218 世迷言と憤怒
お待たせしました。
投稿を再開します!
「・・・誰だ?」
不快な声を発した存在を視界におさめる。
そこにいたのは、6人ほどの集団だった。いや、マントのフードを被った2人だけは、少しだけ距離を空けて立っている。
僕は、声の主だろう4人の塊の先頭に立つ男を見る。
話しかけてきたのは、ニヤケ面を貼り付けたイケメンの男だった。なんか腹立つ顔だ。
黄色に近い黄緑色の髪をしており、瞳は、緑色だ。銀色に光り輝く鎧を着込み、左腰には、鍔が紫色の長剣が吊るされている。
マジで誰だ?
しっかりと姿を確認しても、ナインには彼が誰なのか全くわからなかった。
どこか高貴そうなオーラを放っているため、おそらくは貴族だろう。その上これだけ目立つ見た目だ。どこかで会っていれば記憶に残るはずである。だがどれだけ思い返そうと記憶の中には存在しないので、見かけた事もない可能性が高い。
「ん?なんだ貴様、男なのか?・・・残念だ」
「は?」
貴族らしき男の言葉に、思わず声が出た。
意味がわからない。男だからなんだと言うのだろうか。
「・・・どういう意味ですか?と言うかその前に、貴方は誰ですか?」
まずは名乗れよ。
意味を聞き返しつつ、男を誰何する。
僕の言葉遣いが気に障ったのか、男は一瞬だけ眉を顰める。だがすぐに余裕そうな表情へと戻すと、大仰な動きで手を胸に当て、高らかと名乗り始めた。
「僕の名は、スチュアート・フォン・ウェルテクス。緑風皇国フラガラッハが誇る、ウェルテクス公爵家の三男だ」
「なっ!?」
スチュアートと名乗った男の言葉に、隣のテオドールが驚愕の声を上げた。正直、表には出さなかったがナインも驚いていた。他の皆も、それぞれ表情を変え、驚愕の反応を示している。
フラガラッハ王国。その国の名前は、以前に聖剣について聞いた時にグレンが口にしていた。
確か、王族が風の聖剣を所有する国家だったはずだ。国名であるフラガラッハが、風の聖剣の名称だったと記憶している。
いきなりの内容にナインは、驚きながらも内心で首を傾げる。
(公爵家だと?何でそんな奴がこんなとこにいる?)
三男だと名乗っていたが、公爵家の一員だ。以前に話のタネでグレンが話していたが、公爵家というのは、貴族という立場よりも準王族という立場の方が強いらしい。
そう、準とはいえ王族なのだ。
目の前にいるこの腹立つ顔の男の中には、王族の血が流れている。
マジで、何でこんなとこにいるんだ?冒険者なのか?あんな派手な格好で?ていうか何で声かけてきたんだ?
よくわからん状況に、ナインの頭が混乱しそうになる。
「何故ウェルテクスの方がこんなところにいるのですか?」
隣に立つテオドールが、僕と同じ疑問を口にした。
「何、救世の旅の途中さ」
スチュアートと名乗った男は、大仰にバッ!と手を広げる。いちいち動きが腹立つ男だ。普通に喋れないのかこいつは。
「救世の旅・・・?ですか?どういう意味なのでしょうか?」
再度テオドールが質問する。するとスチュアートは、広げた手を下げるとニヤケ顔を更にニヤリとさせ、腰に吊るされた剣の柄をコンッと叩いた。
「それは、私が聖剣の勇者だからさ」
「「「「「はっ!?」」」」」
その言葉に、僕達とテオドール達全員が驚愕する。
こいつが、聖剣の勇者、だと?嘘だろ?
言っている内容が信じられない。いやだが待て。
ありえない。そう思うと同時に、一ヶ月程前に耳にした会話を思い出す。
前にカルヴァースの町中で話してるのを聞いたぞ。えっと確か、ノースト南のアクエリアスに聖剣の勇者様がやってきたとかなんとか。あ、あと、風の、国の・・・。
そこまで思い出したナインの脳裏に、先程のスチュアートの名乗りがこだまする。
『緑風皇国フラガラッハが誇る、ウェルテクス公爵家の三男だ』
あれは、こいつの事だったのか!!
