193 夕日と浜辺
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「あー、暑かったから冷たくて気持ちいい」
「服濡らすなよ」
夕焼けに染まる空の下、ナインとメイは宿に帰る前にと町の西側に位置する浜辺にやってきた。
メイは裸足になって波打ち際で遊んでいる。僕は砂浜に座り、そんな楽しげな彼女を静かに眺める。
「大丈夫だよー!」
夕日を背に、パシャパシャと水を跳ね上げる彼女へ気を付けろと声をかける。すると、こちらへ振り返り大きく手を振ってきた。
手の振りとそよ風によって、彼女のワンピースがふわふわと揺れ動く。僕が買ってあげたワンピースだ。どうやらいたく気に入ったようで、購入すると服屋ですぐに着替えていた。喜んでもらえたなら良かった。
「あ、おとと・・・、危ない危ない」
「帽子も落とすなよ」
彼女の振った手がぶつかり、頭の上の草で編んだ麦わら帽子みたいなものが落ちそうになっていた。
この帽子は、お土産屋で見つけたものだ。日焼けはしないが日差し避けには丁度いいと、揃って購入した。なので僕も被っている。ちょっとだけ気に入っているのは秘密だ。
再度気を付けろと声をかけながら、僕は手を振りかえす。それと同時に、服屋から出た後のこと思い返していた。
あれから服屋を出た二人は、クリアマリンをあっちこっちと歩き回った。
お昼はオープンカフェのような場所で食べた。僕はフルーツサンドとパイナップルジュースを注文し、メイはフルーツサンドは同じだが、飲み物はコーヒーを注文していた。
苦いやつだったよな?飲めるのか?と心配していたら口につけたメイは途端に渋い顔をした。
『う、苦い・・・』
『何で頼んだんだよ・・・。ほら、僕のジュース』
案の定だった。まぁカッコつけたのだろう。まともに飲めず、僕のパイナップルジュースを飲んだ後、自分用にマンゴージュースを頼んでいた。
町巡りに関しては、面白そうな店や気になる場所を見つけては足を運ぶ、といった感じだった。
ほぼ見るだけなのでただの冷やかしだったが、それでもこの地域特有の物が多く、見ているだけでも楽しかった。だが、太鼓のような打楽器や縦長の変わった仮面などは、まぁお土産的なのでわかるが、ココヤシの苗木なんて誰が買うんだろうか?持って帰って庭に植えるのか?
途中で魔道具店巡りをしていたルチルにも出会った。
『見て見て!ナインが選んで買ってくれたんだよ!』
『可愛いですね、良く似合ってますよ!』
『でしょ!』
メイが買ってあげたワンピースを見せ、楽しそうに話していた。
それから少しだけルチルと立ち話をした。
僕が、何か良い魔道具はあったか聞くと、『面白い物がありましたよ!!』と興奮気味話し始め、すぐさまマジックバッグから購入した魔道具を取り出した。
『これです!!』
やたらとゴテゴテしており、なにが何だかわからない。かろうじて、何かをセットするのだけはわかる。そんな感じだ。
『何だこれ?』
『全自動魔道缶切りです!』
缶詰をセットしスイッチを押すと、全自動で缶の蓋を開けてくれる魔道具らしい。
旅では・・・、使い道がある、かもしれない。たぶん。缶詰買ってないんだけどなぁ。今度買っとくか。というかこの魔道具、いくらしたんだろう?なんか性能の割に高そうな気がする。
その後、10分程ルチルと話したナイン達は、また宿でと別れ、町の観光に戻った。まぁ内容は、先程までと同じ冷やかしだ。
