203 二つ名持ち達
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「ノースト大陸で有名な方だと、全破壊、嵐刃、煌閃姫、驟雨、骸面、二撃死、防護否定ですね」
一気に7人出てきた。それ全部Aランク?
「結構多いね」
そんなにいるのか。
「そうですね。と言ってもアクエリアスだけではなく、ノースト大陸の二つ名持ちですので多いかどうかは、ちょっとわからないです。このくらいじゃないんですか?」
「ああ、そっか」
この国だけじゃなくて、大陸でだもんな。なら、少ない・・・のか?わからん。
その辺どうなのか、メイとグレンに聞いてみた。
「普通じゃないかな?」
「ああ、大概そんくらいだ」
普通らしい。
ふむ、最初は多いと思ったが、よく考えたら少なく感じてきたな。あ、今のはAランクの二つ名持ちか。別にAランク全員が二つ名を持ってるわけでも無いよな。それにBランクにもいるらしいし。
まぁ多い少ないは、よくわかんないから別にいいか。
「そうなんだ。それで?その二つ名持ちの人は、どんな人なんだ?」
全破壊だ、骸面だ、二撃死だと物騒な名前だけど。
僕の質問にルチルは、「私もそこまで詳しくありませんが」と前置きをし、わかる範囲で教えてくれた。
「全破壊と呼ばれている人は、アクエリアスをメインに活動する人間の男性ですね。普通より大きいガントレットを着けて、殴って戦う人です。二つ名の由来は、攻撃の威力が高すぎて、魔物がぐちゃぐちゃになってしまうからだったはずです」
二つ名が物騒だなぁと思っていたら、本当に物騒だった。
「え?ぐちゃぐちゃ?」
「はい。魔物の体がほとんど全損の状態になって、素材が全く取れないほどだそうです」
「えー、怖っ・・・」
パンチが大砲か何かなのかな?
とんでもない人がいるものだと思っていると、他の二つ名持ちについての説明が続く。
「嵐刃さんは、長剣の二刀流と旋風魔法を使う男性です。剣と風の刃を合わせた戦闘スタイルが基本ですね。剣速が凄い早いのが有名です」
なるほど、戦闘スタイルが由来か。嵐刃ね。嵐みたいに斬撃がいっぱいなんだろうな。
「あ、嵐刃さんは狼獣人さんですね」
「ほぉー、獣人か。獣人の人とは話した事ないな」
そういえば、見たことはあっても話した事は無いな。ぜひ話してみたいな。
「煌閃姫さんは、閃光魔法を使う女性の魔法使いです。一応レイピアを持ってますが、ほぼ魔法ですね。とにかく光線を撃ちまくる人です。光線マニアとか言われてますね」
「またクセの強い人だな・・・。光線ばっかり撃つから煌閃姫なのか」
「あ、いえ、それもありますが一番の理由は、光線の撃ち過ぎで凄い光ってるからです」
理由を聞いて体がガクッとしかけた。
なるほど光線マニアか。クセが強いな。
「驟雨さんは、弓使いのエルフの女性さんです。水と風、雷魔法を使いながら雨のような矢で攻撃するのが得意な方ですね」
「エルフかぁ。エルフも遠目からしか見た事ないなぁ」
「綺麗な方でしたよ」
「そうなの?はっ!?」
隣から物凄い圧がきた。
圧の発生源へ、そっと視線を向ける。
「そうなのって、なに?」
無表情のメイがこちらを見ていた。声に抑揚が一切無い。目のハイライトが消えている。
「・・・た、ただの感想だ」
声が裏返りそうになったが、なんとか抑えた。
「そう?ならいいけど」
メイがにっこりと音が聞こえそうな笑顔を浮かべる。
言外に「浮気か?」と釘を刺されたような気がした。しませんよ、死にたくないから。死なないけど。
「・・・あの?続きいいですか?」
「ああ、ごめん。いいよ」
説明の途中だった。
視線をメイから無理矢理外し、ルチルに戻した。
「・・・こほん。では続けますね。次は、骸面さんですね。この方は常にドクロの面を着けた男性です。高ランク冒険者の中では、かなりの常識人ですね。見た目以外は」
二つ名通りの見た目らしい。だが常識人?嘘だろ?
