210 どうして?
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Side テオドール
クリアマリンの町を出発して2時間。私達冒険者の護衛とモッサリヤン商会の商団は、街道を順調に進んでいた。
先頭を歩く私は、後ろを振り返り様子を伺う。
馬車の左右を守る冒険者達が、適度な緊張感で警戒しているのが見えた。
「うん。大丈夫そうですね」
特に問題は無さそうな様子に、内心でホッと胸を撫で下ろす。
「なんだテオ?緊張してたのか?」
パーティーメンバーであり、前衛剣士を担当するリィトが茶化すような声色で声をかけてきた。バレないようにしていたのだが、どうやら仲間には隠せないようだ。
まぁ彼とはそこそこ長い付き合いですからね。気付かれても仕方ないでしょう。
私は、肩をすくめながら答える。
「パーティーリーダーは慣れましたが、こればっかりは慣れる気がしませんね」
パーティーのリーダーではなく、全体のリーダーなど、慣れることがあるのだろうか?
「テオさんなら大丈夫ですヨ。それに、言うことを聞かないなラ殴ってしまえばいいんデス」
魔法使いの女性であるエルンが、綺麗な笑顔で物騒な事を宣った。
彼女は、純魔法使いのような見た目なのだが、何故か格闘が得意で接近戦もできるという特徴がある。そのためか綺麗な顔立ちの割に考え方が若干の脳筋だったりする。
そういう事を言うから貴女、陰で残念美女と呼ばれるんですよ・・・。
本人はそう呼ばれている事を知らないため、絶対に口には出さない。
「エルン、またそんなこと言って・・・」
「何故すぐに殴るが出てくるんですか?」
斥候のスラーンとヒーラーのミネアが呆れた表情を浮かべる。
エルンが過激な発言をし、スラーンとミネアが窘める。この流れもまた、見慣れたいつも通りの光景だ。
そうして仲間達と雑談を交えながら、何事も無くゆっくりと街道を進む。
「そういやさ、なんであのCランク、えーっと自由なる庭園?だったか?あのパーティーがあそこなんだ?」
すると唐突にリィトが、とあるパーティーの配置について、その理由を聞いてきた。
まぁ疑問に思うのもわかります。なにせ、彼らのパーティーランクは、Cランクパーティーの中でも下位ですから。それに人数も4人と一番少なく、見た目も若い。
なのに何故商会長の乗る馬車の横なのか。理由は、実に単純です。
「強いからですね」
前を向いたまま私は、断言するようにリィトへ答えた。
一番の理由としては、これだろう。
「あー、そんな感じしたけど、やっぱそうなのか」
リィトが納得したとばかりに頷く。強いのではないかと、彼も感じていたようだ。
前方の警戒をしつつ、私は自由なる庭園の者達について、見て感じた印象を語る。
「まず装備ですね。防具は、ランク相応の物でしたが武器は、一級品どころではない。全員が魔剣、魔杖を装備しています」
「見た見た!あれヤバいよな!」
リィトの反応に、見えてはいないが他の仲間達も同意するように頷くのがわかった。
「ええ、パーティー全員があんな武器を持っているのはAランクくらいなので、ヤバいのは間違いないですね。ましてや、全員が自分に合った物を持っています。戦闘でも当たり前のように使いこなしてくるでしょう」
そう。全員が持つなど、普通はAランクパーティーくらいだ。いや、Aランクでも持ってない人はいるので、彼らはかなりの例外と言える。
お金を沢山持っている、高位貴族の子弟かと言えば、そうではないだろう。リーダーのグレンという男は、貴族出身の感じがするが、高位貴族ではないだろう。
では高位貴族がパトロンになり、お金にものを言わせて手に入れたのかと言われれば、これも違う気がする。これでも沢山の人を見てきた。そうして培われた感覚が、そういうタイプの者達ではないと明確に告げていた。
ならばどうやって手に入れたのか?
