195 ルーチェ頑張る
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盗賊討伐に向けてクリアマリンを出たナイン達は、街道を2時間程進み、少しだけ脇にそれたところにある森の入り口まで来ていた。
「お!いたぞ!」
「みゃー!」
木の陰から、カサカサと濃緑色の甲虫のような魔物が現れ、ナインが指差す。頭の上のルーチェも視界に捉えたらしく、気合いの入った声を上げた。ただまだ子猫なので、可愛らしい声なのはご愛嬌だ。
「ルーチェ、準備はいいか?」
「みゃん!」
ルーチェは、幼い顔を精一杯キリッとさせ、任せろ!とでも言いたげな声で答える。
寄り道して何をしようとしているかと言うと、ルーチェの初戦闘のためだった。ついでにレベル上げもだな。
ルーチェに聞いてみたところ、まだ戦闘をした事が無いらしい。今のレベルは、成長や食事によって上がったものなのだとか。
ちなみにメイの予想では、生まれてからまだ半年もいってないらしい。姿は、完全に小さい子猫だが、普通の猫と比べて肉体の成長が数倍遅いんだとか。ただその分、レベルを上げると成長が促進されて、早く大きくなるらしい。精霊獣というのは、何とも不思議だ。
「よし!それじゃあ頑張るんだぞ。危なくなったら近くにいるグレンを盾にするんだぞ」
「みゃん!」
「いや何でだよ」
後ろで見守っているグレンが抗議の声を上げるが、無視してルーチェを地面に降ろす。
一応フォローに入れるよう、全員ルーチェの後ろで待機する予定だ。僕とメイは、ルーチェの後ろで応援しつつ剣を抜いて構える。僕達の様子を微笑ましく見守っているルチルも、いつでも魔法を使えるよう杖をしっかりと構えてルーチェの左側に移動する。俺は盾じゃねぇと言いながら、グレンは右側に移動した。
「キシ、キシシ」
完全に森から出てきた甲虫が鳴き声のようなものを出す。
さてこいつはどんな魔物だろうと、ナインは鑑定を使用する。
名前はフォレストハイドビートル。Eランクで12レベルだ。属性は濃緑色なのに地属性だった。おそらくだが地魔法では無く、地属性魔力を使用する木魔法を使うのだろう。この魔法で森の中に隠れるからフォレストハイドなのかもしれない。
「フォレストハイドビートルって名前なのに、森から出ちゃうんだな」
出ちゃダメじゃないか?
「Eランクの魔物は知能が低いからね。こういうのは割とあるよ」
メイが言うには、こういうパターンは結構多いらしい。岩に擬態するタイプの魔物なのに何故か歩き回ったり、魚系の魔物なのに陸地に飛び出てきたりと、さまざまだ。
「低ランクは残念な感じなんだな。ま、ルーチェにしたら残念な方がいいか」
「そうだね。まだまだレベルも低いし戦闘経験も無いからね」
「よし!それじゃあ始めるか。ルーチェ!先制攻撃だ!」
「みゃー!」
僕からの指示を受けたルーチェは、やる気満々な声を上げる。そしてすぐに魔力を操り、頭上に光の玉を生み出した。
拳ほどの大きさをした光の玉に、魔法使いであるルチルが反応する。
「あ、ライトボールですね」
「今のルーチェが唯一使える攻撃魔法だね」
「そういえばレベル7でしたね」
メイが答えると、そういえばそうだったとルチルは納得した。
魔物や精霊獣などは、レベルを上げないと固有スキルが強くならない。自身のレベル=固有スキルのレベルだからだ。ルーチェの今のレベルは7だ。故に固有スキルもレベル7となる。使える魔法も2つくらいしかない。
その上、固有スキル名が<光精霊獣・幼>となっている通り、ルーチェは幼体の精霊獣だ。なのでライトボールを抜かしたら、他の攻撃手段は噛み付くかひっかくくらいしかない。正直効果は期待できないだろう。
(まぁ僕達がサポートすれば問題無いけどな)
ピンっ!と尻尾を立てているルーチェの後ろ姿を見守りながら、ナインはいつでも割り込めるよう重心を少しだけ落とす。
ルーチェは魔力操作を駆使し、甲虫に向けてライトボールの狙いを定める。
「ふにゃんッ!」
ビュンッ!