そうして夕暮れ時になり、戻る前にと浜辺にやってきた。
波打ち際にいたメイがこちらへと戻ってくる。そして彼女は、僕のすぐ横まで来るとそのまま隣に座った。
二人の視線は海へと向けられ、無言の時間が流れる。
どうしたんだ?と思ったナインは、チラリとメイへ視線を向ける。彼女の顔には、真剣でありながら悩むような表情が張り付いていた。
「どうした?」
視線を海へと戻したナインは、何かあったのかと声をかけた。
メイは口を開けては閉じ、開けては閉じを数度繰り返すと、ゆっくりと言葉を溢した。
「ねぇナイン。ラグナロクの魔人を、ううん、人を殺した事、どう思ってる?」
唐突な内容に、内心で少しだけ驚く。
何だ?本当にどうしたんだ?と思ったナインは、メイへと振り返り、彼女の顔をしっかりと見た。
水平線へと向けられた彼女の顔には、先程と変わらず真剣でありながら悩むような表情が浮かんでいた。
(ああ、なるほど。真面目な話か)
彼女の変わらぬ表情から、大事な話であり、ずっと聞きたかったんだろうというのを察する。
視線を海へと戻し、同じように水平線へと向けると、ナインは自身の考えをしっかりと言葉にした。
「後悔とか、そういうのは無いよ」
たぶん、彼女が聞きたいのはこういう事だろう。
殺人を経験し、殺した事への後悔や罪悪感を感じていないか。感じていたとして、それを隠していないか。悩んでいないか。メイは、その辺をずっと心配していたのだろう。
今になって聞いたのは、聞くタイミングがなかった事と、僕の様子からどう感じているのか察しようとしたからだと思う。
僕の言葉を受けたメイは、変わらず海へと向いたまま問いかける。
「全く?」
「うん」
彼女の問いにすぐに返す。
殺した事に後悔はない。罪悪感も特に無い。ああ、別に殺人に何も感じないとかではないよ。罪無き人を手にかけようなんて思わないし、悪人だから殺しまくるとかも思ってない。
カルヴァースの時は、状況から見て確実に解決するには、殺すという選択が一番不安要素が無いものだっただけだ。まぁ僕達が強くなかった故にそれしか選べなかったとも言えるけど。
僕達が強ければグラベルを殺さず無力化し、洗脳の魔眼に対する対策なんかも出来たのだろう。そうして生かして確保する事が出来たら情報源も増え、ラグナロクに関する情報がより多く手に入れられたかもしれなかった。
だがそれは出来なかった。僕達が強くなかった、いや、弱かったが故に。
だから殺すしか選べなかった。
殺すしか選べなかった自分の弱さについては、ちょっとばかり忸怩たる思いはあるけどな。
とはいえ、優先順位を考えればそれも仕方ないと言えよう。後々のことを考えれば情報源は、出来る限り生かしておきたいがそれを優先した結果、罪無き人が傷付く事になっては本末転倒だからな。
未来を考えるのも大事だが、僕らが生きているのは今なのだ。そして今を守れなければ、その先の未来もまた守れないのだ。
「そっか。なら良かったよ」
ホッとした様な声でメイが呟いた。
「気にしてたのか?」
「まぁね。心が繋がってるから、そこから辿ればナインの感情をある程度把握出来るんだけど、限界があるからさ。隠されたりするとわかんないし」
「あー、そういう事か。本当は落ち込んでるのに、隠したりしてるんじゃないかって心配したのか」
過保護だな。でも本当に落ち込んでたらどうしたんだろう?人との戦闘は禁止とかにされたのかな?
