197 マジックテントの構造
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ルチルがマジックテントの入り口に手をかけ、バサっと開けて中を見せてきた。
「おー!」
「みゃ!?」
「ほう?こうなってんのか」
テント内は、とても広かった。
マジックテントを鑑定した時に何となくわかった気でいたが、実際に見ると違和感が凄い。
僕は、素直に驚きを表し、ルーチェは、テント内の光景にびっくりしていた。グレンに関しては、僕よりもマジックテントについて知っていたからか、どこか納得するような反応だ。メイは、無言でうんうんと頷いている。
パッと見、外見は1人用のテントなのだが、内部はかなり拡張されている。ちょっとしたリビングくらいある。確か、鑑定では縦横5メートルだったはずだ。天井は5メートルではなく、2メートル程だ。ちょい低く感じるが、僕の身長からしたら問題無い範囲だろう。
「中に入って大丈夫ですよ。あ、靴は脱いでくださいね。土足厳禁です」
誘い込まれるように中へと入ろうとした僕に、ルチルが注意を促した。
ナイン達は、入り口で靴を脱ぐと、テントの中へと入る。メイは、誰もいないのはまずいからと、外で見張りをするため中に入らない。
「ほほー。入るとより広く感じる」
「だな」
中に入って再度驚く。10人くらいでも寝られそうだ。
「これって、仕組みはどうなってるんだ?」
「それはですね」
「あ、簡単にお願い」
「・・・仕方ないですね、わかりました」
長くなりそうな解説を先んじて止めると、ルチルは、不承不承としながら話し始めた。
「まず、マジックテントは、建てただけでは空間拡張はされません。拡張するには、普通に建てたあとに、テント内の中央上部に吊るしてある、この箱のスイッチを入れる必要があります」
そう言って上部に吊るされている箱を指差す。
「このスイッチですね。これを押すと、箱の中の術式と魔石、それとテントに刻まれた術式が反応してテント内部が拡張されます」
ルチルの指し示す方を確認すると、箱の横には小さいレバーのようなスイッチがあった。スイッチは上を向いている。これを下に倒したら、空間拡張が解除されるのだろう。
それはそれとして、テントに術式が刻まれているとルチルは言っていた。ならば、それを見れば作り方がわかるんじゃないか?そう思った僕は、素直に聞いてみた。
「あ、無理ですね」
「どうして?」
「この刻まれている術式は、上から術式保護がされていますので、見えないんです」
そうなのか?と思い、改めてテント内を確認する。すると、確かに何も見えなかった。
(そりゃそうか。見えるなら作製方法が失伝するなんて事にはならないもんな)
自分で聞いといてなんだが、当たり前だと納得した。
ちなみに、上部から吊るされている箱も開けられないようにされている。この開けられない状態も保護術式らしく、無理矢理開けると、内部の術式が壊れるらしい。開けるには、正しい方法で術式の解除をしなければならない。だが、失伝した内容には、開け方も含まれているので開ける事は現状不可能らしい。
まぁ、メイなら知っていそうだが、それは僕が気にする事ではない。話すとしても、そのタイミングは、メイ自身で決めてもらいたいところだ。
「なるほど。ん?なら整備は出来るのか?」
術式の確認も、箱の内部も確認不可ならば、整備や耐久値回復は出来るのか、気になったので聞いてみる。
「大丈夫ですよ。魔道具作製スキルの中に、修復っていうスキルがあるんですが、これは、魔道具の耐久値や損傷をスキルレベルに応じて、ある程度修復出来るんです。なので、マジックテントを使う度にこの修復を使えば、術式の確認が出来なくても大丈夫です」
あ、もちろん魔道具作製スキルは、持ってますよ。と付け加え、損傷なんかはどうにか出来ると太鼓判を押してくれた。
修復が出来るのならば、今後も使い続ける事が出来るとホッとしていると、ルチルが真剣な表情でピッ!と人差し指を立てた。
「では、ここで注意事項です」
どうやらマジックテントの使用についての、注意をするようだ。僕とグレンとルーチェは、ふざけたら怒られると思い、黙って聞く体勢になる。
「まず、今さっき説明した上部の箱には触れないで下さい。もしマジックテント使用中にスイッチが切れた場合、中の空間拡張が解除されます。そうなると、テント内が一気に縮小して1人用テントと同じサイズになります。なので、大変な事になります。本当に大変な事です」
ルチルは、顔をグイッとこちらへ近づけながら、絶対にやるな。という思いを込めるかのように説明してきた。
「・・・大変な事って?」
どんな事だろう?
「中に物や人がいた場合、収縮した空間によって中心に押し込まれます。その後は、たぶんですがテントを突き破って外に飛び出すと思います」
本当に大変な事だった。
「ええ!?めちゃくちゃ危ないじゃん」
「はい。かなり危ないです。怪我もするでしょうし、テントも大きく破損するでしょう。ちょっとした穴や傷くらいなら私がスキルで修復出来ますが、突き破って出来たような損傷は、今の私では直せません。ですので、注意してくださいね。わかりましたか?」
ルチルは、有無を言わさぬ迫力を醸し出し、説明を終えた。
「わ、わかった」
僕達は、ぶんぶんと首を縦に振り、「箱には絶対触りません」と誓う。
2人と1匹のその様子に、ルチルがニッコリと微笑む。
注意が終わったので、ちょっと気になった部分を質問してみた。
「穴があいても、空間拡張って問題無いのか?」
「多少なら問題無く使えます。術式自体も、どこか途切れたら使えなくなる、というような描かれ方な訳ではありませんので」
なんでも、おそらくだがテントの幌に描かれている術式というのは、空間拡張の範囲を定めるものなのだとか。術式は、幌全体に描かれているが、一部が消えたり途切れたとしても、他の術式が補う形になっているので、問題無く作動するらしい。
「地面に引いた線の一部を消しても、残った線を見れば、どんな線だったのか大体わかりますよね?それと同じです」
「・・・そ、そうなのか」
正直いまいちわからなかったが、理解したていで頷いておく。
もし壊してしまったら、当分の間使えなくなってしまう。それは正直勘弁してほしい。とはいえ、大事に丁寧に使い、箱に触らなければ問題は無いだろう。
あ、そうだ、ルーチェにも注意しとこう。
足元でお座りの体勢をとるルーチェの前にかがみ込むと、顔をジッと見つめる。
「ルーチェ、テント内では爪を立てちゃダメだぞ。もしやったら、間違いなくルチルがめちゃくちゃ怒る。わかったか?」
「みゃ、みゃん」
僕の言っている意味がわかったのだろう。幼いその顔に、物凄く真剣な表情を浮かべ、しっかりと頷いた。
うむ、賢い子だ。きっと大丈夫だろう。僕も剣抜いたりしないようにしよう。手入れは・・・、外だな。
お茶の容器を落とし、割りました。
底の部分がパックリと割れ、床にドボドボと緑茶が広がってしまい、大変でした。
床を拭いてる時、なんだか凄く悲しく、虚しかったです。
ああいう時って、糞デカ溜息出ますよね。
また明後日。