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レゾンデートル  作者: 星街海音
聖人と聖女と聖剣
223/251

222 宿での忠告

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Side ギルフォード


 全員で高級宿へと戻ってきたギルフォードは、スチュアートの襟首を掴むと、その広いリビングの中央に投げ飛ばした。


 「ぐっ!な、何をする!!」


 「ギルフォード殿!!旦那様に」


 「うるせぇ!!!黙ってろ!!!」


 床に尻餅をつくスチュアートとその従者が非難の声をあげる。だがそれらを怒声で遮った。凄まじい爆音だったためか、入り口付近にいるアメリアの嬢ちゃんの体が、ビクリと跳ねるのが見えた。すまん。


 それほどに、今のギルフォードは怒っていた。


 「この大馬鹿野郎が!!!とんでもねぇ者に手ぇ出しおって、死にてぇのか!!??」


 そう言いながら、ギルフォードの体から殺気が溢れた。わしが殺してしまいそうだ。


 高級宿故、部屋にはしっかりとした防音処理がされているので、外に声が漏れる事はない。まぁ、殺気は漏れてそうだが、これくらいなら大丈夫だろう。たぶん。


 ギルフォードの言葉に、スチュアートが困惑した表情を浮かべる。


 「な、何を言っている・・・?」


 あれだけの事があったというのに、この阿呆はわからなかったらしい。


 「お前が絡んだ奴らの内、ドクロ面を着けた奴らがいたじゃろう」


 「あ、ああ」


 「ありゃ間違いなく、冒険者のAランクパーティーじゃ」


 「・・・え」


 わしの言葉に、スチュアートが口をポッカリと開けて固まる。どうやら本当にわからなかったらしい。


 「わしの見立てじゃ、手前にいたドクロ面の男がAランク。他はBランクじゃ」


 聞いているのかわからないが、とりあえず聞いていると思って説明を続ける。


 「お前の従者よりも上の強さを持った奴らじゃ。万が一戦闘になっておれば、お前は生き残るが、従者は即全滅じゃろうな」


 わしの見立てに、従者達が青い顔を浮かべた。こいつらもわかってなかったようだ。主従揃って節穴だ。


 さて、今説明したのは、ドクロ面の者達についてだ。まだいる。


 「次に、もう半分のパーティーじゃ」


 そう口にしたギルフォードの脳裏に、怒れる白髪の青年の姿が浮かんだ。


 「もう半分は、大体BからCの間くらいじゃろう。じゃが、白髪の2人組は別じゃ。少女の方は、見た目は幼いが技量は恐ろしく高いじゃろう。最低でも、あの子1人でお前達と互角以上に戦えるくらいじゃ」


 そう言って、白髪の少女の姿を思い浮かべる。


 青年を見ながら、何故か終始嬉しそうな表情していた。スチュアートなど眼中に無く、わしが介入してもチラリ目線をやるくらいだった。


 あれも化け物じゃ。


 中身と見た目が一致せん。


 わからな過ぎて怖い。そういうタイプだった。

 

 「・・・それほどなのか」


 尻餅をついた体勢のまま、スチュアートはブルリと体を震わせた。


 自分が何に手を出したのか、さらに理解した事だろう。


 だが、まだ終わりではない。


 「最後に、お前に攻撃した白髪の男。あれはダメじゃ」


 「は・・・?」


 言っている意味がわからず、顔を上げたスチュアートは、そのまま首を傾げる。


 「あの青年はな、正真正銘の化け物じゃ」


 スチュアートに言い聞かせるように、ゆっくりと語り始める。


 「技量は多く見積もってもCランク下位。レベルもそのくらいじゃろう」


 ギルフォードはそこで一度言葉を区切る。


 青年の立ち姿や動きから見ても、自身の見立てはそう間違ってはいないだろう。それだけ見れば、あの青年は強くない。ヤバイのは魔力だ。


 「あの魔力放出を覚えているな?」


 忘れているわけは無いと思うが、スチュアートに向けて確認をする。


 スチュアートは真剣な表情をすると、コクリと深く頷いた。


 「あの青年の魔力はな、わしが過去に戦った『使徒』や、『SSランクの魔物』より遥かに大きい。上限が一切見えんレベルじゃ」


 「・・・は?」


 あまりの規模の大きさに、スチュアートの表情が崩れた。まぁそれも仕方ないだろう。使徒がどの程度なのかわからずとも、SSランクの魔物がどのくらいなのかは、公爵家の子息なら知っていてもおかしくないからだ。