「本当ですよ。王都で何度かお会いした事がありますが、凄い礼儀正しかったです。見た目は怖いですけどね」
本当だった。ある意味クセが強いな。
「武器は?」
「ガントレットと一体化したハンドクローですね。あの爪みたいな武器です」
「ああ、武器屋で見た事あるな」
ハンドクローは、手の甲に短剣くらいのサイズの刃が付いた武器だったはずだ。かなり人を選ぶ武器だろう。てことは、骸面って人は近接系か。
「二撃死さんは、竜人族の男性です。長槍使いですね。同一箇所を連続で突いて防御を貫通する、という戦い方が特徴です」
「ん?どういう事?」
狼獣人やエルフの時と同様に、竜人かぁ。と思っていると、よくわからない戦闘スタイルが聞こえた。同一箇所を連続?防御貫通?
「魔槍のアビリティだそうです。一度目に突いた箇所をほとんど誤差無しにもう一度突くと、二撃目の時は相手の防御力が極端に下がるんだそうです」
「ああ、そういうことか」
ルチルの説明を聞いて何とか理解した。
一撃目は印付けで、二撃目で防御ダウン効果の発動。という感じなのだろう。言ってみれば簡単な効果だ。発動方法がかなり大変だが。
ほとんど誤差無しはキツイな。魔物だって動くんだ。どう考えても簡単じゃない。かなりの技量が求められる。
「なるほど。それ故の二撃死か」
二撃目で確実に倒す。という意味の二つ名というわけだ。
「最後は防護否定さんですね。この方は、人間の男性さんです。私は、この方が一番クセが強いと思ってます」
前を歩くルチルが、何やら困ったような笑みを浮かべてこちらを振り向いた。
他も十分クセが強いと思うんだけどなぁ。
「どんな人なんだ?」
「装備を着けない人ですね。戦闘は素手による格闘で、常に上半身裸です。アクセサリーも付けてないですね。とにかく声が大きくて、ムキムキで熱苦しい人です」
なんだそれ?つか後半はなに?
「素の肉体のみってこと?」
「そうです」
なるほど。武器防具にアクセサリーも無しな上に、上半身裸。声がデカくてムキムキ。説明だけで熱苦しいな。
「ちょっと、お会いしたくないなぁ・・・」
勝手な想像だが、なんか汗まみれで抱きついてきそうな気がした。
「私もです。悪い人ではないんですけどね・・・。絡まれると長いので・・・」
ルチルの困ったような笑みが、どんよりしたものに変わった。
ああ、なるほど。絡まれたんだな。
「王都を拠点にしてる方なので、行った時は気をつけましょうね」
「そうだな」
僕とルチルは顔を見合わせ、うんうんと頷き合う。
もし絡まれたら・・・。グレンを生贄にしよう。
「・・・俺を生贄にする気だな?」
ルチルの隣で話を聞くだけだったグレンが、振り返るとジトッとした目でこちらを見る。
バカな!?何故バレた?口に出してないのに!
「・・・気のせいだろ?」
真剣な表情を貼り付け、グレンを見返す。あくまでも気のせいだと思ってもらわなければ。
グレンが僕の顔をじっと見つめる。
「もし絡まれたら、お前だけは逃さねえからな」
「嘘だろ?」
そこはせめてパーティー全員にしようよ。仲間だろ?
「俺を生贄にしようとしといてよく言うぜ。絶対逃さねえからな」
どうやら逃してはもらえないようだ。
ああ!どうか防護否定さんには、出会いませんように!!
また明後日。