222 宿での忠告
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Side ギルフォード
全員で高級宿へと戻ってきたギルフォードは、スチュアートの襟首を掴むと、その広いリビングの中央に投げ飛ばした。
「ぐっ!な、何をする!!」
「ギルフォード殿!!旦那様に」
「うるせぇ!!!黙ってろ!!!」
床に尻餅をつくスチュアートとその従者が非難の声をあげる。だがそれらを怒声で遮った。凄まじい爆音だったためか、入り口付近にいるアメリアの嬢ちゃんの体が、ビクリと跳ねるのが見えた。すまん。
それほどに、今のギルフォードは怒っていた。
「この大馬鹿野郎が!!!とんでもねぇ者に手ぇ出しおって、死にてぇのか!!??」
そう言いながら、ギルフォードの体から殺気が溢れた。わしが殺してしまいそうだ。
高級宿故、部屋にはしっかりとした防音処理がされているので、外に声が漏れる事はない。まぁ、殺気は漏れてそうだが、これくらいなら大丈夫だろう。たぶん。
ギルフォードの言葉に、スチュアートが困惑した表情を浮かべる。
「な、何を言っている・・・?」
あれだけの事があったというのに、この阿呆はわからなかったらしい。
「お前が絡んだ奴らの内、ドクロ面を着けた奴らがいたじゃろう」
「あ、ああ」
「ありゃ間違いなく、冒険者のAランクパーティーじゃ」
「・・・え」
わしの言葉に、スチュアートが口をポッカリと開けて固まる。どうやら本当にわからなかったらしい。
「わしの見立てじゃ、手前にいたドクロ面の男がAランク。他はBランクじゃ」
聞いているのかわからないが、とりあえず聞いていると思って説明を続ける。
「お前の従者よりも上の強さを持った奴らじゃ。万が一戦闘になっておれば、お前は生き残るが、従者は即全滅じゃろうな」
わしの見立てに、従者達が青い顔を浮かべた。こいつらもわかってなかったようだ。主従揃って節穴だ。
さて、今説明したのは、ドクロ面の者達についてだ。まだいる。
「次に、もう半分のパーティーじゃ」
そう口にしたギルフォードの脳裏に、怒れる白髪の青年の姿が浮かんだ。
「もう半分は、大体BからCの間くらいじゃろう。じゃが、白髪の2人組は別じゃ。少女の方は、見た目は幼いが技量は恐ろしく高いじゃろう。最低でも、あの子1人でお前達と互角以上に戦えるくらいじゃ」
そう言って、白髪の少女の姿を思い浮かべる。
青年を見ながら、何故か終始嬉しそうな表情していた。スチュアートなど眼中に無く、わしが介入してもチラリ目線をやるくらいだった。
あれも化け物じゃ。
中身と見た目が一致せん。
わからな過ぎて怖い。そういうタイプだった。
「・・・それほどなのか」
尻餅をついた体勢のまま、スチュアートはブルリと体を震わせた。
自分が何に手を出したのか、さらに理解した事だろう。
だが、まだ終わりではない。
「最後に、お前に攻撃した白髪の男。あれはダメじゃ」
「は・・・?」
言っている意味がわからず、顔を上げたスチュアートは、そのまま首を傾げる。
「あの青年はな、正真正銘の化け物じゃ」
スチュアートに言い聞かせるように、ゆっくりと語り始める。
「技量は多く見積もってもCランク下位。レベルもそのくらいじゃろう」
ギルフォードはそこで一度言葉を区切る。
青年の立ち姿や動きから見ても、自身の見立てはそう間違ってはいないだろう。それだけ見れば、あの青年は強くない。ヤバイのは魔力だ。
「あの魔力放出を覚えているな?」
忘れているわけは無いと思うが、スチュアートに向けて確認をする。
スチュアートは真剣な表情をすると、コクリと深く頷いた。
「あの青年の魔力はな、わしが過去に戦った『使徒』や、『SSランクの魔物』より遥かに大きい。上限が一切見えんレベルじゃ」
「・・・は?」