「おそらく、大きな依頼の報酬などで手に入れたのでしょう。ダンジョンで全員分手に入れるというのは、確率で見ても有り得ませんしね」
それ以前に、彼らの冒険者ランクでは、あの強さの武器が手に入る高ランクダンジョンに入れませんしね。
武器の入手方について私が語り終えると、リィトとエルンが羨ましそうな声を上げた。
「なるほどなぁ。いいなぁ。俺のも魔剣だけど、Bランクなんだよなぁ・・・」
「私の杖もデス。ルチルさんのが羨ましいデス」
「ははははっ」
子供のような2人の言葉に、思わず笑ってしまった。
確かにリィトとエルンの武器は、魔剣、魔杖だがBランクだ。だが強化さえ出来ればAランクになる。まぁその強化が大変なんですが。それでも十分に強い武器だ。たぶんだが、隣の芝生が一時的に青く見えただけだろう。
「休憩の時に見せてもらおうかな。エルンはどうする?」
「見まス!」
どんな武器なのか知りたい2人は、休憩時に見せて欲しいとお願いしに行くようだ。あわよくば鑑定もさせてもらおうとしてるのかもしれない。ふむ、私も気になるな。
自分も見たいところだが休憩時は、商会側と打ち合わせ等があるため、容易にウロウロする事は出来ない。あとでリィト達から教えてもらうことにする。
「行くのは構いませんが、迷惑をかけてはいけませんよ?」
一応だが釘は刺しておく。問題を起こすような2人ではないが、それでも休憩している人のところに行くのだ。休憩の邪魔になるような事があってはいけない。ましてやまだ初日だ。
2人は「わかってるっすよ」「大丈夫デス」と返事をすると、スラーンとミネアも交えてどんな武器なのかの予想を話し始めた。
と思ったら何故か早々に話がズレだした。
「あのグレンってリーダー、強そうだような。町に着いたら模擬戦とかしてくれねぇかな」
「ルチルも強くなってタ。魔法使ってみてほしイ」
「僕は、あの白い髪の女の子、メイさんかな。立ち姿に一番隙が無い気がしたよ」
「精霊獣のルーチェちゃんが可愛い・・・。撫でさせてもらえないかなぁ・・・」
武器の話から誰が強いのかに変わっていた。ミネアだけは、強さではなく一緒にいた光の精霊獣の可愛さについて語っていた。
精霊獣。あれがいるのもまた驚きだ。私は森の中で二度ほど見た事があるが、契約している個体を見たのは初めてだった。
白髪の青年の肩に乗っていたので、契約者はおそらく彼なのだろう。確か、ナインという名前でしたね。
商会裏で会った際に、リーダーであるグレンから紹介されていたので、名前はすぐに出た。
相当に人を選ぶと言われる精霊、精霊獣と契約する青年。彼は・・・
「テオは、誰が強いと思う?」
そうして少しだけ思考を深くしようとしたテオドールに、リィトが話しかけた。
誰が強いのか、その質問に対し私は、軽く後ろを振り向くと先ほど思考のまま答えた。
「白髪の、ナインという青年ですね」
仲間達の中で、唯一名前の出なかった男の名を口にする。
「え?マジで?」
「はい」
私の答えに、リィトが目を丸くしていた。予想外だったのだろう。まぁわからないでもありません。
「え?いや、だって、魔剣は持ってるけど技術もレベルも一番低そうだろ?」
「リィト、そういう事を言ってはいけませんよ。失礼です」
「わ、悪い・・・」
私の注意に、リィトが申し訳なそうな表情をする。とはいえリィトの言っている事は、間違いでは無い。
リィトの言う通り、ナインという青年は、あのパーティーの中で一番レベルも技術も低いだろう。
精霊獣と契約し、魔剣を所持していようとレベルと技術の低さは、強さに大きな影響を及ぼす。
ならば何故、テオドールは一番強い者にナインを上げたのか。
「テオ、なんでそう思ったノ?」
エルンも疑問に思ったのだろう。首を傾げながら私に聞いてきた。
何故なのか。
ナインという青年を見た時、見える範囲では、強さはそうでも無かった。レベルはCランク相当だとは思ったが、技術は良くてDランク上位ほどだったからだ。
だが、見えない範囲は違った。
私の直感が囁いていた。
あれと敵対するな。と。
同じような感覚は、過去に数度だが経験している。ただし、その全ては、SかSSランク以上の相手と対峙した時だったが。
ナインという青年からは、あれらと同等か、それ以上の何かを感じた。
理屈では無い。明確では無い。形容し難い何かが。
だからこそ、テオドールは、一番強い者に彼を選んだ。
敵対すれば、己ですらどうなるかわからないから。
(おっと、理由を聞かれていましたね)
知らぬ間に思考の海に潜っていた意識が、浮上する。
固唾を飲むような顔で、リィト達が私の答えを待っていた。彼らの表情に、若干の困惑の色も見える。
時間にして数秒だったが、私が答えなかったことで、どうしたのかと不安になってしまったようだった。
さてどう答えたものか、と頭を悩ませる。
自身が感じた事をはっきりと伝えてもいいのだが、仲間がナインに対し、恐れや妙な感情を持っても困る。まだまだ護衛は続くのだ。ギクシャクするのは相手に失礼だ。
とはいえ、仲間達ならその辺は大丈夫だとは思う。だがあくまでも思うだ。実際どうなるか、それはわからない。わかるリスクは、減らすべきなのだ。
全ては語らず、曖昧にしよう。そう決めた私は、シンプルな言葉を探した。
「・・・一番、得体が知れないから、でしょうか」
呟くように私は答えた。
すると後ろにいる仲間達から、若干引くような気配が漂ってきた。
どうやら私は、言葉を間違えたようだ。
ああ、ナインさん。すみません。違うんです。
冷や汗を流しながら、テオドールは心の中で謝罪する。
一番失礼なのは、自分だったようだ。
そういえば
10月2日にケンタッキーの原神コラボパックを買いました!!
クリアファイルはリネットです!
かわいいですね。
限定コラボパックもかわいいです。
飾っておきましょう。
また明後日。