216 宿からギルドへ
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商会を後にしたナインとテオドール達は、シアントルの町をゆっくりと歩いていた。
「部屋はどうでしたか?」
何故か僕の隣を歩くテオドールから、紹介してもらった宿について聞かれた。リーダーはグレンなのだが、どうして僕?
「よかったです。広いし綺麗でした」
「それはよかった。良い宿なのは知ってますが、好みがありますからね。少し不安でした」
そう言ってホッとした様子を見せるテオドール。おそらく表情もそんな感じなのだろが、ドクロ面のせいで全くわからない。
紹介してもらった宿は、今までで1番良い宿だった。ああ、伯爵邸と船は別だぞ。あれは宿じゃないし。
豪華な感じではなく、シンプルだが高級感のあるような部屋だった。寝室が3つに、お風呂まであった。
「料金も問題ありませんでしたか?」
「大丈夫です。まだ余裕があるので」
料金についても問題は無かった。まあちょっと高かったけど。
宿泊料は、1泊1部屋夕食付きで8万トリアと、中々な金額だった。だが僕らは4人なので、1人頭2万と考えればそこまででは無いだろう。何せ伯爵から1人につき100万ももらっているからな。全然余裕だ。
部屋は綺麗だったし、料金も問題なかった。なのでこれらに関しては、そこまで驚く事はなかった。だがそれとは別に、宿について驚くことがあった。
「それにしても、まさか紹介制の宿とは思いませんでした。よかったんですか?」
テオドールから紹介してもらった宿は、何と一見さんお断りの宿だった。というか宿宿と言っているが、ぶっちゃけホテルだ。しかも貴族とかも使う高級な。
僕は、本当に紹介してもらってよかったのかと改めて確認する。もう今更なのだが、こういうのは後になってから徐々に不安になるのだ。
「大丈夫ですよ。一応好き勝手に紹介してはいけないと言われてますが、良さそうな方がいれば紹介していいとも言われてますので」
「そうなんですね。・・・備品とか壊したりしないよう気を付けますね」
「ははは。そうですね、それはお願いします」
僕の言葉にテオドールが笑って返す。
いやマジで。僕達は大丈夫なんだけど、ルーチェがちょっと不安だ。壁とか傷つけたり、物を倒したりしそう。
頭の上で町を眺めるルーチェへと手を伸ばし、顔の前へと持ってくる。
脇の下を両手で持っているからか、白い体がでろーんと下に伸びている。
「んにゃ?」
目と目を合わせると、ルーチェは小首を傾げて小さく鳴いた。
「いいかルーチェ。部屋では大人しくしろよ」
「にゃん」
前脚をこちらへ向けてピンッと伸ばすルーチェは、僕の言葉にこくりと頷く。人語がわかるのは本当に助かるな。
「物が載っているところに乗るなよ?それと、爪も出しちゃダメだ。ああ、わかってると思うが壁で爪研ぎなんてもっての外だ」
「にゃん」
キリッとした表情を浮かべたルーチェが、先程よりもしっかりと頷く。
メイ達や骸の集の面々が、僕達の様子に微笑ましい顔を向けているが、それどころではない為ナインとルーチェは気付かない。
「爪研ぎするならいつもの板を使えよ?」
「にゃん」
「もし約束を破って何か壊したり傷付けたりしたら・・・」
「にゃ、にゃん?」
ググッとルーチェに顔を近づける。
「ご飯とおやつ抜きだ」
「んにゃ!?」
僕が発した罰の内容に、ルーチェは悲痛な声を上げた。
「だが安心しろ。やらかした時に罰を受けるのはお前だけじゃない。もしグレンが物を壊したら、グレンもご飯と酒は抜きだ」
「何で俺を例に出すんだよ。つか壊さねぇよ」
いきなり例に出され、笑って見ていたグレンが仏頂面で文句を言う。
ルーチェにだけ罰がある訳ではない。もちろん僕達も対象である。やらかしたら相応の罰があるのは普通だ。
「にゃん!」
わかった!とでも言っていそうな声色でルーチェが返事をする。
その声に僕は、うんうんと頷き、そっと頭の上へとルーチェを戻した。
「マジで頼むな。やらかしたらテオドールさんにも迷惑かかっちゃうからさ」
「にゃん」
頭の上から了承の鳴き声が返ってきた。これで大丈夫だろう。
僕は隣を歩くテオドールへと視線を向ける。
「すいません、お待たせしました」
「いえ、大丈夫ですよ。中々に面白い光景でした」
「そうですか?」
「ええ。人と猫が真面目な表情で話しているのは、かなり可愛らしい様子に見えましたね」
ホワホワとした雰囲気を放ちながら、テオドールが答える。
そうなのだろうか?記憶が無いせいではないと思うが、今一その辺の感覚がわからない。
一応、これは周りから見たらおかしい行動だよなぁ、というのはある程度だがわかる。だがある程度だ。その為、たまにだが変な行動をしてしまう事もある。まあ物凄くおかしい行動ではないので、気付かれる事はないのだが。
そんな変だったのか?と思い、周囲へと顔を向ける。
「・・・」
仏頂面のグレン以外、皆どこか微笑ましい者を見るような顔をしていた。
どうやら変わった行動だったようだ。でもルーチェは精霊獣だからなぁ・・・。猫じゃないんだよ。会話は出来ないけど言葉は通じるし、おかしくないと思うんだが・・・。
周囲の様子を見た僕が1人で考え込んでいると、僕の考えてることがわかったのか、テオドールが答えた。
「精霊獣だとわかってても、この大きさだと白い子猫にしか見えませんからね」
「ああ、なるほど」
わかってても、真面目に子猫と話す青年にしか見えないと言うことか。
何かそう見えると気付いてしまうと、途端に恥ずかしくなってくるな。
「どう見えてたのかはわかりました。さて、先にギルドでしたね。行きましょう」
恥ずかしさを隠すように、早口でそう捲し立てる。
「はい、そうですね。行きましょうか」
ぐんぐんと進み出した僕の様子に触れることなく、テオドールが答えた。くっ、大人だな。
それはそれとして。外では、ルーチェと話さない方がいいのだろうか?
ふと、そう考えた。だがすぐにその考えをやめた。
今更だな。それに、ルーチェは仲間で家族だ。仲間や家族と人目の無いところでしか話さないなんて、そんなのおかしいし寂しい。
今まで通りでいいや。
多少変な目で見られようと、これが僕だ。今更変えるのは違うし、変えられない。
「ルーチェ。今日は一緒に寝ような」
頭の上で尻尾を振る白猫に、いつも通り話しかける。
「にゃーん!」
僕の言葉に、ルーチェは嬉しそう声を上げた。
うん。これがいいね。
早まった歩みを緩め、皆が追いつくのを待つ。
さて、さっきも言ったが先にギルドだ。さっさと依頼の報告を終わらせて、ご飯を食べに行こう。
追いついてきた皆と共に、僕達はギルドへと足を進めていった。
また明後日。