あまりの規模の大きさに、スチュアートの表情が崩れた。まぁそれも仕方ないだろう。使徒がどの程度なのかわからずとも、SSランクの魔物がどのくらいなのかは、公爵家の子息なら知っていてもおかしくないからだ。
「やろうとすれば、あの青年ならば1発でこの町を更地にするくらいは出来るじゃろう。そのくらいのレベルじゃ」
具体例をあげ、スチュアートにしっかりと認識させる。
しかと認識出来たのだろう、スチュアートの足がガクガクと震え出した。
「おじさま。あの方は、ヒトではないのですか?」
今まで静かに成り行きを見守っていたアメリアが、疑問を口にした。
そこが気になるのは当然だろう。なにせ、ヒトが持てるような魔力量ではないのだから。だが
「いや、おそらくじゃがヒトじゃ」
あの者からは、ヒトの気配がしっかりとあった。
「では、ラグナロクの魔人でしょうか?」
わしの否定を聞き、アメリアが再度問いかけてきた。
「違うじゃろうな」
首を横に振り、魔人の可能性を否定した。
使徒とも戦った事があるが故に、何となくだが、あの者はラグナロクの魔人では無いと断言出来た。ただ理由については上手く説明出来ない。本当に何となくだ。
だが、間違ってはいないだろう。
「なら・・・、何なのでしょうか?」
アメリアが小さな声で青年の正体を問う。
「・・・わからん」
これだという答えはなかった。
「え?」
「わからんのじゃ、何もな」
ギルフォードの言葉を聞いた全員が口を閉じる。一時の静寂が生まれた。
「だからこそ、怖いのじゃ」
全員に聞かせるように、ゆっくりと呟く。
あれだけの魔力を持ちながらも、何者かわからない。わからないというのは、怖い。
ギルフォードは座り込むスチュアートへと振り返る。
「さて、わかったじゃろう、何に手を出したのかを」
そう言って膝をつき、スチュアートと目線を合わせる。
「お前が連れ去る前にいつも逃しているとはいえ、最初から止めなかったわしも同罪じゃ」
たとえ、指示があったとしても、ただの同行者であったとしても、もっとしっかりと止めておくべきだった。
ギルフォードは、スチュアートに言いながら深く反省する。
本国からは、スチュアートの行動を諌めないようにと指示が出ていた。この指示自体も、わしらが同行者になったように、何らかの契約や脅しがあったのじゃろう。そうじゃなければ意味がわからんからな。
そんな指示があったが、出来うる限りでギルフォードは止めたり、説教をしたり、尻拭いをしたりと奮闘していた。
そうしてドラゴンの尾を踏んだ。
幸い、話が通じる相手であったため、何とか収めることはできた。
それと同時に、スチュアートへ言い聞かせるタイミングも生まれた。
「いいか、もうするな。そんなに新しい女性といたいなら、娼館にでも行け」
目にほんの少しの殺気と威圧を込める。
「死にたくなければ、人に迷惑をかけるな。ここは、お前がいたフラガラッハではない」
目線は外さず、しっかりとした口調で言い聞かせる。
「わかったな」
「あ、ああ」
首が取れるのではないかという勢いで、スチュアートが頷いた。
理解したことを確認したギルフォードは、立ち上がると未だ入り口付近に立つアメリアへと視線を向けた。
大人しく待っていてくれたのだろうが、その体からは若干の疲れが見えた。部屋で休んでいてもらおう。
スチュアートへと振り返り、再度忠告する。
「わしらは部屋に戻る。いいか、白髪の青年との約束じゃから、数日は部屋から出るなよ。出たらしばくからの」
「わ、わかった」
立ち上がりながら、スチュアートがコクコクと頷いた。
反省しているのかはわからないが、相当に恐怖を感じたのは確かだろう。
(本当に大人しくしといてくれよ・・・)
口には出さず、心の中で呟く。
いくら武に自身がある自分とて、あんなのとは戦いたくない。
ギルフォードは「はぁー・・・」と深く溜息を吐きながら、アメリアを伴って部屋を後にした。
また次回。