019 登録と夕月亭
今話から一部漢数字をアラビア数字にしました。
以前の分は修正せずとりあえずそのままにします。
よろしくおねがいします。
「はい、大丈夫ですよ。では、こちらの用紙に記入をお願いします。」
そう言って受付嬢がペンと紙を1枚カウンターに置いた。
紙を置かれた時に受付嬢の胸元に付いたネームプレートが目に入る。
受付嬢はアミラというようだ。
肩ぐらいまでの茶色い髪をした、優しげな顔立ちの人だ。
僕はペンを手に取って、紙を見る。
記入事項は名前、出身地、主武器と役割だけであった。
(随分書く部分少ないな。)
こんなのでいいの?
『登録するのはね。登録後はとにかく信用と実力が重要ってことだよ。』
(なるほど。)
結局ここで何々が得意です。何々をずっとやってました。とか書いても過程と結果が重要と言うことなのだろう。
書く内容も少ないのでささっと記入する。
(名前、ナイン・ウォーカー、と。出身地はアルメガでいいか。主武器は長剣。役割は剣士。よし。)
「これでいいですか?」
書き終わった記入用紙をアミラに手渡す。
「はい。問題ないですね。それでは次はこちらに手を触れて魔力を流してください。」
用紙を受け取ったアミラはざっと内容を確認し、手元に下ろすとすぐ横に置いてあった物を指し示す。
そちらを見ると魔道具があった。
見た目は四角い台座の上に拳くらいの大きさの半透明の球体が乗った感じだ。
手を置けと言われたので球体の上に右手を置き、魔力を流す。
パアァッ!
球体の部分が一瞬だけ強めに光ると下から何かが飛び出してくる。
見た感じカードのようだ。
アミラはカードらしき物を手に取ると表と裏を確認する。
「はい。こちらも問題ないですね。最初はFランクからのスタートとなります。依頼は同ランク以下しか受けられませんのでご了承下さい。冒険者ランクは依頼の達成率や実力などで上昇します。」
と言うことは今はFランクの依頼しか受けられないということか。
「それではこちらが冒険者カードです。あとはこちらもお渡ししておきます。中には冒険者のルールや注意事項、禁止事項が書いてありますので必ず読んでくださいね。」
そう言ってアミラは先ほど魔道具から出てきたカードと薄い冊子を手渡してきた。
「ありがとうございました。」
「依頼はあちらの掲示板に張り出されておりますので、依頼を受けたい場合は受けたい依頼の紙を剥がして受付にお持ちください。」
お礼言って受け取ると依頼の場所と受け方を伝えられる。
とくに難しくなくてよかった。
「以上で登録は完了となります。何か質問はございますか?」
「大丈夫です。」
わからない事があったらその時に聞けばいいだろう。
「かしこまりました。それでは本日はご登録ありがとうございました。」
無事登録が完了した。
少しだけ緊張していたのか。
ホッとして力が抜けかける。
街を見たいと思ってたけど宿に行って少しだけ休みたい。
(これで冒険者だ。でもちょっと疲れたから宿に行こうか。)
思念でメイに言いながら冒険者ギルドから外に出る。
『依頼は見なくていいの?』
(明日の朝でいいんじゃないか?)
もはや戻る気は無いので、とりあえず明日くらいの感覚で答える。
それから宿に向けてまた大通りを進む。
確か門から四本目を左だったな。
「ここかな?」
冒険者ギルドを出て2本目。門から4本目を左に曲がり、少し進むと夕月亭と書かれた看板が表れた。
宿屋となっている建物は3階建てで、意外と大きく外観は綺麗だった。
それに冒険者ギルドからも近い。
ガーデルの紹介なら泊まれると言っていたが空いているのだろうか?
『結構ちゃんとした宿だね。空いてるのかな?』
メイも同じことを思ったらしく、少し心配そうに言う。
「入って聞いてみよう。」
夕月亭の扉を開け中に入る。
入るとすぐに受付と階段があった。
右側は食堂になっているらしく、話し声が聞こえてくる。
「いらっしゃい!泊まりですか?食事ですか?」
受付にいた少女が僕に気づき、元気良く声をかけてくる。
ここは食事だけの利用もできるようだ。
「あの、門番のガーデルさんに紹介されて来たんですが、泊まれますか?」
泊まりか聞かれたが空いているかわからないので、すぐガーデルの紹介と伝える。
「また叔父さんの紹介か・・・。」
何やら女性は文句を言うように言葉を溢した。
ん?おじさん?
「えっと・・・。ごめんなさい。」
よくわからないが文句を言っているので謝っておく。
たぶん僕に対してではないだろうけど。
「あー!違うの!怒ってるのはガーデル叔父さんに対してだから。あの人、わたしのお父さんの兄なの。」
ほう。そうなのか。
だから紹介してくれたんだな。
「そうだったんですか。・・・もしかしてこんな事が何度も、とか?」
「そうよ。叔父さんと話したならわかると思うけど、あの人、極度のお人好しだから一ヶ月に何回かあるのよ。まぁ変な人とか乱暴なな人とかは紹介してこないから、そこはいいんだけど。」
常習的にやってるようだ。
でもその結果助かっているので僕はガーデルに感謝しておく。
「そうなんですね。あの、それで泊まれますか?」
「あ、ごめんね、大丈夫よ。1泊夕食付きで3000トリアだけど叔父さんの紹介だから2000でいいわよ。何泊?」
言われてズボンのポケットに手を入れ、ガーデルに貰ったコインを取り出す。
銀色のコインには1000と表記されている。
それが5枚なので5000トリアも貰っていたようだ。
「2泊でお願いします。」
そう言ってカウンターにコインを4枚置く。
「はーい。それじゃあここに名前書いてね。」
ノートを差し出されたので、名前を書き込むと札の付いた鍵を渡された。
札には303と書かれている。
「部屋は3階の303号室だよ。夕食は18時から21時の間だから忘れないでね。忘れたら食事はないからね。あ、あと出かける時は部屋に鍵をかけて受付に預けてね。」
「わかりました。」
「わたしはリーネルよ。よろしくね。あとそんなに丁寧に話さなくていいわよ。」
それからリーネルは自己紹介をしてくれた。
親戚だからだろう。名前がガーデルに似ている。
「わかったよ。僕はナインだ。よろしく。」
言われたので言葉を崩す。
丁寧に話すのは苦手なので助かった。
「それじゃあ、一度部屋に行くよ。」