 「やろうとすれば、あの青年ならば1発でこの町を更地にするくらいは出来るじゃろう。そのくらいのレベルじゃ」


 具体例をあげ、スチュアートにしっかりと認識させる。


 しかと認識出来たのだろう、スチュアートの足がガクガクと震え出した。


 「おじさま。あの方は、ヒトではないのですか?」


 今まで静かに成り行きを見守っていたアメリアが、疑問を口にした。


 そこが気になるのは当然だろう。なにせ、ヒトが持てるような魔力量ではないのだから。だが


 「いや、おそらくじゃがヒトじゃ」


 あの者からは、ヒトの気配がしっかりとあった。


 「では、ラグナロクの魔人でしょうか?」


 わしの否定を聞き、アメリアが再度問いかけてきた。


 「違うじゃろうな」


 首を横に振り、魔人の可能性を否定した。


 使徒とも戦った事があるが故に、何となくだが、あの者はラグナロクの魔人では無いと断言出来た。ただ理由については上手く説明出来ない。本当に何となくだ。


 だが、間違ってはいないだろう。


 「なら・・・、何なのでしょうか?」


 アメリアが小さな声で青年の正体を問う。


 「・・・わからん」


 これだという答えはなかった。


 「え?」


 「わからんのじゃ、何もな」


 ギルフォードの言葉を聞いた全員が口を閉じる。一時の静寂が生まれた。


 「だからこそ、怖いのじゃ」


 全員に聞かせるように、ゆっくりと呟く。


 あれだけの魔力を持ちながらも、何者かわからない。わからないというのは、怖い。


 ギルフォードは座り込むスチュアートへと振り返る。


 「さて、わかったじゃろう、何に手を出したのかを」


 そう言って膝をつき、スチュアートと目線を合わせる。


 「お前が連れ去る前にいつも逃しているとはいえ、最初から止めなかったわしも同罪じゃ」


 たとえ、指示があったとしても、ただの同行者であったとしても、もっとしっかりと止めておくべきだった。


 ギルフォードは、スチュアートに言いながら深く反省する。


 本国からは、スチュアートの行動を諌めないようにと指示が出ていた。この指示自体も、わしらが同行者になったように、何らかの契約や脅しがあったのじゃろう。そうじゃなければ意味がわからんからな。


 そんな指示があったが、出来うる限りでギルフォードは止めたり、説教をしたり、尻拭いをしたりと奮闘していた。


 そうしてドラゴンの尾を踏んだ。


 幸い、話が通じる相手であったため、何とか収めることはできた。


 それと同時に、スチュアートへ言い聞かせるタイミングも生まれた。


 「いいか、もうするな。そんなに新しい女性といたいなら、娼館にでも行け」


 目にほんの少しの殺気と威圧を込める。


 「死にたくなければ、人に迷惑をかけるな。ここは、お前がいたフラガラッハではない」


 目線は外さず、しっかりとした口調で言い聞かせる。


 「わかったな」


 「あ、ああ」


 首が取れるのではないかという勢いで、スチュアートが頷いた。


 理解したことを確認したギルフォードは、立ち上がると未だ入り口付近に立つアメリアへと視線を向けた。


 大人しく待っていてくれたのだろうが、その体からは若干の疲れが見えた。部屋で休んでいてもらおう。


 スチュアートへと振り返り、再度忠告する。


 「わしらは部屋に戻る。いいか、白髪の青年との約束じゃから、数日は部屋から出るなよ。出たらしばくからの」


 「わ、わかった」


 立ち上がりながら、スチュアートがコクコクと頷いた。


 反省しているのかはわからないが、相当に恐怖を感じたのは確かだろう。


 (本当に大人しくしといてくれよ・・・)


 口には出さず、心の中で呟く。


 いくら武に自身がある自分とて、あんなのとは戦いたくない。


 ギルフォードは「はぁー・・・」と深く溜息を吐きながら、アメリアを伴って部屋を後にした。

また次回。

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