドールが説明を続ける。
聖人とは、レベル100に到達し、精霊王の試練、または、Sランクダンジョンを1人で突破して限界を超えた者の事である。
聖人に至る事による恩恵は2つ。
1つは、レベル上限の解放だ。
ヒト種のレベルは100が限界値であり、そのままでは、それ以上に上がることはない。だが、聖人に至る事により、この上限が解放され、限界値が150になる。
「150・・・。とんでもないですね」
「私もそう思います。まぁ、100の時点で凄いんですけどね」
笑いながら言うテオドールに、確かにと納得する。
今のテオドールで、たぶんだがレベルはおおよそ80前後。100までは後20レベルくらいだ。だが、この20はそんなに簡単な話ではない。
まず第一に、レベルとは、上がれば上がるほど次のレベルまでの必要経験値が多くなっていく。それ故に、上位になればなるほど、レベルの上がる速度も落ちるのだ。
もちろん強い敵、AやBランク、Sランクの魔物を倒せば、経験値はたくさん手に入る。だが、そのランクの魔物は、高ランクダンジョンの下層やボスくらいでしか現れない。遭遇率が圧倒的に低いのだ。
この遭遇率のせいだからだろう。どの冒険者も、Bランクまでは順調にレベルが上がる。それ後は、上昇速度が非常にゆっくりとしたものになる。
つまり、簡単に言ってしまえば、100まで上げるのは凄まじく大変。という事だ。
「なるほど・・・。あのおじさん、ギルフォードさんという方は、100レベルを超えた方なんですね。何レベルくらいなんですかね?」
「確か・・・、2年前で118とかだった思います」
「118・・・!!」
強すぎない?僕のレベルの3倍以上あるの?
口をポカリと開けて固まる。右手のスプーンから、食べようとしていたお肉がポトリと皿に落ちた。
そんなナインの様子に、テオドールはフフッと声を溢すと、「2年前ですから、1レベルくらい上がってそうですけどね」と続けた。