219 それぞれから見たナイン1
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Side テオドール
スチュアートのとんでもない世迷言に、隣に立つナインが5秒程動きを止めた。あまりの内容に、脳が反応出来なかったのだろう。
そんなナインの代わりに、テオドールは抗議の声を上げようと口を開く。
だが、そこから先が続くことはなかった。
「あ゛っ?」
ドンッ!!!!!!!
怒りの感情のみを込めたナインの声が聞こえた直後、空間が揺れた。
(ッ!?)
真横からの凄まじい衝撃に眩むテオドール。その威力は、まるで自身の存在そのものを揺らすかのような波動だった。
(これは・・・)
すぐ側から噴き上がる憤怒の波動の正体に、テオドールが気付く。
(・・・魔力ですね。しかも、スキルも何もない、ただの魔力放出ですか・・・)
白髪の青年から止まることなく溢れる波動は、ただの魔力の放出であった。
テオドールしかと目を見開き、ナイン・ウォーカーを見る。そして、以前に彼に感じた印象が全く足りなかったことを強く意識した。
放出される魔力量、溢れ出る魔力の圧力、どう見ても想像以上だ。
(まさか、これほどとは・・・)
内心で驚愕と共に、恐れすら覚える。
過去に、SSランクに近いSランクの魔物と対峙したことがある。その際も、凄まじい魔力圧を受けた。だが今回は、それと比べものにならない。
どう考えても、彼の方が圧倒的に上だった。
(・・・とんでもないですね)
心の中で、ボソリと呟く。
視界の端で、周囲の一般人が次々と倒れていくのが見えた。
無理もない。隣にいるとはいえ、Aランクの自分が呻き声を上げてしまうほどの圧力なのだ。レベルが高くない一般人が耐え切れるようなものでは無い。
これは非常にマズイ状況だ。
理由があるとは言え、町のど真ん中で威圧効果のある魔力放出。結果、周囲の一般人の大半が気絶。ほぼテロだ。
このままでは警備隊が集まってくる。そう思ったテオドールは、未だ怒りを激らせるナインへ声をかけようとした。
だが遅かった。
ナインの右手がゆっくりと持ち上がる。そしてそれと同時に、彼の周囲に空間から滲み出るようにして十数本もの魔力剣が現れた。
(ヤバイ!!)
「待っ」
キュキュキュキュン!!!
テオドールの静止の声は、即座に撃ち出された魔力剣の音で掻き消された。
Side グレン
轟々と湧き上がる魔力に、グレンは驚きつつも半分以上呆れていた。
気持ちはわかる。自分がナインの立場でも、同じようにブチ切れたことだろう。だがそれはそれだ。今のグレンの気持ちとしては
(やり過ぎだ)
この一言に尽きた。
なにせナインの魔力の圧力によって、周囲の人間が次々と倒れていっているからだ。
バタッ、バタッ、とこうしている今も、ご婦人と青年が倒れた。あ、青年が泡吹いてるわ。
ちなみに、もちろんだが倒れていない者もいる。だがしっかりと立っているかと言うと立ってはいない。どう見ても腰を抜かしているし、体と顎がガクガクと震えている。
(それにしても・・・、凄えな)
噴き上がる魔力を見たグレンの心に、素直な感想が浮かぶ。
3200万。ナインの魔力量については、何度か聞いていたのでよく知っている。それ故驚きはこの程度で済んだ。だがそれはそれとして、実際に見て感じると、その量の多さをより実感した。
濃く、そして重い。
ただ魔力を出しているだけだと言うのに、明確な質量を感じる。
ぶっちゃけ、重心を落として体に力を入れないとぶっ飛ばされそうなレベルだ。
グレンは視線を前方へ移す。
ナインを怒らせた者達。その元凶たるスチュアートが、ニヤケ面ではなく引き攣った表情を浮かべていた。
無理もない。踏んだ尻尾がトカゲのものだと思ったら、ドラゴンの尻尾だったようなものなのだから。いや、魔力だけ見ればドラゴンよりひどいだろう。
(ご愁傷様、だな)
グレンは、自ら藪を突いた阿呆に対し、哀れみを込めた目を向ける。そしてすぐに、隣にいる怒りの権化のような仲間に視線を戻す。とりあえず、そろそろ彼を落ち着かせなければ。
そう思い、声をかけようとしたが、少しばかり遅かった。
ナインの右手がゆっくりと上がり、そしてすぐに、彼の周囲に魔力剣が大量に現れた。
(待てナイン!そりゃマズイ!)
急いで止めようと、グレンは手を伸ばす。
「ナイン!待て!」
ナインを挟んだ反対側にいるテオドールも、マズイと思ったのかグレンに続いて声を上げていた。
キュキュキュキュン!!!
だが怒れるナインには聞こえていないのか、静止の声は届く事はなく、即座にスチュアートに向けて魔力剣が撃ち出された。
ヤベェ!!死んじまう!!
未だ固まったままのスチュアートに殺到する魔力剣を見て、グレンは盛大に焦った。
だが、剣がスチュアートに届く事はなかった。
ガガガガガガガガガッ!!!ガギンッ!!!
マントを深く被り、スチュアートから少し離れて立っていた2人組。その内の大柄な方が、かき消えるような速度で移動しスチュアートの前へ躍り出ると、いつの間にか取り出していた紫色の模様が入った両手斧で、殺到する魔力剣を叩き落とした。
「っなに!?」
全く視認出来なかった上に、全てを叩き落とした存在に、グレンは驚愕した。
どうやら、相手方にもとんでもない者がいるようだった。
うーん・・・
忙しくて書いてない時期が長かったからか
執筆速度が上がらないです。
困った。
寒いし。