狙いが定まったのか、ルーチェは力を込めた声で鳴くと勢いよくライトボールを撃ち出した。
バシッ!
「ッキシャ!」
真正面からライトボールを受けた甲虫が、少しだけ大きく鳴き声を上げる。
頭部に直撃だった。だが、正直効果があったようには見えない。威力としては叩かれたくらいだろう。
「キシ、ギギギ」
攻撃をされた事に怒ったのか、甲虫の鳴き声が変わった。そして先程よりも早い速度でルーチェに近づいていく。
「んにゃ!みにゃ!」
1発撃った事で慣れたのか、ルーチェがライトボールを連発する。避ける気が無いのか甲虫にバシバシと当たっていくが、先程と同じく威力不足でダメージらしいものは見えない。
「キシャー!」
足を止めた甲虫が、耳障りな鳴き声を上げると背中の甲殻を開いた。そうしてすぐに、中から半透明の翅が出てくる。どうやら飛ぶ気のようだ。つか最初から飛べよ。
流石に飛ばれたらどうしようもないのだろう。ルーチェが焦ったような様子でこちらを振り向いた。
「みゃ!んにゃにゃん!」
ちょっと!飛ばれたら無理です!だろうか?態度と声から何となくそう言っているように聞こえた。
「わかったよ、ルーチェはメイのとこまで下がってて。メイ、お願いね」
「はーい。ルーチェ、おいでー」
「みゃん!」
急いで後ろに下がるルーチェと交代するように、僕は飛び上がった甲虫に向かって走る。
必要無いとは思うが甲殻を持つ魔物なので、念の為振切剣のアビリティを発動する。剣を持つ右手に、刀身の振動がほんの少しだけ伝わってくる。
「悪いけど、飛ぶのは無しで」
今にも飛び回りそうな甲虫の正面に近づくと、そのまま中心を狙って上段に構えた剣を振り下ろす。
スッ・・・。
斬った手応えが全く無い。だが間違いなく斬った。
「キシ・・・」
空中にいた甲虫が一声だけ小さく鳴くと、体が真ん中からスッパリと2つに分断され、地面へと落ちた。
緑色の体液が滲み出す断面が、めちゃくちゃ気持ち悪い。だがそんなことよりも
「凄いなこれ、斬った感触しなかったぞ」
振切剣の圧倒的な切れ味に、ナインが興奮する。手応えが一切無く、空振ったのかと思うレベルだった。
甲虫の死骸を足元に凄い凄いと1人で喜んでいると、メイとルーチェが近寄ってきた。
「お疲れ様。凄いねそれ。斬撃音がほとんど聞こえなかったよ」
「んにゃん」
メイの感想にナインの気分が更に良くなる。
嬉しそうな表情で「そうだろうそうだろう」と答えていると、ルチルとグレンもやってきた。
グレンは、そのまま足元に落ちている甲虫の死骸を解体し始めた。雑魚とはいえ、売れるからな。捨てていくにはもったいない。
「お疲れ様です。あの、次は私がやってもいいですか?私も新しい杖を試してみたくて・・・」
遠慮がちにしながら自分も戦いたいとルチルがお願いしてきた。僕としては誰がやっても構わないので、許可する。
「いいよ」
「あ、じゃあその次私ね」
「んじゃその次は俺だ」
メイが追従してきたと思ったら、早々に解体を終えたグレンまで戦いたいたいと言いだした。
断る理由は無いので構わないのだが、理由は何だ?
「盗賊と戦う前に、武器を試しておきたいから」
という事だった。
まぁ気持ちはわかるし割と重要な事だろう。同じ実戦だが、盗賊を相手に初使用するより、雑魚に試す方が安全だからな。
「それじゃあ順番にやってこうか。ルーチェも大丈夫か?」
「みゃん」
「大丈夫みたいだな。頑張ってレベルアップしような」
「みゃー!!!」
改めて気合を入れたのか、今まで聞いた中で1番大きな鳴き声が、森と街道に響き渡っていった。
今欲しいものは、使いやすいペンケースです。
使ってたやつがボロボロになってしまったので、ペンやらなんやらが
そのままカバンに入ってます。
消しゴムが毎回プチ行方不明です。
また明後日。