数メートル先に立つ軽薄そうな男。この男こそが噂になってた聖剣の勇者だった。
ナインが記憶を思い返している隙に、前に出ていたグレンが勇者スチュアートへと疑問を投げかける。
「一つよろしいでしょうか?」
「ふむ?なにかな?」
「貴国が所持されているフラガラッハ、風の聖剣は形は変われど色は緑です。ですが、ウェルテクス様がお持ちになられている剣は紫。それは、雷の聖剣でしょうか?」
そう口にしながら、グレンの視線がスチュアートの腰に吊り下げられた剣に向く。
グレンの疑問は勇者云々ではなく、聖剣自体にあるらしい。
言われてみれば確かにそうだ。風の聖剣国家、その公爵家の者が、風ではなく雷の聖剣の勇者というのはどうにも変な感じだ。
「・・・ああ、それか」
スチュアートは顎に手をやると、コクリと一つ頷き、呟く。
「フラガラッハは国の象徴であり、強さの証だからね。流石にいくら公爵家といえど、国外に持ち出す事など出来ないのだよ」
まるで子供に諭すかのような言い方で、僕達へ語り出す。だが言い方は腹立つが、その内容には納得した。確かに、国の象徴である聖剣をおいそれと持ち出すのは難しい、いや無理だ。盗まれたり奪われたりする可能性がある上に、万が一所持者が死ぬような事があれば、高い確率で聖剣が消失してしまう。どう考えてもリスクの方が高すぎる。
「この雷の聖剣、グングニルは、とあるダンジョンで私が個人的に手に入れた物だ。見つけた時は何の変哲も無い鉄の槍だったが、手に取った瞬間に確信したよ。これは、聖剣だとね。その後すぐに形と色が変わり、今の姿になった。ああ、勇者になったのはそれから少ししてだよ。案外簡単なものだったさ」
スチュアートの語りは止まらず、そのまま自身の持つ雷の聖剣についても話しだした。
その薄っぺらい口から、聞いてもいない内容がつらつらと語られ、ナイン達は若干のイラつきを覚える。どうやら高位貴族らしく、自尊心が山のように高いらしい。
その後もスチュアートは、風車の如くくるくると回る口で聞いてもいない事を話し続ける。
ダンジョンは1人で挑戦しただの、Aランクし魔物との一騎打ちに勝利しただの、冒険者には登録してないが、最低でもAランク以上の強さがあるだの、この3人は自分の従者だの、離れた2人は同行者だの、まあ色々だ。
そうしてとにかく喋りまくったスチュアートは、ある程度満足したのだろう。軽く一息吐くと、当初の目的を思い出したのだろう。
「私のことはこれくらいでいいだろう。それよりも、君たちに声をかけたのは用があったからだ」
そう言うなり彼は、ニヤケ面をそのままにナインの隣に立つメイへと顔を向けた。
ナイン達は揃って疑問符を浮かべる。するとその直後、スチュアートは気軽な口調でとんでもないことを口にした。
「君達と一緒にいる、その白髪の少女。その娘を私によこしなさい。もちろん金は払おう。10万程でいいかな?」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「あ゛っ?」
ナインの口から怒りの言葉が漏れる。そして全身からは、憤怒が波動となって噴き出した。
まずは謝罪を。
活動報告にて、最低2週間と書いてましたが
2ヶ月近くになってしまい、申し訳ありませんでした。
今日から少しずつですが投稿を再開していきたいと思います。
とは言え、まだ完全に落ち着いたわけではないので
急なお休みをいただく時があるかもしれないです。
すいません。
先にも書きましたが、少しずつ書いていきたいと思います。
それではまた次回に。
星街海音