207 モッサリヤン商会長
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「お待たせしました。こちらは、今回の護衛依頼の責任者兼護衛対象のモッサリヤン商会長です」
え?
男の口にした言葉に、僕達は表情には出さないようにしつつ驚いた。
「・・・商会長自らが移動されるのですか?」
グレンが何とかそれだけを口にする。
僕も同じことを思った。
この恰幅の良く頭髪が薄い男性は、この国でも5本の指に入るほどの大手商会の商会長だ。町から町への移動など、普通ならば私兵や商会と契約している冒険者なんかを護衛として使う。
だと言うのに、規模が大きいとはいえどちらかと言えば普通の護衛である依頼の、責任者兼護衛対象として現れた。驚いても仕方ないと言えよう。
「私どもの商会は、昔から護衛には冒険者を使うようにと決められていますからね。私も例外では無いのですよ」
その疑問はごもっともと思ったのだろう、商会長は、ぷよぷよとお腹を揺らしながら答えてくれた。
商会の方針とかルールで決められているのか。しかも商会長も含められて。何でだろう?
実際にはやらないよう、内心で首を傾げる。
答えた商会長は、まだちゃんと名乗っていなかった事に気付き、姿勢を正した。
「おっと、失礼しました。改めて自己紹介を。モッサリヤン商会の商会長を務めております。メッサ・モッサリヤンです」
よろしくお願いします。と続いたが、頭に入ってこなかった。
メッサ・モッサリヤン?
めっさもっさりやん?
めっちゃもっさり?
え?偽名?ていうか・・・
(・・・もっさりじゃないやん)
吸い込まれるように、視線が商会長の頭部へ向く。
側頭部と後頭部には毛があるが、頭頂部と前頭部はツルツルだ。どう見てももっさりでは無い。
『メッサ・ウッスラヤンの方がしっくりきそう』
(んぐぅ!!)
思念で届いたどストレートなメイの発言に、僕は思わず吹き出しそうになった。何とか耐えきり、メイに文句を言う。
(おいやめろ。流石に吹き出したら印象悪くなるどころじゃないだろ)
場合によっては依頼者から拒否される可能性もある。そうなったら依頼はキャンセルでは無く失敗だ。ギルドからの印象も悪くなる。
気付かれたかな?と思い、商会長の様子を伺うと、僕らの思念会話を他所に、グレンと話を続けていた。
グレンがパーティーメンバーを1人ずつ紹介する際、軽くお辞儀をする。
『えー、でも最初に言ったのナインじゃん。私のせいだけにしないでよ』
(ゔっ!いや、そこまでストレートには言って)
『ストレートだったよ』
はい。もっさりじゃないやんって言いましたね。ごめん。
『ルチルは・・・、普通な感じだね。やっぱり見た目とか名前とか知ってたのかな?』
メイの言葉に、僕はルチルへと視線を向ける。いつも通りの表情で立つ彼女から、僕らのような動揺は見えなかった。
(知ってたんなら教えてほしかったな)
『まさか商会長自らが出てくるとは、思わなかったんじゃない?」
(それもそうか)
普通は出てこないもんな。モッサリヤン商会が変わっているだけなのだ。
そうしている内に挨拶が終わり、今回の護衛についての話に移る。と言っても簡単に説明だけだ。商会長自らがするのは、ちょっと違和感があるが、フットワークの軽い人なのだろう。
「依頼を受けていただいた時にもご説明されたと思いますが、目的地はシアントルの町です。予定日数は7日。馬車は6台。護衛対象は私を含めて18人です」
「はい、伺っております」
説明にグレンが返答する。
この辺の内容は、依頼を受けた時にギルドで説明されていたので問題無い。
「今回の護衛依頼では、冒険者の方々は36人、全7パーティーです。1番上はAランクパーティーでして、そのパーティーには冒険者全体のリーダーをしていただく予定です。護衛時の配置などは、リーダーの指示に従って下さい」
「了承しました」
頷くグレンに続き、後ろに立つ僕達も頷いて了解したことを示す。
どうやら今回の護衛にはAランクパーティーがいるらしい。しかも商会長自らがリーダーを任せている。かなり信用されているのだろう。となれば実力も人柄も問題の無いパーティーであろう。
Aランクパーティーって事は、パーティーメンバーの何人かはAランクか。どんな感じなんだろう?見た目からして強そうなのかな?
少しだけワクワクしながらまだ見ぬAランクを想像していると、僕達も通った商会裏手に入る道に、数名の気配を感じた。
バッとそちらへ顔を向けると、メイやグレン達も気付いていたらしく、同じように顔を向けた。
僕達の様子に気付いたモッサリヤン商会長も視線を向ける。
商会裏手に入ってきたのは、何とも目立つ姿の5人組だった。
「ん?ああ、来られたみたいですね。あの方々が、今回のリーダーを務めますAランクパーティー、骸の集の皆様です」
彼らが誰なのか、商会長自らが教えてくれた。
骸の集。なるほど、名前通りだ。と、納得した。何故かと言えば、こちらへ向かって歩いてくる5人全員の装備にドクロをあしらった物があるからだ。
魔法使いっぽい人の杖には、禍々しく見えるドクロが付いてるし、剣士っぽい人の鎧の肩部分がドクロになっている。他の人も服にドクロマークが付いていて、中々に派手だ。あと全体的に黒い。
まぁその中でも異彩を放ってるのが先頭を歩く背の高い男性?だろう。何せ、黒地に紫色の模様が入った一際禍々しく見えるドクロ面を着けているからだ。
「・・・あの人って、もしかして」
思わず声に出して呟いてしまった。
見覚えは無い。だが話には聞いた。しかも最近。
僕の声が聞こえたらしく、商会長が反応した。
「おや、ご存知でしたか。あの先頭の方は、骸面の二つ名を持つAランク冒険者、テオドール・レイカーさんです」
商会長の言葉に僕達は、驚くと同時に深く納得した。
やっぱりそうか。
二つ名持ちの冒険者には、いつか会えたらいいなとは思っていた。だがまさかこんなに早くとは思わなかった。
僕は、こちらへ向かってくる骸面氏をじっくりと観察する。
僕自身は、そこまで技術が高いわけでは無いし、レベルも高くない。だがそれなりに強い敵と戦ってきたからだろうか、何となくだがすぐにわかった。
うわぁ、あの人めっちゃ強いわ。
また明後日。