221 謝罪と退散
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ガガガガガガガガガッ!!!ガギンッ!!!
スチュアートへと向けて放った全ての魔力剣が、両手斧を持った男に叩き落とされた。
40代くらいだろうか。茶髪に白髪の混じった中年の大柄の男だ。スチュアートと従者達から少し離れて立っていた、2人組の内の1人である。
いつでも追撃出来るように、ナインは右手を上げたまま、紫色の模様が入った両手斧を持つ男を見据える。
ほんの少しの時間、通りには静寂が生まれた。
ナインと男が視線を合わせていると、隣に立つテオドールが、驚愕した気配を放ちながらボソリと呟いた。
「・・・雷轟。ギルフォード・グラント」
二つ名のような感じの言葉と、名前が聞こえた。たぶんだが、目の前に現れた男の名前なのだろう。どうやら有名人のようだ。二つ名があるという事は、冒険者か?
まぁ、そんな事は今はどうでもいい。
「邪魔をするな」
ナインはテオドールの言葉を聞き流すと、ギルフォードと呼ばれた男へ向けて口を開いた。
「あー・・・、すまないが、そちらさんの気持ちもよくわかるんじゃがの。そうも言ってられんのじゃ」
酷く困ったような表情を浮かべ、申し訳なさそうにギルフォードが答えた。
「知らないよ」
だがナインは、彼の言葉をバッサリと切り捨てた。それほどの怒りを感じているからだ。
ナインの言葉に、ギルフォードがはぁー・・・、と深く溜息を吐く。そしてすぐに「じゃよなぁ・・・」と小さく呟いた。
「頼む、それでもじゃ。この阿呆については、わしがどうにかする。謝罪もしよう。お主達の前に現れないよう宿から出さない事も約束する。じゃから頼む」
続く言葉にナインの眉がピクリと動く。
「遅いよ。それに、中途半端に止めに入るくらいなら最初から止めろよ。見逃したそっちの責任だろ」
「うぐっ・・・。すまん」
ギルフォードの表情がさらに歪む。
本当に遅い。スチュアートの行動がマズイと思うならば、ちゃんと最初から止めるべきなのだ。なのにこいつらは止めずに、ただ突っ立っているだけで、攻撃されてやっと止めに入った。
「貴族だから、勇者だからと何しても許されるとでも思ってるのか?そんな訳ないだろう?」
「・・・もっともじゃな」
「中途半端にしてきたツケが回ってきただけだ。痛みで思い知れば少しは反省するだろ?あいつの言い草からして、常習犯なんだろ?」
「・・・まぁ、の。だがこれ以上は勘弁してくれ」
未だ湧き出たままのナインの魔力が、更に大きくなる。言葉にする事で、怒りが更に大きくなってしまったからだ。
斧を構えたままのギルフォードは、ナインの魔力放出が大きくなった事に冷や汗をかく。
「痛みで反省という事ならわしがやる。先程も言ったが、宿から外にも出さん。同じような事は絶対にさせん。もしやろうとしたら、最初から止めると約束する。じゃから、頼む」
そう言ってギルフォードは、構えていた斧を手放し、地面に下ろす。そして深く腰を折り、頭を下げた。
「申し訳なかった・・・」
頭頂部を晒す、隙だらけの姿。攻撃を受ける事も覚悟しての謝罪だった。
そんなギルフォードの姿を見たナインは、小さく舌打ちする。
許さなきゃいけなくなってしまった。
怒りはまだまだある。最低でも、スチュアートの顔面を思いっきり殴ってやりたい。だが今回の発端である、メイを金で寄越せという暴挙も、言ってしまえば未遂だ。
そして、相手が悪いとは言え、先に手を出したこちらに対し、頭を下げて謝罪した。まぁ本人じゃないけどな。
そして最後に、謝罪され云々は関係無く、これ以上ここで騒動を続けるのはマズイという事。
ただの喧嘩ならばまだ良かったのだが、町のメインストリートで、怒りに任せた魔力放出と魔法攻撃は流石にやり過ぎだった。
魔力剣はギルフォードが全て叩き落としたが、魔力放出で町の住人がバタバタと倒れてしまった。これはどう考えても僕が悪い。
住人達には申し訳ないが、謝罪を受け入れてすぐにこの場を離れた方がいいだろう。本当に申し訳ないが。
じゃないと、もうすぐ衛兵か警備隊がやってくる。このままでは、互いにより面倒な事になる。いや、悪い事をしたから仕方ないんだけども。
「ナインさん」
頭を下げ続けるギルフォードを放置し、考えを続けていると、テオドールが僕の名を呼んだ。許す気が無いと思われたのかも知れない。
ナインは、ふぅー・・・と大きく息を吐くと、魔力放出を止め、右手を下ろした。というか止めれてよかった。出した時は完全に無意識だったから。
「謝罪を受け入れる」
若干嫌々な感じで言ってしまったが、大丈夫だろう。
僕の言葉にギルフォードが顔を上げる。
「すまん。感謝する」
ギルフォードは答えつつ、少しだけホッとした表情をした。
「だが、さっき言った言葉は守ってもらうぞ」
念の為釘を刺しておく。まぁたぶんギルフォードの感じからして大丈夫だとは思うけど。
「もちろんじゃ」
折った腰を戻したギルフォードがしっかりと頷いた。
「そんじゃ、さっさとこっから離れるとしようぜ。たぶんだが、もうすぐ警備隊が来る」
「そうですね。そうしましょう」
グレンとテオドールの言葉に、僕とギルフォードが頷く。
「それじゃあ、わしらはここで失礼する。改めてじゃが、本当にすまなかった」
足元に置いていた両手斧を拾ったギルフォードが、再度謝罪の言葉を口にした。
ナインはそれに頷きで返すと、離れる前にスチュアートへと視線を移した。
次は無いぞ。
声には出さず、一瞬の殺気と共に視線に込める。
「ひぃっ!!」
忠告と殺気に気圧されたか、スチュアートが情けない悲鳴を上げた。
ナインはその姿に少しだけ満足すると、ギルフォード達に背を向け、その場を離れ始める。
10メートル程進んだ頃、後ろの様子が気になったナインは、足を止めて顔だけ振り返る。
怯えた表情のスチュアートが、青筋を浮かべたギルフォードに襟首を掴まれて連れていかれているところだった。
それでは~。