「うん。大丈夫だとは思ってたんだけど、やっぱり心配だっからさ」
ちょっとだけ申し訳無さそうな声色で、そう言ったメイは、それから「いきなりでごめんね」と口にした。
「気にしてないよ。でも、聞くタイミングが無かったってのもあると思うけど、今このタイミングで聞いたのは何でだ?」
別に今じゃなくてもこの先聞くタイミングはいくらでもある。もちろん早い方がいいだろうけど、何もデート終わりにする話では無いと思うんだよ。
そんなナインの質問に、少しだけ調子を取り戻したメイは、その理由を教えてくれた。
「あぁそれはね、もちろん心配だったってのもあるけどそれ以外に、今後盗賊と戦闘する事があるかもしれないからだよ」
「ん?盗賊?」
心配という思いとは大きく違うメイの言葉に、ナインは首を傾げる。そんな僕の様子に、メイは盗賊について一つずつ教えてくれた。
アルメガ地方は治安が良かったため、盗賊が現れる確率はかなり低いが、他の大陸では違う。街道周辺にちょくちょく現れるらしい。
狙われるのは主に商人だが、たまに冒険者も襲われたりする。そしてそういった狙われた者達から情報が集まったりすると、ギルドから盗賊討伐の依頼が出るらしい。
盗賊討伐の依頼は、生死不問である。殺してもいいし、生かして連れてきてもいい。ただ基本は殺すらしい。生かして連れてくるとリスクが高いからな。
ただ生かして連れてきた際は、町の兵士に引き渡される。兵士はそこで盗賊達の犯罪のチェックを行う。そこで判明した罪の重さによって刑罰が決まるのだが、殺人などの重い罪を犯していた場合、危険な鉱山や魔物との激戦地に犯罪者奴隷として連れていかれるのだとか。
ちなみに、旅の途中で盗賊に襲われた場合、殺したとしても何も問題は無い。寧ろ殺せるなら殺せと推奨すらされている。
まぁ生かす意味は無いからな。下手に生かしてまた盗賊行為をされたりしたら最悪だ。
そしてこれらを聞いて、メイが今回の事を聞いた理由がちゃんとわかった。
「盗賊と戦闘になった際、ちゃんと戦えるか心配になったのか」
人を殺した事を後悔したりしていた場合、戦えない可能性があったからだ。
「うん。それとこの間ルチルと話してて思い出したんだけど、冒険者ランクを上げる条件に盗賊討伐があるんだよ」
「なるほどね。だから早めに聞いといたのか」
ランクアップ条件の中に盗賊討伐があるのは、人と戦う経験という面でだろう。いや、場合によっちゃ人を殺す経験だろうか。
人との戦闘で追い詰められたり切羽詰まった状況になった際に、殺すという選択を選べない、もしくはそもそも選択肢にすら無い者は、高確率で死ぬだろうからな。
「そういう事」
「僕は大丈夫だよ。寧ろ悪人なら容赦無く斬れる」
場合によっては、思いついた技の試し打ちにするかもしれない。人と魔物じゃ肉体の強さが違うからな。気兼ね無く試せそうだ。
あれを試そうこれを試そうと考えていたナインは、少しだけ楽しみになりニヤニヤとした表情を浮かべる。
「やるのはいいけど、スプラッタはやめてね。食欲失せるから」
まだ何も言っていないのだが、心を読まれたのかメイからジトっとした目で釘を刺された。
「大丈夫。その辺は僕も嫌だから気を付ける。さて、それじゃあ帰る前に僕もちょっとだけ海で遊んでみようかな」
無理矢理話題を変えた僕は、メイの視線から逃れる様に立ち上がると、そそくさと波打ち際まで走る。
「あ!待って!私も行く!私も遊ぶ!」
もう心配などしていないのだろう。メイが自分もと立ち上がり、ナインを追いかける。
橙色から黒へと変わる空の下、白髪の男女の笑い声が浜辺で響く。
二人の声は、空が完全に暗くなるまで止むことはなかった。
食べ物のジャンル?でデカ盛りというものがありますが
私はあまり好きではありません。
せっかくの美味しい食事を、「辛い」、「キツイ」と言って口に運び
制限時間なんてものがあるため味を楽しむ余裕など無くなっていき、急いで食べなくてはならなくなる。
正直、意味がよくわかりません。
食事は、美味しいものを美味しいと思える範囲で食べるのが一番だと思います。
なので私は、好きなものを好きな量食べられるビュッフェスタイルが大好きです。
コロナがあってから行けてないんですけどね。
また明後日。